認知症増加の"ブレーキ"とは?

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政府は、認知症対策として『2025年までの6年間に、70代の人口に占める認知症の割合を6%減らす』という数値目標を掲げることにしました。
その背景には、25年には65歳以上の何と、5人に1人が認知症になるとの推計があります。
とは言え、今後も高齢化が急速に進む中、この目標はどのようにすれば達成できるのでしょうか?

認知症にはアルツハイマー型などいくつかのタイプがありますが、一部を除き、発症した場合は不可逆的=元には戻りません。
治療はあくまで対症療法となり、根治は望めません。
ということは、先ほどの目標達成のためには、認知症の発症を予防することが最重要になります。
そうした中、近年「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」が、注目を集めています。
と言うのも、認知症の増加を抑制するためには、「軽度認知障害(MCI)」への対応が重要だと思われるからです。

65歳以上の4人に1人が・・・

「軽度認知障害(MCI)」は、認知症の一歩手前、正常と認知症の中間ともいえる状態です。その定義は、下記の通りです。

1:年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
2:本人または家族による物忘れの訴えがある
3:全般的な認知機能は正常範囲である
4:日常生活動作は自立している。
5:認知症ではない。

つまり、軽度認知障害(MCI)と認知症との違いは、「認知障害」はあるものの、それによって「日常生活において周囲に影響を及ぼすほどの支障をきたしているか、 そうでないか」になります。
厚生労働省によると、65歳以上の4人に1人が、認知症もしくは軽度認知障害(MCI)であると予測しています。

放置すると認知症になるが、46%には希望が!

2017年6月に発表された国立長寿医療研究センターの研究では、軽度認知障害(MCI)の高齢者を4年間追跡調査しています。
それによると、軽度認知障害(MCI)をそのまま放っておくと認知機能の低下が進み、約14%が認知症に進んでいます。
しかし、その一方で、約46%が健常相当に回復する可能性も伝えています。
ですから、認知症の予防対策として、まずは軽度認知障害(MCI)の早期発見・早期対策が重要になって来るのです。

そして、軽度認知障害(MCI)の対策は、早期であればあるほど効果が高いとされています。
今は明確な診断基準がなく、医師が問診を含めて総合的に判断するので、専門の医療機関への受診が不可欠です。
その上で、本人はもちろん、家族など周囲の人も軽度認知障害について知識を持ち、変化に敏感になることが大切です。
例えば、「東京都保険福祉局」のHPには、認知症向けではありますが、『自分でできる認知症の気づきチェックリスト』があります。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/ninchishou_navi/checklist/index.html
目安として、50歳以降になったら、こうしたものを定期的にチェックしてみるのもいいかもしれません。
客観的に自分のことを見てくれる、家族などと一緒にやる方が望ましいでしょう。

心がけるべき2つのポイント

さらに最近では、軽度認知障害(MCI)と診断されても、生活習慣などを改善することで、認知症への進行を防いだり、発症を遅らせることもわかってきています。
食事関連では、抗酸化物質(ビタミンE、ビタミンC、βカロチン)。また脂質については、不飽和脂肪酸(とくに魚油に含まれるω-3系の長鎖不飽和脂肪酸)が、認知機能にもよいことが常識化しつつあります。

また、とても重要なものに、「運動」と「コミュニケーション」があります。
運動の効能としては、直接的には脳血流の増加作用が考えられています。また、神経成長因子への刺激や、脂質、ホルモン、インスリン、あるいは免疫機能を介する作用も想定されています。
また、人間は「社会的動物」とも呼ばれます。他者との関わりが大切なのです。
他人と連携を取る一番の基本が、コミュニケーションです。他人の気持ちを理解し、自分の気持ちを率直に伝える。その中から良い人間性や、まさに「社会脳」というものが育てられます。
それが認知症予防につながるというのが、最近の一つの考え方になっています。

今回、有識者会議に示した方針では、70代で認知症になる時期を19~29年の10年間で現在より1歳遅らせることで、70代の認知症の人の割合は約10%減らせるとしています。
そのための1つの重要なカギが、「軽度認知障害(MCI)」への対応ではないでしょうか。

【執筆:医師  小林 晶子(医学博士)】

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小林晶子
小林晶子

今後ますます重要性を増す在宅医療を中心に、多くの患者さんの治療に当たっています。
また産業医として、企業で働く方々の健康管理も行っています。
これらの経験を、様々な疾患の解説に生かせればと考えています。
東京女子医科大学卒業。
東京女子医大病院等を経て、在宅医療専門クリニックに勤務。
医学博士。
日本神経学会認定神経内科専門医。
日本医師会認定産業医。