培養肉を食べ、遺伝子解析でガンの薬を…『人生100年時代』のテクノロジー

特集「『人生100年時代』のサバイバル術」第3回。テクノロジーが変えるのは「寿命」ではなく「ヒト」そのもの

  • 遺伝子の解析・編集技術がこの数年で劇的に向上
  • 遺伝子編集で理想の赤ちゃんまでデザイン可能に
  • お金があれば遺伝子を改良して良いのか?倫理の議論が必要

アナタは自分が何歳まで生きると思っているだろうか?日本の厚生労働省は、2016年時点で100歳以上の長生きしている人は全国に6万5692人いると発表。さらに国連の試算によると、100歳以上の人口は2050年に100万人を突破するという。アナタも100歳以上長生きするかもしれないのだ。そんな「人生100年時代」に世界はどう変わるのか?

久下真以子アナウンサー
本日は「人生100年時代」×「テクノロジー」をテーマに、「500Startups」澤山陽平さんに最新事例を解説いただきます。

澤山
よろしくお願いします。

久下
「500Startups」とはどういう会社なんですか?

澤山
簡単に言うとシードベンチャーキャピタルと言って、「種」のような始まって間もない会社に数百万、数千万円の出資をするベンチャーキャピタルです。

久下
キャピタルってなんでしたっけ(笑)?

速水健朗
資本です(笑)。 ベンチャーの「種」に水をやる仕事だと思えばいいんじゃない?

久下
なるほど!

人生100年時代…変わる「医療」

澤山
今「人生100年時代」に関わる遺伝子技術やバイオ技術など、いろんなテクノロジーが世界中で盛り上がっています。僕らは世界中に投資してるので様々なテクノロジーを知ってるんです。これから特に大きく変わりそうなのが「医療」と「食事」。そして「寿命」も変わっていきそうです

澤山
この写真の人は、ブライス・オルソンさんという人で一見健康そうに見えますが、実は2年半前は膵臓がんのそれもステージ4だと診断されていたんです。それが今、完全に回復しています。

久下
膵臓がんって大変ですよ。九重親方とか…

澤山
スティーブ・ジョブズもそうですね。そんな膵臓がんからオルソンさんを救ったのが、精密医療=プレシジョン・メディシンという治療法なんです。がんは細胞がおかしくなって分裂が止まらなくなってしまうんですけど原因は様々あります。そこで、がんの遺伝子を全部きっちり解析して、もっとも適した抗がん剤を与えるんです。

速水
そうか「がんの特効薬を見つけました」ではなく、最適な抗がん剤を判別するためのテクノロジーなんですね。

澤山
なぜ急にこんな治療法ができるようになったのかというと、2001年ぐらいの時は遺伝子を1個読むのに100億円ぐらいかかっていたんですが、技術の進歩で一気に下がっちゃったんですね。もうすぐ1万円を切ると言われています

速水
この遺伝子を読む技術は日本で普及してないんですか?

澤山
まだですね。まだ10万円ぐらいします。さらに、遺伝子を解析したがんに対してどういう薬を出すのかを決めるお医者さんも必要になります。

速水
解析するコストは100億円が1万円になった。でも、それに付随するいろいろなものがまだ追いついてないっていうところですね。

人生100年時代…変わる「食」

澤山
食事は、今もう結構色んな変化が起きています。 例えばこれらは、人が生きていくのに必要な全ての栄養、タンパク質だったり炭水化物だったり脂肪だったり、そういうのを全部配合した「完全食」という物です。これだけ食べていれば生きていけます。

速水
そういうことを言う人がいるんですよ。古市憲寿くんっていうね。彼は、“犬にドッグフードがあるように人間フードがあったら俺はそれしか食べない”とか“料理に手間をかけるよりは人間フードを食べる”とか言って、チョコレートしか食わないんですけど。そういうものがすでにあるんですね?

澤山
そうです。これはもう普通に売ってます。左のソイレントは、創業者がずっとこれだけ食べて生活していたそうです。

速水
昔「ソイレント・グリーン」っていうSF映画がありましたけど…

澤山
多分そこから名前を取ったんじゃないかと思います。

久下
え~、でも、これ、いる? 必要?

澤山
次に、こちらを見ていただきたいんですが、どう見ても肉ですよね。

澤山
でもハンバーグに見えるものは、すべて植物からできているんです。

澤山
これはImpossible Foodsという会社が開発したImpossible Burgerで、既に全米展開しています。豆腐のハンバーグとは違い、必要な植物の成分を組み合わせて作り上げているので、食感はほとんど肉みたいなんです。


久下
まあ肉だったら分かるんですけど、さっきのソイレントとかは何のために開発したんですか?

