英のEU離脱 その後どうなった?

6月23日に国民投票でEU離脱を決定したイギリス。あれから5か月、どうなっているのかフォローしきれていない方もいらっしゃると思います。大丈夫。まだ何も始まっていないのが現状です。それどころか、ちゃんと始まるかどうかも覚束ない状況となっています。

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  • 通告は来年3月末までに行う
  • 元首相「離脱は停止できる」
  • 日本の存在感アップ

離脱の手続きはEU基本条約(リスボン条約)50条に基づくEUへの通知の後でないと始まりません。メイ首相はこの通知を「来年3月末までに行う」と述べています。

離脱の交渉はそこから数えて2年間をメドとして行われます。順調にいけば2019年の春ころにも実際の離脱が実現するということになります。

しかし、逆に言えば早くても来年3月以降でないと何も動かないということです。

水面下でのさや当てはあります。11月21日、デービス英EU離脱担当相はブリュッセルでEU側の離脱交渉責任者、バルニエ氏(フランス元外相)と会談しました。ただバルニエ氏も正式な通告がなければ交渉は始まらないと繰り返し述べていて、あいさつ程度にとどまった模様です。

「来年3月末」交渉は始まるのか


ところが今、メイ首相が切った来年3月末という期限を不透明にしてしまいかねない状況が起きています。

11月3日、イギリス高等法院は「EUへの離脱通告には議会の事前承認が必要」との判断を下しました。裁判で原告の市民らは、議会の承認なしに通知はできないはずだと訴え、英政府は「国王大権」を行使する事で、議会承認なしにできると反論しています。

高等法院は原告側の訴えを認め、議会の承認が必要と結論付けました。政府は判断を不服として最高裁に上訴しました。最高裁の審理は12月5日から始まり、注目の判断は年明けになりそうです。法曹関係者の間では、訴訟の法的側面からみて最高裁でも同様の判断が維持される可能性が高いとの見方が多くなっています。

もし議会の承認が必要となれば、その審議で内容についてもめる可能性があるほか、審議の手続き自体にもそれなりの時間がかかります。来年3月末までに通知ができるのかどうか、議会が離脱について様々な条件をつけることはないのか。メイ首相には打撃となりかねない司法の動きです。

ちなみに、高等法院の判断を受けて、離脱を強く主張してきた一部のタブロイド紙は裁判官の写真を一面に載せて「国民の敵」という過激な見出しをつけていました。

メージャー元首相は二度目の国民投票実施を支持

さらに、2人の首相OBから、かき回すような発言が相次いでいます。メージャー元首相(保守党)が2度目の国民投票実施を支持する考えを表明したほか、ブレア元首相(労働党)も、離脱手続きは止められるとの見方を示したのです。

メイ首相の離脱方針は変わらないとみられますし、たとえ議会で審議されるとしても最終的には承認されるという見方が強いですが、残留派の「抵抗」は続いています。

離脱決定で増す日本の存在感

10月31日に行われた、イギリス議会と日本企業関係者のレセプションには、デービスEU離脱担当相とイギリスに進出する日本企業、およそ200人が出席して盛況となりました。去年、イギリスはアメリカに次ぐ日本の第2位の投資先となりましたが、日本企業は、離脱後もEUとの自由な貿易が確保されないなら国外への移転や新たな投資の見送りもありうると訴えています。

日産は北東部サンダーランドにあるイギリス最大の自動車工場でスポーツ用多目的車=SUVを生産していますが、EU離脱後の新たな関税負担などを懸念して、ゴーン社長がメイ首相と会談するなどして生産、投資を続けるかどうか検討していました。

その後日産は「イギリス政府が工場の競争力維持を確約した」として、サンダーランド工場で新モデルの生産を発表しました。離脱によって海外企業が出て行ってしまい、雇用が失われるのではないかと危惧するイギリス政界は、日産自動車やソフトバンクなどが投資の継続、追加を発表したことを手放しで喜んでいます。

また、日本政府が離脱に当たってイギリスやEUに守ってほしいことをまとめた要望書の発表も大きなニュースとなり、日本の存在感が離脱決定で増しているのが現状です。



世界を驚かせたイギリスのEU離脱決定。その後も「大方の見方」を覆す動きが相次いでいます。下手な予想はせず、起きたことにひとつひとつ対処していくしかないのです。

(執筆:佐野純)