世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin English」。今回は、5月31日(日本時間)ブルームバーグのツイートから。
モーリー:
今日は大ネタを仕込んできました! 度々紹介している「レアアース」の話題です。
まずはツイートに行ってみましょう。
Beijing has readied a plan to restrict exports of rare earths to the U.S. if needed, sources say.
中国政府、必要ならば対米レアアース輸出規制の準備があると関係者が明かす。
「if needed」これ、私の大好きな言葉です。 「必要とあらば」という意味ですが、 いかにもBeijing=中国政府らしい言い方ですね。
米中両国が貿易戦争長期化への備えを固める中、最近よく出てくる英単語が「dig in」。かかとを土に押し込んで、一歩も引かない、押されても押し返すという表現です。
両国ともdig inしている。塹壕を掘って第一次大戦型の消耗戦に備えているというような状況。
そうした中で「中国は必要ならばアメリカへのレアアース輸出規制の準備もある」と複数の関係者が明らかにしているというのです。
“レアアース大国” 中国に依存しているアメリカ
ハイテク製品の素材として欠かせないレアアース。中国は世界のレアアースの80%を生産しています。では、アメリカに対してはどれほどのシェアを持っているのか?
この記事の画像(4枚)こちらもなんと80%! アメリカの約80%のレアアースが中国から供給されており、エストニアの6%、フランスの3%、日本の3%、その他の8%を足し合わせた約4倍にも上ります。
しかし、レアアースの輸出規制は、中国のサプライチェーンへの信頼を失う行為でもある。「中国経済の停滞を招きかねないため、実施しないのでは」とする見方もありますが、私からすれば、それはやせ我慢だと思います。
2010年、尖閣問題で中国によるレアアース輸出規制が発動された時も、世界は瞬間的にパニックに陥りました。その結果、日本のメーカーは中国のレアアースに依存しないよう製造工程の対応を行っています。もし中国が本気でストップした場合、アメリカ企業が回復するには10年単位の時間を要するでしょう。
アメリカが自国や他国でレアアースを生産するには課題があります。まず、コストが高すぎること。それから、環境面でも毒性などの影響が考えられます。
特に後者を考えると、リプレイスは難しい。そこを睨んで、中国は強気に出ているんですね。
中国は他にも、コバルトやリチウムなどの非鉄金属でシェアを握っている強みがあり、4年サイクルで動いている民主主義のアメリカとは違った時間軸で、長期戦略を練る事が出来るのです。
中国の「北極進出」構想
さらに、日本では大きく報道されていませんが、最近、海外でよく取り上げられている面白い話があるんです。それは、中国の北極点を越えたグリーンランド進出!
グリーンランドは北極海と北大西洋の間に位置する巨大な島で、面積は日本の数倍ありますが、人口はイヌイット系の先住民を中心にたったの5万8000人ほど。
約80%が氷で覆われていたのですが、温暖化が進み北極は南極の何倍もの速さで溶けています。グリーンランドも例外ではなく、氷床の融解が加速した結果、なんとレアアースが出土したんです。
このレアアースに王手をかけているのが中国。かつては凍土の為に通過できなかった航路が確保されれば、出土した多くのレアアースに中国が手を伸ばします。
また、先住民を中心に自治政府があるグリーンランドでは、デンマークに対する歴史的禍根があり、独立機運が増しています。もし住民投票で独立を決めた場合、世界最貧の国になってしまう可能性も。それに対して、中国交通建設というインフラ大手が、レアアースを運び出すための600億円規模のジェット機用滑走路を建設しようと言い出しているのだとか。
東西に延びる一帯一路に加えて、北極回りの南北一帯一路に進出しようということなんです。
そして、滑走路の建設や資金供給の他にも「孔子学院を設置するよ」と言っています。孔子学院とは、中国語と中国の歴史観を教える、中国政府が丸ごと面倒を見てくれる学習機関。
予算が全く無い、しかし、デンマークから独立したい。そんなグリーンランドに対して、中国は最大級の“おもてなし”をしています。これが最終的には、中国が食い込むベルト(航路)となり、ロシアも通行料を取って「通っていいよ」なんて言い出したら、「非米」の力が広がり、北方領土の地政学的な意味合いも変わってきます。
レアアースと一帯一路という、中国の20年単位の長期戦略の力を改めて確認しました。
(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 6/5 OA モーリーの『Twittin English』より)