川崎市での児童殺傷事件、元農水事務次官の長男刺殺事件など、“引きこもり”について語られる事件が相次いでいる。
事件と安易に結びつけることは注意しなくてはいけないが、引きこもり自体は、若い層だけでなく、40~64歳の引きこもりの人が全国で約61万人いるとの推計値を内閣府が今年3月に発表するなど、社会問題になってきている。
対策を講じる必要性がある中、引きこもりの就労支援として珍しい取り組みを行っている団体があり注目されている。
石川県の障害者向けビジネススクール「カラフル・金沢」では、今年の4月からゲームコースを開設し、ゲームを通じて引きこもりの就労支援を行っているという。
ホームページをみると、「ゲームに興味のある方が、ゲームでコミュニティをつくったり、ゲームに関する仕事に就きたいと思っている方」の参加を呼びかけていて、プレイするゲームの中には近年注目されている「eスポーツ」も含まれている。
ゲーム依存が引きこもりを助長するという意見もある中で、逆転の発想に思えるが、一体どのような就労支援を行っているのか?そして4月に開設してどのような効果が出ているのか?
「カラフル・金沢」の別宗利哉スクール長に話を聞いた。
eスポーツなら「ぷよぷよ」や「ウイイレ」
――ひきこもりの支援策としてゲームに注目した理由は?
引きこもりがちの人が、好きなものにテレビゲームを挙げるケースが多いです。
ゲームにマイナスなイメージを持つ方もいらっしゃいますが、ゲームが好きな人はそのままゲーム好きで良いんです。
「その人らしさを社会に活かす」というのが、我々、カラフル金沢のコンセプトです。
その人が自分自身でいられることを大事にしています。「俺の得意なゲームができるなら行ってみようかな?」という人が学校に足を運んでくれるきっかけになればと思い始めました。
――ゲームコースは、どんなことをする?
ゲームの種類はボードゲーム、TVゲーム、カードゲーム、など様々。
eスポーツだったら、対戦型パズルゲームの「ぷよぷよ」やサッカーゲーム「ウイニングイレブン」など。
すべてのプログラムは施設職員が決めているものではなく、利用者たちが話し合って自主的に決めています。
――どんな話し合いをするの?
毎月1回会議を開きます。
利用者たちがそれぞれやりたいことをプレゼンし、それを聞いて、みんなでどれにするか話し合って決定します。プログラムまでのスケジュール、内容、準備するもの、役割など考えていきます。
――ゲームすることがどのような社会復帰につながる?
ゲームをきっかけに通ってもらい、朝型の生活リズムに変える。
就職に向けたサポートをするコース(ビジネスコース、企業コースなど)にも参加してもらい、働けるようになることを目指します。
また、ゲームをプレゼンすることでプレゼン力、自己表現力、みんなで楽しむためのコミュニケーション力などが養われると考えています。
――実際にゲームコースを利用した人たちに変化はあった?
生活リズムが整わない人が整う人、自主的な行動ができるようになる人もいます。
ゲーム以外のコース(ビジネスコース、企業コース)などへの参加率が上がり、勤労意欲が強まる人もいます。
利用者が“ゲーム依存”について自発的に議論
――「ゲーム依存を誘発する」という意見についてどう思う?
ちょうど先月、利用者から提案がありました。“ゲーム依存”についてディスカッションしたいと。
みんなで話し合い、こんな意見がでました。
「我々は、ゲームをしてるために来ているわけじゃないよね。」
「ゲームだけがしたいなら家で1人ですればよい。」
「ゲームをきっかけに仲間作りすることが大事だよね。」と、この問題に関しては、利用者と今後も向き合っていきたいと思っています。
――参加者の中には、ゲーム会社で働くことを希望する人もいるというが、 ゲーム会社への就職の道はあるのか?
ゲーム会社の担当者に来てもらい、在宅勤務できるテレワークについて説明してもらったこともあります。
ゲームコース開設前に、卒業生がゲーム会社に就職しているので可能性はあります。
ただし、みんながみんなゲーム会社に就職したいためにゲームコースを選ぶわけではありません。
ゲームコースに参加して、事務の仕事がしたい人もいますし、モノづくりがしたい人もいます。我々は利用者の方がやりたい仕事に就けるようサポートするだけです。
――ゲームコースの将来的なビジョンは?
こうあって欲しいというものではありません。福祉事業所としてその人らしさを社会に活かすことをベースにしていきたいです。
利用者が、自分自身のことを深め、より工夫したり、より協力したり、より助け合えることができる1人1人になれるよう応援したいです。
――引きこもりの人やその家族にメッセージをお願いします
自分が夢中になれることを我々に教えて欲しいです。どんなことでもいいです。
社会があなた自身の世界観を広げていくお手伝いをします。
家族の方もお子さんの夢中になっていることを否定せず、世界観を広げるサポートを一緒にして欲しいです。
引きこもり生活から脱却するには“初めの一歩”が難しいと思われるが、好きなゲームということでそのハードルが少しでも下がるのであれば、意外と効果があるのかもしれない。
まだ取り組みは始まったばかりだが、今後の行方を見守りたい。