中国・振り込め詐欺の闇 総額3400億円、女子学生が死亡する悲劇も…

大学入学を目前にした女子学生が振り込め詐欺で学費をだまし取られ、ショックのあまり死亡する事件が発生、中国社会に衝撃を与えた。

カテゴリ:ワールド

  • 昨年の被害は60万件、3400億円。5年で5倍に激増
  • 被害者はお年寄りから学生まで幅広い
  • ネットから個人情報を不法に入手。手口は巧妙化
鴨下ひろみ Reporter Nov 04, 2016

始まりは「奨学金の支給が決まった」

中国山東省の村に住む徐玉玉(18)さんの元に今年8月末、1本の電話がかかってきました。教育局を名乗る男は電話口で「奨学金の支給が決まった」とささやきました。名門・南京大学に合格し、翌月に入学を控えていた徐さん。電話の2日前、奨学金を申請したばかりでした。

「金額は2600元」
「午後5時半までに取りに来ないと締め切る」

この話を信じた徐さんは、すぐに銀行のATMに向かいました。父親は建設作業員で、月収約3500元(約5万3000円)。決して裕福ではありません。娘の大学進学のため、父親は半年近くかけ、ようやく9900元(約15万円)を貯めたところでした。

口座番号を巧みに聞き出され…

電話口で男は徐さんに、入学金を払えるだけの残高が銀行口座にあるか確認するよう指示します。徐さんはいったん、「ない」と伝えました。

しかし、男が別の口座を調べるように求めるので、父親が蓄えた9900元のある口座のことを告げました。その話を聞くと、男はすぐ「その資金をこの口座に移すように」と指示し、口座番号を伝えました。

徐さんは奨学金支給を待ちますが、振り込まれないどころか、相手は姿をくらましてしまいます。

お金をすべて、だまし取られた、と知ったのです。勉強熱心で、家計にも気を使って節約に努めてきた徐さん。大学で英語を勉強する夢が、もう少しで叶うはずでした。

「学費は何とかするよ」

両親はこう慰めました。しかし、徐さんは自分を責め続けていたと言います。父親とともに警察へ行き、被害を届けたその帰り道でした。

徐さんはショックのあまり体調が急変し、意識を失ったまま2日後に亡くなりました。1本の電話で、大学生の夢ばかりか、命まで奪われました。

「だましの手口、我々には思いつかない」

中国メディアはこの事件を大々的に報道しました。警察も捜査に力を入れ、徐さんをだましたグループの7人を逮捕しました。男らはネットから個人情報を不法に入手。プリペイドの携帯電話を使い、学生らを狙って犯行を繰り返していました。

中国の振り込め詐欺はこの5年間で5倍ほどに激増しました。昨年は被害件数60万件、被害総額は日本円で3400億円あまりに達しています。ターゲットはお年寄り、学生、社会人、主婦と幅広いのが特徴です。手口も、役人や友人などになりすましたり、証券取引を装ったり、巧妙化しています。

しかし、検挙率は3%未満で、深刻な社会問題となっています。

亡くなった徐さんの自宅の部屋――。大学の合格証と、懸命に勉強していた机だけが残されていました。

「生活が壊された。どう生きていけば良いのか……」

母親の李自雲さん(50)は悲しみにくれています。そして、娘のような被害が再び起きないよう注意を呼び掛けています。

「大学生でも高校生でも、みんな気を付けて欲しい」
「だましの手口は私たちではとても思いつかない」