オバマ政権から「ダメ!」と言われた円安誘導。トランプ氏ならOK?

大統領選当日には、激しく反応したマーケット。予想外の速さで持ち直し、直近の見込みは良好だが、不透明な点も多い。

カテゴリ:ワールド

  • トランプ氏の経済政策は、実は伝統的な共和党の政策
  • 財政出動の財源など不透明な点も多い。
  • 為替介入、AIIBには注目すべき。
鈴木款 Reporter Nov 21, 2016
阿部知代 Reporter Nov 21, 2016

意外と早く気づいたマーケット

経済改革を100日で断行すると言っているトランプ氏。

大統領選当日には、5円も急激に円高が進んだが、翌日には株価もV字回復、円安に戻した。大統領選当日から何が起きたかと、直近の見通しについて触れたい。

まず、なぜトランプ氏の政策に市場が期待しているのか。

ヒラリー氏は、富裕層への増税、金融規制強化、最低賃金アップを掲げていたが、これは実は経済成長に優しくない。

一方で、トランプ氏は、メキシコ国境の壁など、マスコミ的には極端で「面白い」計画を掲げていて、そればかりが目立ってしまったが、そういう「極端なもの」を除くと、実は、トランプが言っていることは富裕層減税、金融規制緩和、財政出動という伝統的な共和党の政策だ。

財政出動というのは、公共事業などで歳出を増やしてGDPを押し上げること。
アメリカの場合の財政出動も、インフラが老朽化しているところが多いから、そのメンテナンス、いわゆる公共事業をやるっていうことで、これは景気の底上げにつながる。

つまり、なぜマーケットの反応が回復したかというと、トランプが言っていることが極端なものを除いて、実は伝統的な共和党の政策だっていうことに気づいたからだ。

法人税を35%から15%に引き下げるというのも「極端なもの」のひとつだが、日本の財務省国際金融幹部によると、これは絶対にありえないとの見通しだ。オバマケアの廃止も撤回した。極端なものは、そう実現しない観測が拡がった。

マーケットが荒れても中長期的には戻るだろうと思っていたけど、こんなには早く市場が気づくとは思わなかった。

直近では“いいことづくし”だが

大統領選後、ひとまずは円安ドル高に落ち着いて、その週末に向けて米国の長期金利は2.1%に上がった。
最近の米雇用統計も絶好調で、インフレ期待が高まり、金利を上げるのにはいい環境が整っているので、市場の7~8割は12月の利上げを見込んでいる。

この金利アップは、良い種類のもの。ここまでは、なんとなくうまく行きそうな様子だが…

他方、トランプがやると言っている財政出動を行う際に、公約通り減税を進めて財源がない場合、財政出動をするために国債(借金)増発をする可能性もある。その結果金利が上がる。しかし、これは、国債を発行して赤字拡大するので、“悪い金利上昇”であり、ドル安・円高を招く。

また、貿易や安保でリスクはある。TPPに関しては、農業どうこうより、雇用を守るために反対しているのは確か。

つまり、まだ未知数であるということを前提に現状をまとめると、トランプが言っていることは伝統的な共和党の政策で、市場にフレンドリーではあるが、今後、貿易通商政策がうまく行くかと言えばリスクがある。

また、財政出動と言うが、減税を進めて財源がなく、国債増発で行う場合には赤字を拡大させるために悪い金利アップにつながり、株安、円高・ドル安を念頭に置かなければいけない。

現状で不透明な点

1.ドル高をどこまで容認するのか。
トランプ氏が言うことを注意深く見てみると、「海外からの配当を促進するために減税する」と発言している。
これは、外国にある子会社が儲けた利益(配当)をアメリカに戻すことによって、投資に結びつけようという、「配当還流の促進」のような内容に合致する。

では、これをすると何が起きるか。

ヨーロッパや中国から、配当がアメリカに行くと、ドル高になる。実は、トランプがドル高になるような政策を口にしている。本来ならばアメリカにとってドル安がいいと思っているかもしれないが、ドル高になるような政策に触れている。

従って、トランプ氏がどこまでドル高を容認するのかが、依然として不透明。

2.金融政策
トランプ氏は、金利を上げない方がいいと言っていたにもかかわらず、低金利政策を主張しているFRBのイエレンを批判した。

ということは、高金利→ドル高政策を容認しているのか?
政権の言いなりだった、イエレン議長を嫌いなだけ?

3.財政出動を、いかにファイナンスするのか
公約通り減税を進めれば、ますます財源が無くなり、結局は国債増発ということになるのか。
何を財源に財政出動するのか。

今後の注意点

新興国からの資本流出にも注視しなければいけない。

アメリカの金利が上がると、新興国からの資本が流出する。2013年に買い入れ額縮小(テーパリング)の噂が流れただけで新興国から資本流出した。

噂だけで資本流出したのに、今度は本当に金利が上がれば、経済がぜい弱な中国、韓国、インドネシアからの資本流出のリスクがあるのは、事実だ。

この他、日本の関心事は

為替介入。
イギリスのEU離脱決定(Brexit)後などは円高局面が続いたが、日本が円安誘導をしているという、トランプ氏の選挙期間中の主張を勢いづけてしまう上に、オバマ大統領から「為替介入は絶対にダメだ」と言われていたため、日本政府が為替介入できる状況ではなかった。

これが、トランプ大統領になるとどうなるのか。

まず、共和党政権ということだけを見てみると、共和党政権時代に黒田財務官が介入したし、溝口介入と言って毎日介入していた時もあった。

従って、共和党政権だと、為替介入しやすくなるんじゃないかという指摘もある。

しかし、就任100日での改革の中のひとつに、「中国を為替操作国に指定するように指示する」という発言をしており、為替操作国として中国を批判しているので、日本に対しても、基本的にはドル安・円高路線なのではないか。
共和党政権になったからと言って、為替介入しやすくなるとは一概に言えない。

為替介入ができるかできないかは、共和党政権なのか民主党政権なのかは関係ない。
 
そして、AIIB(アジアインフラ投資銀行)について。

AIIBに関して、香港の新聞が「トランプ側近がAIIBへの加盟示唆」と報道した。しかし、日本財務省の国際金融幹部によるとまったくいい加減な話。共和党が支配する議会が、1円足りとも出資金を支払うことに同意するわけがない。当面は、様子見が続くだろう。

11月16日に日本の国際金融トップがアメリカに出発して、政権移行チームと話をした。これで、もう少し詳しく路線が分かってくると思う。


(執筆:Ishii Rinae)