北朝鮮「音楽政治」の真実。「モランボン楽団」で狙う“父親超え”

北朝鮮による住民統治のための宣伝扇動手段「音楽政治」。そして金正恩氏が結成したのは、ミニスカ姿で踊りながら熱唱する「モランボン楽団」だった。父とはスタイルを異にする、その狙いに迫る。

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  • 「音楽政治」は金正日氏が始めた…好みは「もろ昭和歌謡」
  • 音楽を党の宣伝扇動の道具に…最高指導者の指示に逆らえば粛清
  • 3日に1回指導…父親を超えるためモランボン楽団を作った金正恩氏

音楽愛好家だった金正日氏の音楽政治

北朝鮮独特の音楽スタイルを作り上げたのが、金正恩氏の父、故・金正日総書記。音楽愛好家で、「初恋の相手は音楽だ」という言葉を残しているほどです。

金正日氏は「音楽政治」という概念を作り出すとともに論文を発表しました。そのなかで、歌詞からメロディーに至るまで、どのような音楽を作るべきか、細かく指示しました。

同時に、自身の肝いり音楽集団「普天堡(ポチョンボ)電子楽団」も結成。北朝鮮初の人気バンド、アイドルグループのような存在で、住民の目を引き付けました。

その音楽は金正日氏の理論に沿ったもの。単純なコード・覚えやすいメロディーで構成され、昭和歌謡に似た感じがします。ただし、歌詞の大半が金王朝の応援歌、プロパガンダでした。

米国の音楽、ジャズ・ロックは禁止だった

金正日氏は、北朝鮮で聴くことができる音楽を、自身が認めるもの以外は禁じました。米国生まれのジャズは禁止、ロックという概念も住民には知らせていません。

音楽通の金正日氏は音楽の持つ浸透力や破壊力を十分に理解していました。だからこそ、音楽をどう使えば住民をコントローできるか、常に意識していたようです。

金正日氏は音楽以外の分野も細かく指示を出していたことで有名です。独裁者の指示と違うことをしたら、粛清されるかもしれない、という恐怖が支配していました。その結果、人々が自ら判断できなくなり社会全体の生産性が大幅に落ちたと言います。

「モランボン」で狙うは“父親超え”

後継者の金正恩氏も父親と同じように「音楽政治」を進めました。父親と同様、肝いりの「モランボン楽団」を作り上げました。

金正恩氏は父親の死の直後に結成を指示し、最高指導者の役職に就く前にメンバーを選抜するほどモランボン楽団を重視していました。

デビュー公演までリハーサルは36回実施され、すべてに金正恩氏が足を運んだそうです。楽曲にも大きな驚きがありました。映画ロッキーのテーマ曲に、ディズニーの「It's a small world」など、父親が禁止したアメリカの音楽を堂々とモランボン楽団に演奏させたのです。

「音楽政治」という父親の遺産を引き継ぎながらも、父親を超えたい、という思いが強くにじみ出たものでした。

金正恩氏は音楽と同様、核・ミサイルでも父親以上に強い指導者だとアピールしていると言えます。