今後10年日本はどうなるのか?
LINE、Yahoo!、メルカリなどインターネット業界の第一線で活躍する経営幹部やスタートアップ、投資家など約700人が集まる日本最大級の招待制カンファレンス「B Dash Camp 2019 Spring」が札幌で開催された。
今回のテーマは「オリンピック以降、今後10年日本はどうなるのか?」。2日間に渡って行なわれたセッションでは、経営者や投資家などがそれぞれの視点で、ビジネスやテクノロジーの最新トレンドなどを披露した。
「今後10年の日本」を考える前に、「この10年の日本」とは何だったのか?
この問いに答えるには、「スマホの登場」を外すわけにはいかない。KLab取締役会長の真田哲弥氏がセッションで語っていた言葉を借りると、「リアルのサービスをいかにデジタルにリプレイスするのか」がこの10年のひとつの流れだった。例えば、リアル店舗での購買がオンラインショッピングに、リアルの紙に印刷された本が電子書籍に、英会話学校がオンラインスクールに進出した。
そうした時流をつかんでLINEやメルカリのように大きく成長した企業もあるが、一般的に「この10年の日本経済に関する議論」と言うと「Google、Amazonなどの巨大企業に勝てるはずがない」「AIなどの活用が遅れている」といった悲観的なものばかりが目立つ。
LINE取締役CSMOの舛田淳氏も「LINEが誕生した2011年頃までは日本でもプラットフォームをどう作るかという議論が結構あったが、それがなくなってきたのを少し寂しく思う」と語っていた。
それでは、今後10年でも日本は世界に存在感を示すチャンスは来ないのか?そんなことはない。
スマホ登場で様々な業界に大きな変革があったように、主要なデバイスが変わるときは世の中に変化が起きやすい。逆に、デバイスが変わる時でないと、なかなか大きな変革は難しい。いまはまだ新しい巨大ビジネスが登場するタイミングではないのだ。
しかし、そんな変化を起こすかもしれない存在として、5Gのスタートや音声デバイスの普及など、期待のできる予定や予兆がいくつも出始めている。その時流に乗るうえで、米中覇権争いも日本にとってはチャンスとなる可能性はかなりある。
B Dash Ventures代表取締役社長の渡辺洋行氏は「デバイスの変化が起きている。スマホに並ぶものが何なのか。様々なものが出てきているが『次の10年これで勝負する』というものが見えていない」と語った。
そのうえで、「大きな枠組みのヒントとして『リアルは捨てがたい市場だよね』という意識が加速している。リアルで全然やっていない市場を探して新規事業をやるのもひとつの手と実感した」と付け加えた。
スマホの登場で急激に伸びたのがEC(電子商取引)だ。
5月16日に経済産業省が発表した推計によると、国内BtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は毎年伸びていて2018年には17兆9845億円と過去最高を更新した。
ただ、オンラインは今も成長市場であることは間違いがないが、市場拡大のペースがやや緩やかになっていて今後の大幅な拡大は見込めないとの有識者の声も出ている。物販系EC市場だけを見ても、毎年10%以上のペースで伸びていた伸長率が、2017年は7.45%、2018年は8.12%と、2年連続の一桁の伸長率にとどまっている。
また、経済産業省は興味深いデータも公表している。それは、「ネットとリアル店舗の価格差」を世界中で調べた結果だ。
それを見ると、「ネットで買い物した方が安い」という商品の割合が日本は45%で、調査対象国の中での世界一となっている。“ネットの方が安い率”はアメリカやドイツが22~23%で日本の半分、中国・イギリス・カナダでは5~7%と極めて低い。
そのため、インターネットでの取引回数が増えても、金額ベースでの市場規模の拡大には必ずしもつながっていない可能性が高い。それぞれの企業レベルで考えると、市場が伸びているからと言ってオンラインのみに注力をすると、価格競争に巻き込まれて疲弊する恐れもある。
経済産業省も報告書の中で、次のように分析している。
「実店舗に強みを持つ企業がECにも積極的に取り組む姿は当然の光景となっており、その逆にEC系企業が実店舗に積極的に進出する例も見られる。
自社の都合ではなく消費者目線での合理的な視座に基づいた対応を実践する企業は、最終的な購買チャネルとして実店舗、ECを問わない仕組みや仕掛けを熟考、実施しているものと推測される」
日本が、今後10年のライフスタイルやビジネスを変えるような新しいサービスやプラットフォームを作るためには、オンラインとリアルの市場の流れを見極めることが必要となりそうだ。