「シリコンバレーとEUの全面戦争」 その先にある未来とは?

未来の潮流を議論する「武邑塾」イベントレポート (後編)

カテゴリ:テクノロジー

  • 個人情報を巡りシリコンバレーとEUが全面戦争中
  • もう一度「ルネサンス」が到来する
  • グローバリズムは自滅した

メディア美学者・武邑光裕氏を中心に未来の潮流を議論するトークイベント「武邑塾」のイベントレポート後編。前編はこちら「人間の断片化と見えなくなるAI

インターネットが1995年に遡ってリセットされた

武邑塾(2017/01/14)

武邑:昨年の4月、EU一般データ保護規則(GDPR)が2018年に施行されることが決まりました。これは「インターネットを1995年に遡ってリセットする」というEU全体の法律です。シリコンバレーの企業はプライバシー・個人情報を無償で吸い取って、巨大なお金に換えている。これをEUは許さないと宣言した訳です。


EUのマルティン・シュルツ議長は言います。

シュルツ議長:もし個人情報が21世紀の最も重要なコモディティであるなら、個々人のデータに対する所有権の権利が強化されるべきです。特に、これまで何も支払わないでこの「商品」を手に入れている狡猾な人たちに反対することです。これらの企業が新しい世界秩序を具現化していくなど、それは許されるべきではありません。彼らはそのような権限を持っていないのです。

ヨーロッパがこのような打ち出しをする背景には、EUが世界で最も高い水準のデータ保護を整備することで、将来的に「プライバシーフレンドリーなEU企業です」というブランドを確立する狙いがある。

武邑:これはEUの新しい挑戦です。この法律は決して新しいテクノロジーやAIやIoTを後退させるものではなく、プライバシーやデータ保護の最も厳格な枠組みを持つEUがテクノロジーを促進する中心になるんだという意味を含んでいる訳です。

昨年の11月にスタンフォードが出したソーシャルメディアに関する大規模な調査報告書によると、全米の若者の実に85%がフェイクニュースを見破ることが出来ていないと言う。この事実は大学の教員たちをも震撼させた。

右側の写真は核の影響下にあるという「fukushima nuclear flower」。もちろん、これは植物界にある単純な奇形の現象で、放射能とは全く関係ないのだが、一度この情報が出回ると、皆がフクシマを考える上で沈痛な面持ちになったと言う。



武邑:十分な情報があれば、何かを証明することができます。そして私たちは十分すぎるほどの情報を持っています。だが、情報の判断基準を持っていない。

武邑:これから何が起こるのか? 皆さんがAIやロボットと共存しながら、どう「人間」というものを打ち出していくのか?

「ルネサンス」が来ます。

宮崎駿も言っていましたよね「人間が自信をなくしている」と。

人間はAIより上に立たなくてはならない。上というのは上から目線で命令するという事ではありません。もっと考える事が出来て、もっと想像する事が出来て、AIにできない事をやれる人間を増やさなければいけない、ということです。

まさにかつてのロマン主義「ルネサンス」の到来が目前、いや既に始まっているように思います。このルネサンスを9,000km離れたベルリンからですが、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。

15回、三年間、ありがとうございました。

イベント後半は発起人の水口哲也氏と高橋幸治氏、そして即興的にジャーナリストの服部桂氏と情報学者のドミニク・チェン氏が加わり、トークセッションとなった。最後にその一部をお届けしたい。

グローバリゼーションは自滅した

武邑:去年は「ブレクジット」と「トランプ現象」で、非常に明確になった年だった。それは「グローバリズムの自滅」というか「自殺」です。トランプを生み出した白人中間層、ヒラリーに言わせると「嘆かわしい人々」たちは、賢明な人たちであることが明確になった。

武邑:この結果が2017年にISISやテロの問題にどう影響していくかは、私はポジティブに考えています。グローバリズムが自殺したという認識が一般化してくると、ISISやテロの問題は、賢明な方向性に行くのではないかと。

高橋:グローバリゼーションを牽引した背景にはインターネットテクノロジーがあったと思うのですが、この半年一年で急速に瓦解している。(グローバリゼーションの)夢から脱却を迫られている状況のように思うのですが…

武邑:グローバリズムとグローバリゼーションは根本的に違うものなんですよ。グローバリズムは自滅していくが、グローバリゼーションはより加速していく。VRなど含めた現在のテクノロジートレンドを考えると、旅行的移動は縮小していって、貿易のバリューチェーンは15年以内に崩壊すると思う。

人々の移動を加速する「観光」という産業が新しいフェーズに入らない限り、グローバリズムに根ざしたこれまでのような人口移動は減少します。化石燃焼の運搬も。これを代替していくのがテクノロジーの進化。バリューチェーンは減少するけど、データグローバリゼーションはもっと加速します。

高橋:その部分を担うのはテクノロジーですね。

武邑:グローバリズムという厄介な代物が自滅して、化けの皮が剥がれてしまうと、本来グローバリゼーションが持っていたある意味で無垢な欲求が、案外と花開いてきます。

服部桂(写真・左)、水口哲也(写真・右)

服部:グローバリズムと超ローカリズム、一見矛盾するこの二つがどうやって共存するか? それを解決する方法はテクノロジーしかなくて。マクルーハンの話になりますけど、マクルーハンは「未来はグローバルビレッジになる」と言ったんですよ。ビレッジって何かというと、村ではみんな知ってて、民主社会で、その中で問題解決して、いがみ合ったりもするけど、それをグローバルでやると滅びちゃうんですよね。

でもインターネットでやることによって、全員がピコ太郎になれるというか、マインドとしてはグローバルだけど俺はローカルだよと。それが両方成り立つのがインターネットテクノロジーなんだと思います。

(2017.01.14「武邑塾」より)