無理であっても言い続ける。トランプ“国境壁”の「物語」はもはやフィクション

モーリー・ロバートソンによる世界のツイート解説

  • 壁の建設費を認めない判決
  • 国境沿いに住む人々のリアルな声は?
  • 無理のある「物語」による被害者も...

世界の政治家やセレブ・要人のツイートをモーリー流に翻訳・解説する「Twittin English」。今回は、5月26日(日本時間)トランプ大統領のツイート。

Another activist Obama appointed judge has just ruled against us on a section of the Southern Wall that is already under construction. This is a ruling against Border Security and in favor of crime, drugs and human trafficking. We are asking for an expedited appeal!

オバマの任命した活動家裁判官がすでに建設が始まっているメキシコ国境壁に不利判決(不当判決)を出した。これは国境警備に支障が出る、犯罪・人身取引・麻薬取引を促進する判決だ。速やかに上訴を行う!



モーリー:

まぁ~私が大好きな、ファストフードのような言葉がいっぱい詰まった英語です。「activist」も好き、「expedite」も好き、「Border Security」も大好き。

オバマ政権が任命した(歪んだ、左派の)活動家裁判官(activist Obama appointed judge)が私に楯突いた、と。そうかそうか、この方は犯罪も麻薬も人身売買も大好きな裁判官なんだね(in favor of crime, drugs and human trafficking)という自問自答(皮肉)。そして、ただちに上訴する(asking for an expedited appeal!)と言っています。

背景はこうです。

トランプ大統領は国家非常事態宣言を利用して、議会の承認を得ず、直接、壁建設の予算執行を試みています。しかし今回カリフォルニア州の連邦地裁は、それは権力の乱用であると、編成されていた67億ドルのうち、10億ドルの転用を認めないという仮命令を出したのです。

もちろんトランプさんにとっては痛手ですが、派手なパフォーマンスが好きですから、最高裁まで上訴するでしょう。

トランプの焦り

訴えを起こした団体の中には、ACLU(American Civil Liberties Union)=アメリカ自由人権協会 があります。

どちらかと言えば進歩的な団体のため、共和党は忌み嫌い、活動家というレッテルを貼っています。

ここで、今回のトランプさんの図式を説明しましょう。

トランプさんは目に見える形で公約を達成したい。

アメリカ人の雇用と治安を守るために大きな美しい壁を作ると宣言した以上、 とにかく目に見える形で、日々建設が進んでいる状態が必要です。

そのため、議会にいくら否定されても、壁を作っているという行為を見せなければならない。自分が出した約束を守らなければと、焦っている側面があります。

国境地帯のリアルな声

ものの例えで「人種の壁」と言うことがありますが、今回は「本物の」人種の壁です。それに誰が喜ぶのかというと、アメリカで多くて4割と言われるトランプ大統領の支持層。

外国(特に南米)から不法移民が入り、アメリカの雇用を奪っている。中国や日本が不当なことをして貿易赤字・・・

このような希望的観測が含まれた「物語」の中に「壁」も含まれている。物語を生かすために、壁は、無理であっても言い続ける必要があるんです。

あるカメラマンが3200kmに及ぶメキシコとの国境を5ヶ月かけて旅をしました。何千人もの住民に「壁は必要ですか」とインタビューを行いながら。

写真家エリオット・ロスのWebサイト


そして、「必要」と答えた人はなんと・・・3人。

国境沿いに住む人々は、ヘルスケアや教育改善などの課題解決を求めていたんですね。やばいじゃない、民主党に票が流れちゃいますよと。

つまり、「壁を作ればアメリカは良くなる、経済はよくなる」というストーリーはフィクションに近いのです。

短絡的なストーリーの結末は...

ポピュリスト政治の性(さが)として、短期的で短絡的な公約をうそぶく、支持層に火が付く、もし実現しなければ、また別のところに火を移すという、クライシスからクライシスを自分で作り出しながら、綱渡りをするという手法があります。

このような方法でしか人気を煽れず、超短期的に、4年単位でしか動くことが出来ない。

一方、米中貿易摩擦で、中国側は、別に一生主席が変わらなくても良いと、25年単位で考えている訳です。このような長期戦が出来る中国は明らかに有利で、そのような調整が出来ないのがポピュリズム大統領なのです。

そして、こうした短絡的なストーリーに起因する、コラテラル(付帯的な)ダメージもすでに起きている。

イラク戦争で手足を合わせて3つ失った傷痍軍人のブライアン・コルフェッジ氏(@BrianKolfage)が独自に2000万ドル以上をファンディングで集め、民間で重機を持ち込み、壁を作り始めました。

壁の高さは20フィート、地下にも7フィートあります。

ところが、ニューメキシコ州で差し止め命令が出された。

その理由はなんと「市の条例で6フィート以上は作ってはいけない」という基本的なことだったんですね。

トランプ大統領を信じて突き進んだ結果、一般の方も被害に巻き込まれています。この先も犠牲者が出るかもしれない、そんな印象を持っています。


(BSスカパー「水曜日のニュース・ロバートソン」 5/29 OA モーリーの『Twittin English』より)

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