トランプ氏の経済政策は、「混乱」か「新機軸」か「古典的」か

「トランプ政権“経済政策”の実現性と課題を整理してみた

カテゴリ:ワールド

  • 大型減税と財政出動の財源と手続き
  • 偏りを感じさせる規制緩和
  • よくわからない為替志向と通商政策具体像

アメリカのトランプ米国次期大統領の流れができて1週間が過ぎた。この間、選挙結果判明時、先進国の市場でリアルタイムだった東京株式市場では、トランプ氏の選挙戦中の発言がとても近代資本主義とはかけ離れた保護主義的経済政策の方向が目立ったので、まず、日本で”前近代的政策による急落のリトマス試験紙現象“が起きて平均株価は1000円ほど急落。
しかし、当確直後の”勝利宣言“がやや紳士的で、大型減税、大規模インフラ投資、規制緩和(といってもかなり偏って知る感じがするが)を打ち出したことで、せっかちなマーケットは好感し、期待先行の浮揚状態が続いた。
この間、景気期待の”良い金利上昇“と財政悪化コンシャスの”悪い金利上昇“が見極められないまま、米国金利上昇でのドル買い円安方向なども続いたが、1週間ほどして(日本時間11月17日)、落ち着きが出て、現実的な今後の政策の吟味、当面の政策幹部の人事などをにらんだ展開になるとみられる。

今回は、このトランプ次期政権の経済政策の実現性や課題を、現時点で得られた(アメリカなどで伝えられた情報など)情報から整理してみた。

大幅減税

法人税減税(35%→15%に下げる可能性)、個人所得税減税を主張している。「トランプノミクス」という言葉がすでに一般化しているかどうかわからないが、これについて、かつての1980年代の共和党のレーガン大統領の経済政策に似ているといわれるが、後述の為替政策の不透明さもあって、同じとみることは現時点では難しい。
法人税減税をすれば、アメリカから出ていった企業や海外の企業がアメリカに戻ったり、来たりする可能性があり、その際のドル需要が生じるためドル高に向かうことも予想される(11月9日以降、ドル高になっているが、それは単純な期待先行やほかの要素もあるという局面だろう)。
経済の活性化は間違いない方向となり、また、アメリカのGDP(国内総生産)の7割が個人消費であることからも個人所得税減税が景気浮揚の原動力になることは明らかで、マーケットの期待反応がすぐに出た要素である。

インフラ投資(10年間で100兆円超)

いわゆる古典的景気浮揚、乗数効果狙いの財政出動である。学校、橋、道路、ほか、演説ではアメリカのいたるところで事業が始まりそうな説明があった。
事業が開始されれば、様々な分野の産業に需要が生じ、その原資も政府の税金からの確実なおカネの周りだから、マーケットも短期的には(10年間分含め)投資が増えるのは当然である。

疑問と課題…大型減税と財政出動の財源と手続き

大型減税とインフラ等への財政出動については、当たり前であるが、その財源の手当てが現実的かという問題がある。
トランプ氏は経済成長率を4%にするといっているので、順調にそれが毎年続けば、税収増で財源手当てはできるかもしれない。ただ、財政拡張とその財源については、アメリカの国の債務上限を定めた法律で範囲内でなければならず、毎年3月頃の議会の”財政の崖“を議会議事で乗り切れるかというハードルがある。
ただ、今回、上下両院で共和党が多数派になったことで、議会手続きについて楽観的に見た部分もマーケットの好感につながったとする分析も出ている。
しかし、日本のシンクタンクの中には、現時点で確認できる情報からのみの試算として、トランプ政権の経済政策で、2018年には米国債務のGDP比は現在の約80%から確実に100%以上になる、という試算、10年間で米国財政赤字5.3兆ドル(約570兆円)増加するのでは、という試算もある。

冒頭に記したように、財政発散のリスクに伴う長期国債の売りで、いわゆる”ソブリンリスク的長期金利上昇“の気配もあるが、現在は当面の短期の景気浮揚で安全資産の長期国債からリスク性資産の株などに資金シフトしたのか、微妙にないまぜ、といったところであろう。いずれにしても、“財政拡張”は打ち出した。

偏った(?)規制緩和

規制緩和について、選挙戦などでは、主に▼金融規制を緩めること▼環境規制をゆるめることの2点が際立っていた。
金融規制を緩めることは、2008年のリーマンショック後に金融の過度なリスク肥大を規制した2010年の「ドッド・フランク法」の銀行のファンド投資の規制などいわゆる”ボルカー・ルール“も含まれる。しかし金融規制には、近代資本主義のなれの果ての爆発と混乱であるリーマンショックの反省からG20(20カ国・地域)会議の国際的合意なども含まれ、すぐに規制緩和ができるかは不透明である。

ということよりも、本当に金融のリスクテイク拡大方向に向かえば、これは資産価格上昇につながり、ウォール街周辺と中部などの新産業新潮流への産業転換が遅れた地域との新たな格差リスクを米国内に生むことも懸念される。
もっとも資産価格上昇と資産効果は、いわゆる白人の中低所得層の住宅資産価格増大の資産効果で、トランプ支持者とされる人たちから”皮膚感覚的に”支持される可能性があるが、もともとプライム(上級)でない住宅ローンである返済格付けの高くない”サブプライムローン“から、偽りの景気拡大ともいわれた2000代前半からのアメリカの中流階級以下の”大借金大消費way of life“がリーマンショックにつながったことを思い出した方がいい。そのあたりのさじ加減をマクロ的にどう見ていくのか、という点も注視しなくてはならない。
(基本的には”不動産王“であるトランプ氏は、資産価格の下落でネガティブアセット増加の恐怖が骨の髄に染みついた悪夢、強迫観念であろうことは何となく想像はできるが…)

