世界の若者代表による「Y20サミット」が日本で初開催

日本初開催となるG20大阪サミットが1か月後に迫る中、5月26日から5日間にわたって、東京都内でG20各国の若者が集結する「Y20サミット2019」が開催された。

Y20サミット(5月27日)
Y20サミット(5月27日)
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「Y20サミット」は、G20サミットの公式な付属会合と位置付けられ、日本での開催は初めてとなる。会議での議論や講演は全て英語によって行われ、G20各国から各2人で構成される40人の代表が議論を行う。

その代表の条件は30代以下の「専門性を持つ若者」となっていて、教育や政治経済を専攻する学生から、国の首相に対する政策アドバイザーを務める若者、起業家など多士済々が集結した。さらに会議にはIMF(国際通貨基金)やWTO(世界貿易機関)など国際機関からもゲストが参加した。

この会議の目的は、来月のG20サミットでも議題になる様々な国際的課題について、代表団が議論を行い共通の理解を得た上で、若者ならではの政策提言をG20首脳に向けて発表することにある。日本代表団には三井物産に務める揚岩康太さんと、アメリカのシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で研究員を務める越野結花さんが選ばれた。

日本代表団の揚岩康太さん(左)と越野結花さん(右)
日本代表団の揚岩康太さん(左)と越野結花さん(右)

ここでは、2018年に日本代表団としてカナダでG7サミットの公式会議(Y7サミット)に出席し、今回の会議でも事務局や議長役を務めた谷本英理子さんらへの取材も元に、白熱の5日間についてお伝えする。
(谷本さんの以前の記事:https://www.fnn.jp/posts/00321180HDK

小泉進次郎氏も英語で講演“未来のリーダー達へ”語った思い

講演する自民党・小泉進次郎議員(5月27日)
講演する自民党・小泉進次郎議員(5月27日)

議論が開始された5月27日には、自民党の小泉進次郎議員が登場し、自己紹介から質疑応答まで全てを、流ちょうな英語で行った。

時を同じくして、アメリカのトランプ大統領が来日中とあり「昨夜、相撲を見に行った人はいる?いない?アメリカから来た誰かさんのように(笑)」と砕けた様子で話し始めた小泉氏。
自らが初めて訪問した外国はオーストラリアであったこと、そして海外で暮らすことを決意した(小泉氏は20代に米国留学・米国のシンクタンク勤務の経験あり)のは、父である小泉純一郎元首相から「日本にいたら日本のことはわからない」という言葉をかけられたことが影響しているという自己紹介を行った。

そして小泉氏は、G20各国や日本が抱える課題について問われると、「日本の課題はシンプル。人口減少だね。」と話した上で、「日本人は100歳まで生きるようになる」と強調。
さらに小泉氏は「将来、皆さんの国も皆さんも、日本のようになるので、『人生100年時代』という言葉は、みんなにとってのキーワードになる」と述べ、自らが推進している「人生100年時代」の政策について力説した。

会場の世界の若者達もそれに大きく反応し、「ドイツやフランスが平均寿命を延ばすことができない中で、なぜ日本はできたのか?」「日本の長寿から学べることは?」などの質問が相次いだ。
ちなみに小泉氏は日本人が長寿である理由について「答えは簡単。お寿司をもっと食べることです(笑)。(the answer is very simple. Eat more sushi.)」と会場を笑わせつつも、日本人が野菜や健康食品を好むことや、消費税が0%の時代から国民皆保険制度などの社会保障制度を充実させてきた歴史があることを説明した。

当初は、「仕事の未来」というテーマで質疑が行われる予定だったが、小泉氏の「人生100年時代」の発言に会場がひきつけられていった形だ。小泉氏は結びとして、会場の出席者たちに対して次のように語った。

「あなたがやりたい仕事の未来ではなく、あなた自身の未来について考えてほしい。日本人にとって仕事は仕事だけではないんです。仕事は人生です。だから、仕事の未来について考える前に、自分の未来について考えて欲しい。どんな人になりたいか。そしてどんな未来を望み、どんな人生を望んでいるか。それは『人生100年時代』の異なる表現でもあるから。20カ国以上から集まった皆さんには、大きな目標を共有してくれることを願っています。未来のリーダーから、未来のリーダーへ。ありがとうございました」

