アメリカがTPPに復帰する可能性
この記事の画像(5枚) 米国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に実質的に復帰するのではなかろうか。
「私はTPPとは何の関係もない。OK? 関係ない。他国が調印したことに米国は拘束されないのだ」
27日の日米首脳共同記者会見でトランプ大統領がこう言ったのだが、日本が米国の農産品にかかる関税を"自主的に"TPPの水準に引き下げることまでを否定したわけではなかった。
またこの発言、安倍首相に向けられた質問に割り込む形で行われたもので、逆にTPP問題が日米交渉の微妙な問題になっていることをトランプ大統領が示唆した印象を与えた。
実はトランプ大統領は日本への出発直前に、米国の農家に対して160億ドル(約1兆7600億円)の補助金を支出すると発表していた。中国との貿易戦争で米国の農産品に高額の報復関税をかけられて輸出がストップしていることに対する支援だが、実はもうひとつ米国の農家を圧迫していることがある。TPPだ。
アメリカ農家はTPP水準でOKという現実
TPPの締結によって、加盟国から日本への農産品の関税が引き下げられ、豪州やニュージーランド、カナダなどからの牛肉の輸入が増えた一方で、TPP加盟を拒否した米国産の牛肉には38.5%という関税が据え置かれて輸入量が激減している。
さらに、日本は欧州連合(EU)との経済連携協定を締結した結果欧州産の豚肉の関税が引き下げられ、その結果日本への輸入量は54%増加した一方で米国産豚肉は14%減ることとなった。
来年の大統領選で再選を目指すトランプ大統領にとって、テキサス州やフロリダ州などの肉牛生産州は失うことのできない大票田であり、米国食肉団体もトランプ政権に日本に対する関税引き下げ圧力を強めるよう要望していた。
トランプ大統領は米国農家の要求について「彼らに補助金を出すからといっても納得しない。関税よりも「level playing field」(TPP諸国と同じ水準で勝負すること)を求めているのだ」と言った。つまり米国農家はTPPの水準でOKなのだ。
「TPPという“雛形”がすでにある」
これに対する日本側の反応だが、同大統領が来日中に自民党の二階幹事長がJNNのインタビューでこう述べている。
「米国の立場を理解すべきだろう。トランプさんも日本へ来てニコニコ外交をやっているわけではない。自らの政治生命をかけて日米交渉をやっている。日本が米国のために何ができるか考えるべきだ」
二階幹事長の地元の和歌山県は「熊野牛」の産地としても知られる。また幹事長と言えば党の選挙対策の中心的な存在だが「農業に頑張ってもらために国としてどうすべきか対応するのが政治として極めて重要だ」とも語り、自民党としてTPPの範囲内ならば農産品の市場開放を容認する印象を与えた。
一方の米国側だが、大統領選の日程を考えると手間のかかる貿易交渉で時間を費やしている余裕はない。米国のニュースサイト「ポリティコ」は、4月22日に「日本が貿易交渉を加速」と題した分析記事の中で「日米間にはTPPという雛形がすでにある」と指摘しており、米国内でもTPPの合意水準を容認する声がある。
8月に発表される日米貿易協定は、TPPという言葉こそ使わないものの実質的にTPPに沿った内容になるのではなかろうか。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【イラスト:さいとうひさし】