環境規制を緩めることは、石油石炭産業の再度の隆盛を目指すことだから、シェールオイル、シェールガス掘削に係る環境負荷の規制を外すこととみられる。石炭需要も掘り起こしつつ、石炭火力発電も減ることはないと想像できる。
旧産業分野に係る環境規制緩和は、世界のCO2の20%以上を吐きだす世界第2の温室効果ガス排出国のアメリカが、2020年以降の温室効果ガス削減の枠組みを決めたパリ協定から離脱をする、ということと、すぐれて整合的である。(というか、そうしないと石油石炭産業の再興はあり得ない)
パリ協定に拘束力がないため、トランプ政権が、20世紀型“化石燃料産業成長路線”にむき出しで突き進む可能性もあるが、国際的な潮流とどう折り合っていくかも焦点になる。

(10月末までようやく1バレル=50ドルの線を保っていた原油価格はトランプ氏当選で下落基調に入った。今後は、原油、エネルギー価格は中東や南米の産油国の増産凍結ないし減産との絡み、環境規制で投資回収算定のふるいにかけられ、自然淘汰も進んでいたアメリカのエネルギー産業の今後の投資回収のスパンなども一見明白なようで、また不透明な局面入りするだろう)

規制緩和は、21世紀の今、新産業分野、新付加価値分野の産業振興の観点で世界的に先進国が模索をしているが、こうした分野の規制緩和の話はトランプ氏の言舌ではあまり浮き上がってきていない。
また、規制緩和とは、古今東西、というか少なくとも第2次大戦後、自由化、競争、弱肉強食につながる経済思潮である点も今の世界各国の“民心”にかなうかどうかも付言しておいた方がよさそうである。

よくわからない通商と為替志向

・TPP撤退
・NAFTA(北米自由貿易協定)の撤退?撤廃?か再交渉?
・中国など”為替操作国”認定?
・対米貿易黒字国(アメリカ側は貿易赤字)への圧力

など、通商面では“保護貿易メニュー総ざらい”の志向が示されている。
すでに、アメリカ人だって、アメリカの生活も、おはようからおやすみまで、アメリカの原材料物品だけ、アメリカ人の労働力サービスだけ、では生活できないところまで来ているグローバル化、またはグローバル経済化の中、21世紀の今、自由貿易否定は確実な“経済的自殺行為”であることは間違いない。

この選挙戦での勇ましい発言をつなぎ合わせたロジックからいくと、基本的にはドル安志向であるはずである。いわゆる通貨安政策の”近隣窮乏化政策“のもと、アメリカからの輸出増、アメリカへ入る物品やサービスへの関税化、非関税障壁的制度設計を目指すことになる、ということになるはずだ。

端的に言えば米国からの輸出増狙いだが、この点がドル高を強く打ち出し双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)を容認したレーガン政権の経済政策とは決定的に違うことになる。
基本的にはこの選挙戦の時の言説との整合性では、自国通貨安(ドル安)志向になると考えるのが適切だ。

先に述べたように法人税減税等で米国での企業事業拡大のドル需要に伴うドル高に向かう可能性、さらに短期的な景気浮揚に伴うドル高と米長期金利上昇は容認する可能性あるのかもしれないが、まだよくわからない。

(レーガノミクスが、双子の赤字によるドル高路線に耐えなれなくなり、大きな貿易不均衡の末、1985年の有名な「プラザ合意」で円安修正、ドル高修正が起こり、その後の円高で日本資本がアメリカのビルや資産を”半額セールだ“と買う一方、日本国内は円高不況で利下げが相次ぎ、短期間に日本国内で1987年から1990年ころまでバブル経済になり、その後1990年にバブル経済が崩壊、日本がその後”失われた20数年”に入ったことは言うまでもない。その後は民主党政権のクリントン政権のルービン財務長官の“強いドル政策”以降、世界中から資金をアメリカに集め、それで金融分野が結果的に肥大し、やがて“100年に一度の金融危機”のリーマンショックにつながったことも説明は不要だろう)

ことほど左様に、今後は、トランプ政権の為替政策、通商政策は今後かなり世界経済を揺さぶる要素になることは間違いない。

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本当に保護貿易的政策を力ずくでやった場合の日本の産業への影響などは明白なので今回は省くが、全体的に一見シンプルでわかりやすいようで実はよくわからない部分も多い。
トランプ政権の経済政策は、アメリカ自体の景気減速可能性もはらんでいる、金利上昇(景気浮揚の期待金利上昇から財政発散懸念の悪い金利上昇)、インフレ、人件費コスト増(外国人労働者を増やさない場合の労働力供給制約)、ドル安志向の場合の輸入物価上昇(コストプッシュインフレ)、総合的なインフレによる消費減退、その一方で、「資産を持つ人はインフレで問題なし」が、さらに米国内に格差を生む可能性もある。

いずれにせよ、当選から1週間、トランプ氏の経済政策はごちゃまぜの混乱になるのか、21世紀の新機軸になるか、20世紀的”古典的経済政策“だけなのか。
不透明さは増すばかりで、その間にせっかちなマーケットが実体経済とは違うところで”短期利ザヤ“を探索していく状況は少なくとも、政権閣僚・スタッフ人事の確定、来年(2017年)1月20日の就任式後までは続くことになるだろう。