「人間の葛藤」を描く。人気脚本家・向井康介さんが語る創作の現場

ドラマ「深夜食堂」や映画「聖の青春」など数々のヒット作で脚本を手掛けている向井康介さん。数々の物語を生み出した人気脚本家が創作の現場を語ります。

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  • 人間の葛藤を描く……人と人の感情の連鎖が物語を生む
  • 感情は言葉で書いたらダメ……悲しみは画面に映らない
  • セリフが少ないのがいい脚本……映像で語る、動きで伝える

脚本のキモは人間の葛藤を描くこと

脚本家とは何をする人なのか?
向井さんは「設計図を描く人」と説明します。
脚本家が描いた「設計図」に沿って家を建てるのが「監督」。
家を建てたい人、お金を出す人がプロデューサーです。
「その3人が相談したり、ケンカしたりして、家(映画)を作っていく」

脚本に書かれるのは「セリフ」、「ト書き」、「シーン」の3つ。
ト書きとはセリフ以外の描写の説明です。
この3要素が連なって1本の脚本となります。
脚本のキモ、それは「葛藤を描くこと」といいます。
親と子、男と女、兄と弟……。そこから生まれていく感情。
「感情の連鎖からドラマが生まれるんですね」

どんなに複雑・巧妙に見える映画も、人間関係の積み重ねで成り立っています。
感情のぶつかり合いを通してドラマを引っ張る。
それが脚本家の鉄則なのです。
なぜ、葛藤を描くのか?             
「人を描くということなんですね。人間はそもそも矛盾している」
100%いい人も、100%悪い人もいない。
白黒で割り切れないグレーの部分を描く。
それが映画でありドラマなのです。

感情は言葉で書いたらダメ……悲しみは画面に映らない

ト書きに感情を描かない。
これは日本映画の伝統的な手法の1つだと言います。
泣かせるシーンで「私、悲しい」と書くのは誰でもできる。
どういう境遇をつくり、どういう場面に遭遇させ、どういう状況で泣かせるか。
「そういう『動き』によって作られる脚本ほど、優れている」

一方で、悲しいから「泣く」のではなく、あえて「笑う」。
表現に工夫があれば、登場人物の個性が生まれていきます。
人間観察も脚本家にとっては大切です。
口癖、動作の特徴が、その人の性格、感情を表現することにもなるからです。

セリフが少ない方がいい脚本……絵で語る、映像で伝える

「あなたが好きだ」と言ってキスをする、そんなシーンがあるとします。
でも、向井さんは、そのセリフはいらない、といいます。
何故なら、キスという行為が「好きである」ことを既に伝えているからです。

では「嫌い」と言った後、キスをしたら……。
見ている人に、何らかの背景、葛藤を想像させます。
何か変化が生まれていますね。
こういうシーンをどう作るか、それが脚本家の醍醐味です。
言葉で表現できるなら、映像は必要ない。
「物語は、まず絵で語ることから始める」
いい脚本にセリフが少ないと言われるのは、この理由からです。
小説は言葉で物語をつなげます。

映画やドラマの場合、それは映像です。
どういう場面が表れ、そこで何が起きるのか。
どんな映像が作られ、そこで主人公はどんなセリフを口にするのか。
脚本家の視点で映画やドラマを見れば、新たな発見がありそうです。