澤山
「人生100年時代」になると、たぶん人口がどんどん増えます。そのうえ、途上国の人たちも豊かになって肉を食べるようになると、食糧危機に陥ると言われているんです。

速水
特に牛は、大量の牧草地が必要で土地効率が悪い食べ物なので、地球上の全員が牛肉を食べるようになったら、あっという間に食料不足になると言われています。

澤山
また筋肉細胞を培養して、試験管で肉を作る研究も進んでいます。残念ながら今は、培養するのに数千万円かかるんですが、5年後にはもしかしたら、普通の肉よりちょっと高いぐらいの値段で売られているかも知れません。

速水
植物バーガーは抵抗ない? 

久下
ないです。 

速水
培養肉はどう? 

久下
なんか、ちょっと怖い。

澤山
培養肉はさすがに気持ち悪いので、最近は『純肉』(じゅんにく)っていう呼び方をする人たちもいます。 

久下
あ~呼び方で(笑)。

速水
呼び方か~(笑)。

澤山
呼び方が大事なんです。それに動物の体ではないので細菌が全く入ってないんですね。だから普通の肉より安全かも知れません。

人生100年時代…変わる「寿命」

澤山
寿命に関する研究は、今世界中の人たちがものすごい大金をどんどん出しています。個人的にだったり、自分でやっているベンチャーキャピタルや、ベンチャー企業から何百億円という金額を投資しているんです。

速水
世界の長者番付10位以内に入ってる人たちですよこれ。ちなみにセルゲイ・ブリンさんは僕と同い年です。


澤山
先ほど遺伝子を読むコストが下がったという話をしましたが、今度は、遺伝子を書き換える技術が新しく生まれたんです。CRISPR/CAS9(クリスパー・キャスナイン)って言うんですけれど、驚くほど簡単に遺伝子を編集できて、次のノーベル賞候補と言われるぐらい注目されているんです。

速水
遺伝子を取り出して、編集して戻すみたいなイメージ? 

澤山
そういうこともできちゃうかもしれない。さらに、頭が良くて、肌が綺麗で、足も早くて、目も何もかも良い、デザイナーベイビーが造れるようになっちゃうかも知れない。

久下
怖い!そこまで行くと怖い!

澤山
そうなんですよ。でも、子どもに病気のリスクがあると分かったら、治してあげたいって思う親の気持ちは自然でしょう。だから、まさに今 色んな議論が起きていて、この技術のプレゼンテーションや講演会では、どこに線引きをするんだとか、どのくらいの病気だったら治すべきなんだとか、いろんな質問が出てきます。

速水
すごい不安そうな顔しているよ? 

久下
あの~、出生前診断は命の選別なのかっていう議論がありますよね。でも、受精卵診断なら、人の前の段階だから、卵だから、まだ私の中では抵抗なかったんですよ。それが編集ってなると、ちょっと抵抗が…

速水
ただ、今までは出来ないからやれなかった、出来るならやりたいという人も、もちろんいるんですよ。これからは恐らく、どんどんアリってことになっていくでしょう。そうなった時、「気持ち悪い」と言うだけでは、もう議論についていけなくなっちゃうかも知れない。どこで歯止めをかけるのかとか、考えてないといけないんじゃないのかな。

澤山
そうなんです。もう寿命が変わるどころじゃなくて、これから「ヒト」という存在そのものがどう変わっていくのかとか、テクノロジーとどうやって一緒に生きて行くのかとか、そういう事が問われる時代になってきているんだと思います。

速水
寿命が変わったら年金も破たんするだろうし、社会制度全般も変更しないといけない。 ひょっとしたら100歳まで生きれる人は、それなりに蓄えが必要で、格差みたいなものが出来るかもしれない。それこそ昔、「銀河鉄道999」で見たような、実は若者は機械の体を手に入れたお金持ちで、お年寄りは機械の体が買えない人みたいな格差のある世界も想像しちゃいます。

澤山
そうですね。SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)っていうアメリカの講演会会場では、SF映画の「ガタカ」を例に挙げていました。お金持ちがどんどん遺伝子を改良する一方、そうでない人たちはそのままで、将来「ヒト」という種そのものが分かれちゃうんじゃないかとか、そんなことも真面目に議論されてます

人生100年時代…まとめ

速水
テクノロジーは僕らの倫理と関係ないところでどんどん可能性を広げていますね。…心底怖がってます(笑)。

久下
いや~、これからどうなるんだろうなと思って。

速水
こういうテクノロジーの捉え方は個人差がすごくあるんだと思いますけど、澤山さんはアリ派ですか?

澤山
僕は、現実的に言うと止められないんだろうなと思ってます。倫理を超えちゃう人は出てくるだろうし、じゃあそうなったら社会はどうしていくべきなのか。しっかり議論をしていく必要があるんだろうなと思います。

(執筆:FLAG9)