24人で目指すW杯

女子W杯フランス大会開幕を6月7日に控え、なでしこジャパンは2日に、大会前最後の強化試合となるスペイン戦に臨む。

大会に向けて、最後の実戦の機会だ。

会場となるパリのル・トゥケは、海が近く、気候も温暖で過ごしやすい。週末は観光客で賑わう小さなリゾート地だ。

日本は31日に、FW植木理子の離脱とFW宝田沙織の追加招集が発表された。
チームは前日のミーティングで、植木の思いも背負って戦うことを確認した。

「この4年にかけていた思いは、理子も相当なものだったと思います。チームが一つになれば、理子も嬉しいと思います」(GK山下杏也加)

「理子のためにチームが団結して試合に臨めますし、日本で理子も一緒に戦ってくれると思えることは強みになります」(DF南萌華)

1日にチームに合流した宝田は、植木とは昨夏のU-20女子W杯でともに戦ったチームメートだ。フランスに向かう際に、連絡を取り合ったという。

「理子の分も頑張ってくるから、しっかりケガを治してね、と伝えました」(宝田)

試される守備のレベルアップ

スペイン戦前日練習は、ほどよい緊張感のなかで行われた
スペイン戦前日練習は、ほどよい緊張感のなかで行われた
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チームは、フランスに入る前の国内合宿から守備面の確認を重ねてきた。特に、日本の失点で最も多いクロスへの対応はミーティングを含めてかなりの時間を割き、国内合宿では男子大学生との合同練習で、フィジカルの強い相手を想定したシミュレーションも行っている。

日本の強みは組織力だが、同時に、高倉監督は「フィジカルの弱さを言い訳にしない」「組織に逃げない」ことも強調し、2017年から「フィジカルキャンプ」と銘打った合宿を継続し、1対1の強化を意識的に行ってきた。

広瀬統一フィジカルコーチの下で、スピードのある相手に対するステップの踏み方や、効果的な加速と減速の仕方などを学び、各自でも取り組みを重ねてきた。代表とリーグの各チームが連係して情報共有するなど、リーグ全体での取り組みも強化。その成果はデータに現れているという。

「16年の12月に行った体力測定時よりもスプリント能力を1〜2%高める、という目標を立てて取り組んできました。18年12月の段階で、その目標を達成できました」(広瀬コーチ)

2日に対戦するスペインは、近年、急成長を遂げている国の一つだ。

W杯の欧州予選は5勝1分で勝ち抜いている。FIFAランクは13位で、日本の7位よりも下だが、実際はもっと上と見て良さそうだ。

日本は17年3月のアルガルベカップ初戦で対戦しており、1-2で破れた。足下の技術や体の使い方など、高いテクニックを備えた選手が多く、戦い方にも幅がある。

「相手のボールを簡単には奪えないと思いますが、こちらにうまくペースを持ってきて、ボールを持った時にバイタルまでいかに運べるかが大事になると思います」(高倉監督)

個と組織の両面で、2年前に完敗した当時からの成長が試される一戦になる。

スペインは体格も大きく、技術も高い
スペインは体格も大きく、技術も高い

スペイン戦のキーマン

2年前のスペイン戦がなでしこジャパンでのデビュー戦だったMF長谷川唯は、「(優勝候補の)フランスとスペインが今、一番強いんじゃないかな、と思うほどいいチームです」と、6月2日の試合を控えてスペインの印象を語っている。

2年前の対戦で後半からピッチに立った長谷川は、81分にスルーパスでFW横山久美のゴールをアシストしたが、結果は1点及ばず。内容でも負けを認めざるを得なかった。それから2年間で、チームは着実に力をつけた。一方、スペインもパワーアップしている。

「2年前の対戦は、スペインのA(フル)代表が強くなり始めた時期だったと思います。あの時から2年経って、(1月に対戦した、世界ランク1位の)アメリカとの試合ではスペインがボールを回していました。率直にすごく強いと感じました。対戦できることが楽しみだし、試合を通じていろんなものを吸収したいですね」

長谷川は、ワクワクした様子を隠しきれない口調で言った。長谷川のプレーは、昨年から今年にかけてかなり変化した。ボールに関わりながらゲームを作るスタイルは変わらないが、ポジショニングをより論理的に考えるようになり、相手の出方をうかがいながら効果的に先手を取れるようになった。

「(2年前のスペイン戦は)ただがむしゃらに動いてスペースを空けて、そこを誰かに使ってもらう。ひたすらボールに関わって裏に動き出す。その繰り返しでした。今は計算してスペースを空ける動きをしているし、動いた後に自分が生きるポジショニングも考えています。そういった動きやポジショニングを今回のW杯で出していきたいです」(長谷川)

また、フィジカルトレーニングを継続的に行ってきたため、国内リーグでは中盤でドリブルで仕掛けた際に1人、2人とかわす場面が増えている。
元々豊富だったイマジネーションが様々な形で補完され、長谷川のプレーはいい意味でさらに予測できなくなった。

スペインはいくつかのシステムを柔軟に使い分けるが、4-3-3を使ってくる可能性は高い。もしそうなった場合、警戒するポイントについて、長谷川は2列目のインサイドハーフのポジションを挙げた。それは、日テレ・ベレーザで長谷川がプレーするポジションだ。国内リーグでは4-4-2を使うチームが多いため、インサイドハーフの長谷川のポジションは相手のマークを惑わせやすい。そのポジションで駆け引きを磨いてきたからこそ、逆の立場になった時に、スペインの狙いが読みやすい。

また、高倉ジャパンは、「試合の中で修正していく力」を培ってきた。スペインも、その能力は高い。

「自分たちが(スペインのやり方に)対応すれば、さらに試合の中で対策してきそうなイメージがあります。そういう意味では、ポジショニングや戦術の変え合いという、楽しみ方があるかな、と思います」

長谷川の口調は、やはり楽しそうだった。

2年間の成果は、どのような形でピッチに現れるだろうか。スペインにボールを持たれる時間が長くなると予想しているが、その中で日本は流れを引き寄せ、勝利を掴むことができるだろうか。ここで完璧な試合をする必要はない。W杯本番に向けて、チャレンジできる最後の機会でもある。


(文・写真:松原渓)

『FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019』
日本戦をフジテレビ系にて全試合生中継
<放送日時>
グループステージ
6月10日(月)深夜0時25分 日本×アルゼンチン
6月14日(金)21時49分 日本×スコットランド
6月19日(水)深夜3時50分 日本×イングランド
(※すべて延長の場合あり)

FIFA 女子ワールドカップ フランス 2019特集

松原 渓
松原 渓

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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