紙を使えと決まっている! 国会でペーパーレス化が進まない背景

自民党の小泉進次郎衆院議員らが掲げる国会改革の象徴ともいえる超党派組織、『「平成のうちに」衆議院改革実現会議』の第5回会議が6月4日に開かれた。

超党派「平成のうちに」衆議院改革実現会議(6月4日)
超党派「平成のうちに」衆議院改革実現会議(6月4日)
この記事の画像(5枚)

「先週の衆議院の本会議におきまして、質問主意書、このペーパーレスが実現しました。」

小泉氏が会議の冒頭で成果を強調したのは、国会議員が政府に書面で質問を行う際の文書「質問主意書」と、それに対する政府の「答弁書」を、ペーパーレス化するための衆議院規則の改正が5月30日の衆議院本会議において全会派一致で議決されたことだ。

これによって今後、年間で約5000万円の経費削減、すなわち国民の税金が使われずに済むこととなる。

小泉進次郎衆院議員
小泉進次郎衆院議員

ここで注目していただきたいのは、ペーパーレス化実施のために行った衆議院規則改正の内容だ。今回改正された衆議院規則第158条は、これまで以下の条文になっていた。

「議長又は議院の承認した質問主意書及びこれに対する内閣の答弁書は、議長がこれを印刷して各議員に配布する。」

今回の改正ではこの「印刷して配布する」の部分を「電磁的記録の提供その他適当の方法により各議員に提供する」と変更したのだ。

つまり、これまで国会において質問主意書や答弁書に紙を使用していた理由は、「印刷して配布する」と衆議院規則で明確に定められていたからなのである。世の中では、民間企業を中心にペーパーレス化として、会議などでのタブレット端末の導入が進んでいる。しかし国会では、紙での配布をネット掲載に変更しようとするだけでも、「印刷」という規則を正式な手続きで変えなければならないのが現実だ。

どれもこれもまずは文言修正から

小泉氏は会合で更に「今日はお手元にペーパーレスの課題があといくつ残っているのかというのを金額入りで資料をお配りさせていただきましたが、これは上から下まですべて足すと4億6000万円となります」とまだまだ同様の理由からペーパーレス化ができないものが多く存在すると強調した。会議で配布された資料を元に見てみると、以下の通りだ。

▽『委員会議録』(国会で開かれる各委員会の議事録など)
衆議院規則第63条「委員会議録は、これを印刷して各議員に配布する
(一昨年度の作製・印刷費用約2億2300万円)

▽『請願文書表』(国民が直接国政に対して要望や苦情などを述べるための請願文、その趣旨や請願者の情報などを記した一覧表)
衆議院規則第174条「議長は、請願文書表を作成しこれを印刷して各議員に配布する
(同約600万円)

▽『衆議院公報』(衆議院の会議や委員会日程などを記載)
国会法73条「議院の会議及び委員会の会議に関する報告は、議員に配布すると同時に、これを内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人に送付する
衆議院規則第110条「議事日程は衆議院の公報に記載し、且つ、官報に掲載し、各議員に配布する
(同約4500万円)

確かにどれも紙に印刷しての配布を前提にした条文であるため、法律や規則の改正を行わない限り、永遠に紙を使用しなければならないのが現状であることがわかる。

これを変えるには、1つ1つ規則を改正しなければならないのだが、今回行われた質問主意書や答弁書についての規則改正も、去年の10月に国会に提案してから実現までには国会をまたいで半年間を費やした。しかも、実施されるのは次々国会からだという。

また、小泉氏も「これは国会法を変えなければできない」と言及した『衆議院公報』などは、「衆議院に加えて参議院での議決も必要になり、衆議院規則の改正よりさらに複雑(自民党関係者)」なため、より手間と時間を要する作業となる。

とはいえペーパーレス化を、国会議員が一致して本気でやろうと思えば、法改正などあっという間にできるのも事実だ。

それでも改革が進まないのは、与党内からの「まるで文化祭のようだ。ペーパーレス化が少し進んだくらいで騒ぎ過ぎだ(自民・閣僚経験者)」との冷ややかな視線や、小泉進次郎氏ら若手に手柄をたてさせることへの抵抗感、昔からの慣行を変えることへの国会全体の消極論、多数派による国会運営への抵抗手段が奪われることを警戒する野党の思惑など、様々な要因がある。

一見簡単に見える国会改革だが、なかなかどうして、手続き論が重視され、利害関係や駆け引きが渦巻く永田町では、そう簡単には進まないのが事実のようだ。

フジテレビ政治部 自民党担当 福井慶仁

福井 慶仁
福井 慶仁

フジテレビ 報道局社会部 元政治部