会合後に小泉氏はFNNの取材に対し、「確信したのは人生100年時代という言葉は日本の売りになるということ。あれだけ100年時代ということに、多くの国からものすごい関心を持たれて、しかも学びたい、そういう質問が多く出たことは、確信しましたね。やっぱり100年時代は日本のニューフロンティアだということを」と嬉しそうに話した。

環境問題で激論…“現代の奴隷”を巡っての苦悩

今回の会議ではG20でも議題となる「仕事の未来」「国際貿易」「ビジネスと環境」の3つのテーマについて、議論が進められていったが、G20首脳会議さながらの白熱した議論があった。

20世紀に環境汚染をしたのは先進国のはずなのに、21世紀になってから、他の国にも強い規制を課すのは不公平ではないか」
環境保護は世界全体の課題なのだから、全員で取り組んでいくべきだ

「ビジネスと環境」の議論では、G20でも主要議題の1つとなる、地球温暖化や海洋プラスチックごみなどの環境問題も大きな論点になった。すでに経済成長を経て環境分野への取り組みが進んでいる先進国が「環境保全」を訴える一方で、発展途上であり環境規制の導入が難しいその他の国は、一律の目標を作ることに異論を唱え、対立する場面もあるなど、最も議論に時間が費やされた。

「国際貿易」の分野では、「将来の貿易」という点が1つのポイントとなった。そこでは様々なデータを管理・統制する「データ・ガバナンス」に焦点を当てたいという見解で一致したが、「誰がデータ流通の国際基準・ルールを作り、実行するのか」という点で議論が難航、「既存のWTOの枠組みで」という主張がある一方で、「WTO改革を待っていられないから、新しい機関を作るべきだ」との声も挙がるなど白熱した。

さらに、議論の焦点の1つとして「現代の奴隷」という言葉も浮上した。「奴隷」と聞くと違和感を持つ人もいるかもしれないが、世界には子どもを含む人身売買や、借金による拘束、強制労働、強制的な結婚などに直面している人々が約4000万人いるとされている。そういった「現代の奴隷」という問題を提言に盛り込むにあたって、限られた字数の中でどこまで背景説明や問題提起をするのか、実行目標まで盛り込むのかなども議論になった。

日本開催に向けた事務局の苦労…日本流の“おもてなし”も

一方、こうした国際会議の企画運営を支えているY20の事務局スタッフ達に目を向けると、日本ならではの細かい気づかいや、“おもてなし”の努力が垣間見えた。

Y20委員会会長の千葉宗一郎さんによると、そもそも、Y20サミットの日本初開催に向けては、2016年から構想をスタートさせ、2017年にはG7伊勢・志摩サミットに合わせてY7サミットも企画してきた歴史があるという。当初は、公式な付属会合としての位置づけもない中で、政府からの資金援助もなく、人も限られた状況で、協賛企業探しや、20か国との連携など、大変な苦労があったという。

しかし、「この企画が世界各国の若者にとり有意義なものであり、G20へ政策提言を行うことが出来る唯一の公式の場として、世の中のためになることであると信じ、みんな頑張ってきた」と述べるように、政府への申し入れなど、長い努力の積み重ねが、今回の日本初開催につながったのだという。

また、事務局の中心メンバーは約20人いるものの、8割は社会人で、時間的な制約がある。それでも、それぞれの専門性を生かす形で、開催の1年前からオンラインミーティングを始め、平日の深夜や毎週末に会議を重ねて、今回のY20サミット開催の準備をしてきたという。そして会議の開催中も、20か国の出席者たちは歴史も文化も宗教も異なる国々であるため、食事の面でのフォローや時間管理など、様々な苦労があったようだ。

一方で、議論だけでなく、今回の会合が「各国の代表団にとって素晴らしい経験となることを目指そう」という考えのもと、狂言や茶道などの日本文化を紹介する機会や、日本の「食」を発信する場も設けた。また、G20でも大きな議題となるプラスチックゴミに配慮して、プラスチック製品を食事の際に使用しないことも徹底した。こうした、国際的課題も意識した上での日本流の細やかな“おもてなし”は出席者からは好評を得ていた。

出席者に振舞われた「おにぎりスタンド」
出席者に振舞われた「おにぎりスタンド」
大好評だった「茶道セッション」
大好評だった「茶道セッション」

政策提言の中身は?

