ECB(ヨーロッパ中央銀行)は緩和規模の縮小へ

2008年9月のリーマン・ショックから9年が経過しました。
世界的に景気拡大が進むなか、各国の中央銀行が、経済危機を脱するため進めてきた量的緩和という非伝統的な金融政策が大きな節目を迎えています。

量的緩和は、中央銀行が国債などの資産を買い入れて市中に資金を流し込み、景気を下支えするという異例の措置ですが、ECB(ヨーロッパ中央銀行)は、10月26日、この緩和の規模を縮小することを決めました。
月600億ユーロという現在の買い入れ量を、2018年から半分のペースに落とします。
2017年末としていた資産購入の終了時期は、2018年9月末まで延ばされ、再延長もあり得るとして、慎重に進める姿勢が打ち出されましたが、ドラギ総裁は、ユーロ圏の景気について「底堅く、広範囲にわたり回復している」との認識を示しています。

ドラギECB総裁
ドラギECB総裁
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穏やかな利上げを進めるアメリカは…

緩和政策の終了という「出口」への動きでは、景気が安定的な拡大基調を示すアメリカが先行しています。
FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)は、2014年10月にすでに国債などの購入を終了し、今月からは、買い入れで膨らんだ保有資産の縮小を始めています。
現在のイエレン議長は、オバマ前大統領に指名され、来年(2018年)2月に任期が切れますが、トランプ大統領は後任人事について、近く決定する方針です。

最近のトランプ氏の発言やさまざまな報道を通じて、市場では、イエレン氏の再任もしくは、パウエルFRB理事か元財務次官でスタンフォード大教授のテイラー氏の起用が有力だとする見方が強まっています。
FRBは、イエレン議長のもとで、2015年末から利上げ路線に転じましたが、追加利上げは2016年に1回、2017年もこれまで2回と、緩やかなペースを保ってきていて、アメリカ経済は利上げ局面でも減速していません。理事であるパウエル氏もこうした穏健路線を支持する立場です。

一方、テイラー氏は、過去にFRBが政策金利を低く抑えたことが、のちの金融危機を招いたと指摘しているほか、インフレ率や需給ギャップから政策金利の適正な水準をはじき出す「テイラー・ルール」と呼ばれる方法を提唱していて、このルールに従えば、 現在の適正な金利水準は3%台と計算され、政策金利の1.0~1.25%と比べ、かなり高い数字となります。

金融引き締めに積極的な「タカ派」とされるテイラー氏が起用されれば、イエレン・パウエルの「ハト派」路線からの方針変更の可能性が高まります。
トランプ大統領の決断は、この先の「出口」へのアメリカのアプローチの仕方を決定づけることになります。

黒田日銀総裁
黒田日銀総裁

「出口」が見えない日本との差が一層鮮明に

アメリカとそのあとを追うヨーロッパは、ともに、緩和の手じまいを進め、その舵を、金融引き締めへと切りつつあります。
そこには、景気が回復している今のうちに、金融政策の「正常化」への足場を固めて利上げを進め、次なる景気悪化に備え、金利引き下げなどの余地を確保しておこうという姿勢が見てとれます。

その一方で、日本では、依然として、日銀が2%の物価上昇目標に向け、金融資産の大量購入や長期金利の0%程度への誘導を続けていて、緩和の出口はまだまだ先という状況です。
日銀が緩和の幕引きを図る前に、景気後退局面を迎えるリスクが見え隠れするなか、「出口」戦略で大きく遅れをとる日本にとって、はるか前を走るアメリカ・ヨーロッパの背中はますます遠くなりつつあります。

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員