「嫌いだ。除去しろ」 知られざる『偵察総局』の手口と北朝鮮事情

金正男氏殺害で北朝鮮籍の男を逮捕

カテゴリ:ワールド

  • 北朝鮮の工作活動……爆破から毒殺まで手段選ばず
  • 請負殺人も?……過去に比べ手口が巧妙化
  • 北朝鮮に何が?……恐怖政治で忠誠競争が激化

情報が錯綜し、謎が謎を呼ぶ金正男氏殺害事件。捜査当局は18日、新たに北朝鮮籍の男を逮捕し、事件への関与を追及している。

今回の事件では、北朝鮮の特殊工作機関、朝鮮人民軍偵察総局の名前が浮き沈みする。過去の工作活動には偵察総局が実行部隊として暗躍してきた。その手口とは?

北朝鮮の工作活動……爆破から毒殺まで手段選ばず

地元紙が作成したイラスト

工作活動――敵の情報を集めたり、かく乱したりすることです。他国や国連組織に入り込んだ情報収集、脱北者を装ったスパイ行為……。また、任務の中には凶悪犯罪も含まれています。

ボールペン型注射器・銃、懐中電灯を偽装した銃などで毒を放って人を殺す。航空機などを爆破するような凶悪なテロ――などもあります。

多くは、実行部隊が偵察総局、計画は秘密警察の国家安全保衛省です。

人手・時間・手間を相当かけて作戦を練る。現地に協力者などの人脈を構築していきます。犯行後も証拠隠滅を徹底させ、容疑者が自殺する例もあります。

痕跡が残った場合も、北朝鮮が関与を認めることはありません。したがって、過去には表に出ていない工作活動は山ほどあるでしょう。

周到な準備か……第3者巻き込み情報かく乱

さて、今回の事件。

これまでの捜査結果からみれば、周到に準備された犯行のようです。グループは金正男氏の行動を24時間確認し、警戒が緩むタイミングを割り出していたのでしょう。

実行犯には、お金に困っているような現地の人をスカウトしている可能性もあります。

事情を知らせず「これだけをしてくれれば多額の謝礼を払う」と説き伏せたとも考えられます。

また、北朝鮮との関係が特定されないよう、協力者を使って下請け、孫請けを繰り返しているかもしれません。実行犯に自覚がないまま、形の上で「請負殺人」になっている、とも想像できます。

北朝鮮に何が?……恐怖政治で忠誠競争が激化

北朝鮮の関与は現時点でははっきりしません。
ただ、金正男氏暗殺という点を考えると、そこには金正恩氏の指示があったと考えざるを得ません。

では、なぜ金正恩氏は金正男氏排除を考えたのか。

北朝鮮では、親族であっても自分の権力継承の妨げになる人物を「枝葉」として排除してきた歴史があります。

金正恩氏の父・金正日総書記もかつて異母弟の金平日氏を海外に追いやりました。金正恩氏にとっての「枝葉」、危険分子は長男の金正男氏でした。

「嫌いだ。除去しろ」

金正恩氏がこう命令したと韓国の情報機関・国家情報院は伝えました。

命令を受けた偵察総局は4~5年がかりで命令を忠実に実行した、と考えるのが自然ではないでしょうか。

北朝鮮では金正恩氏の一人独裁体制が強まっています。幹部の粛清を主導してきた国家安全保衛省のトップでさえ解任されています。恐怖政治が徹底され、いつ誰が粛清されてもおかしくない状況です。

忠誠心を示すためにはどんなに過激な犯罪も、やり遂げなければならない。この状況が、今回の金正男氏暗殺の背景にあった、という見方が有力になりつつあります。