「指し値オペ」と「国債買い入れ増額」

今月7日、日銀が長期金利をめぐって、ある「奥の手」に打って出ました。
 
長期金利は、住宅ローンや銀行預金などの金利を決める際の目安になるものですが、このところ上昇傾向が続き、この日の午前、指標となる新発10年物国債の利回りは、前日に比べて0.005%高い0.105%にまで上昇し、今年2月初め以来の高水準をつけていました。
日銀は、国内の景気を下支えするため、長期金利を低く抑えようとしていて、0%程度に誘導することを目標にしています。
想定を超えた金利上昇は見過ごせないと考えた日銀が打ち出したのは、「指定した価格」で「国債の無制限の買い入れ」を行う「指し値オペ」と呼ばれる方策で、さらに、「国債の買い入れ量の増額」という手段も操り出しました。
「指し値オペ」は5か月ぶりであり、「買い入れ増額」との同時公表は初めてです。
 
 日銀が国債を多く買い入れると、市場では国債が品薄になって、価格が上昇し、利回りは低下するという効果を生みます。今回、日銀が指し値とした買い入れ価格は市場の実勢より低く、金融機関の応札はゼロでしたが、実施の通知は、債券市場に大きな効果をもたらし、新発10年物利回りは、0.085%まで低下しました。

 
 
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金利上向き圧力は世界的傾向

そもそも、このところの長期金利の上昇は、欧米発の金利上向き圧力が日本国内に及んでいることが背景にあります。
大規模緩和を続ける日本とは対照的に、アメリカは金融引き締めに向け、すでに利上げ局面にあるほか、ヨーロッパも、景気持ち直しを背景に、金融緩和の出口を模索するとの見方が強まっています。
ECB(ヨーロッパ中央銀行)は、毎月600億ユーロ、7.7兆円ペースで国債などを買い続けていますが、先月27日、ドラギ総裁が、「デフレの脅威は過ぎ去った」との認識を示したことが、緩和縮小に前向きだと受け止められて、ユーロ圏の主な国の長期金利が、軒並み急騰しました。
イングランド銀行のカーニー総裁も、翌28日、景気回復を条件に「金融刺激策の一部の解除が必要になる公算」に言及し、金利上昇にはずみをつける結果となっています。
 
日銀は、「指し値オペ」と「国債買い入れ増額」という「合わせ技」で、金利の抑え込みにまずは成功しましたが、景気浮揚に向け、この先も金利抑制を着実に行っていけるのか。
欧米が金融政策の正常化に向かい、世界的に金利上昇圧力が強まっていくのは確実とみられるなか、物価がなかなか伸びず、今なお緩和に軸足を置く日銀の金利防衛は、市場との対話で綱渡りを強いられる局面も予想され、厳しい戦いを強いられることになりそうです。

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員