こうした侃々諤々の議論、そして事務局の細かい調整の成果もあり、5月29日に政策提言が無事に取りまとめられた。

その内容だが、まず前述の激しい議論が行われた、「ビジネスと環境」については、「2030年までにG20各国のすべての企業が持続可能な社会づくりへの貢献に関わるアニュアルレポートを作成し、公開することを義務化する」とした。2030年という長期の目標を設定することで、先進国とそれ以外の国の間での妥協を図った形だ。

海洋プラスチックごみ問題については、各国の流通や再利用の割合を観測するための、「各国政府と企業、共通の新しい目標を作る」という文言が盛り込まれた。

「仕事の未来」では、「働く全て人の権利を守るため、同一労働同一賃金の実現」や、若者が国際的に通用できる技能や、起業家育成のための企業の取り組みを推進するための「助成金や優遇制度」などの企業のインセンティブを作ることが提案された。

また「国際貿易」については、「WTOの枠内でルールに基づく、自由で『公正な』多角的貿易を強化するため、監視・通知システムを改善し、産業補助金制度、知的財産権などを改革」との文言が盛り込まれる一方で「WTO改革」も書き込まれるなど、既存のWTOの枠組みが堅持された書きぶりとなり、議論を踏まえより現実的な提言にまとめ上げた形となった。

さらに、この分野で焦点だったデータ流通について、「電子商取引ルール作りの推奨」「新しいデジタルサービスや技術の国際的な基準や規制を設ける」という文言を盛り込めたことは、日本がWTOで電子商取引を巡るルール作りを主導して進めている中、日本代表団として各国を説得して盛り込んだという点で、肝になっている部分だ。

また、「現代の奴隷」については、「現代の奴隷の撲滅を目指した透明性あるビジネスを促進」「貿易協定の中で最低限の人権、そして環境などを意識した持続可能な開発条項を義務付ける」という提言がなされた。

※今回の全ての政策提言については以下のリンクでご覧いただける。(https://y20summit2019.jp/home/

政策提言がまとまった瞬間
政策提言がまとまった瞬間

安倍首相に提言「G20の提言に盛り込みたい」

5月29日に政策提言をまとめた代表団は、その足で首相官邸を訪問して、安倍首相に対して政策提言書を手渡した。

安倍首相は冒頭に「政策提言書は、長い時間を掛けて議論された成果だ。どのように幅広い若者の方々の参加を得たのか、また取りまとめに際して出た様々な意見や御苦労についても、お話を伺ってみたいと、まさにその苦労を私も来月することになるわけでございますので、皆様からお話も伺ってみたいと思います」と挨拶した。

政府関係者によると、その後の意見交換で、安倍首相は今回の政策提言を「G20の課題に沿うもので、このままG20の提言に盛り込みたいくらいだ」と評価していたという。最後には安倍首相が出席者1人1人に対して握手をして回って労うというサプライズもあり、出席者からも喜びの声が漏れていた。

安倍首相に政策提言書を渡す(5月29日 首相官邸)
安倍首相に政策提言書を渡す(5月29日 首相官邸)

今回の一連の会議とその成果について、関係者からは次のような感想が聞かれた。

「若者はチャンスに溢れているのだと感じた。若者は若者の特権である若さと柔軟な声を届けることを恐れずに挑戦することの重要性を痛感した」
「自分とは異なる方法をとる人を『違う』と簡単に一言で片付けてしまうのではなく、何故だろうと関心を持ち、声をかけてみるだけで、大きくその先の未来が異なるのだろうと肌で感じた」
「別れる時には、みんな別れを惜しんで、いつまでもハグしたりしていた。彼らは、文字通り"国境をこえて"仲良くなった。国の問題を背負い、時には厳しく他国と交渉しなければならないG20サミットでは見られない光景ではないか」

各国代表団と委員会メンバーの集合写真
各国代表団と委員会メンバーの集合写真

若者たちによるY20サミットを取材して、若者ならではの粗削りな面はありつつも、こうした取り組みの1つ1つが、将来世界を変える力になるのではないかと感じた。
30代以下であれば、来年のY20サミットの代表団に誰もが応募できる。我こそはと思う方はぜひ応募してみては如何だろうか。

(フジテレビ政治部 中西孝介

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。