中国ベストセラーに学ぶ処世術 忖度せずに組織で生き残る法

中国でミリオンセラーを記録した小説「紫禁城の月」。習近平政権で腐敗摘発の先頭に立つ王岐山氏が推薦したことで人気を得た。熾烈な権力闘争を勝ち抜いていく主人公の姿は現代の中国政治にも重なる。巨大官僚国家・中国で生き残るための処世術とは?

カテゴリ:ワールド

  • 汚職まみれの朝廷で清廉潔白貫く……主人公は異色官僚
  • 腐敗摘発めぐる攻防……現代に通じる熾烈な権力闘争
  • 待ち耐え、時に無情に決断……組織を生き抜く知恵

汚職まみれの朝廷で清廉潔白貫く……主人公は異色官僚

今から300年以上前の清朝・康熙帝の時代。
腐敗がはびこる朝廷で清廉・実直を貫き、熾烈な権力闘争を勝ち抜いて宰相にまで上り詰めた人物がいました。
不正腐敗を暴き、皇帝を諌めることも辞さずに忠義を尽くした理想の官僚、陳廷敬です。
その生涯を描いた小説が、中国でミリオンセラーになりました。
習近平政権で腐敗摘発に辣腕をふるう王岐山氏が部下に強く推薦したことが知られ、人気に火がつきました。

中国では、官僚を主人公にした官界小説が人気ジャンルとなっています。翻訳者の東紫苑さんは、その理由をこう分析します。

「自分が官僚であるなしにかかわらず、すごく熱心に読んで、処世術の教科書にしているところがあると思います」

明清の時代から、巨大官僚国家だった中国。
官僚の考えやその仕組みが分からないと、仕事や生活に支障が出かねません。
官僚にどう対応するかは、自分の生活に直接かかわるのです。

絶大な権力を持つがゆえに、官僚の腐敗汚職がまん延していた清の朝廷。
清廉潔白を貫きながら、朝廷で生き残るのは至難の業でした。
陳廷敬は何故宰相まで上り詰め、失脚せずに職務を全うできたのか?
現代中国でも組織で生き抜く難しさは同じ。
だからこそ誰もがその秘密を知りたいと考えるのです。

腐敗摘発めぐる攻防……現代に通じる熾烈な権力闘争

作者の王躍文氏は地方官僚の出身で、官界小説の名手として知られます。
「紫禁城の月」でも、実体験を踏まえた官僚の実態がリアルに描かれています。

中央の官僚が地方に視察に行く場面。
地方官僚の側は接待漬けにして骨抜きにしようと待ち構えています。
やらせの民衆を動員して地方トップへの感謝を叫ばせる……
収穫をごまかすために倉庫に見せかけの材料を運び込む……
あの手この手で調査をくぐり抜けようとします。
その構図は現代にも通じます。

朱鎔基氏が首相だったころ……(1998~2003年)。
地方に穀物の視察に行った際、食料の備蓄された倉庫が満載になっていました。
しかし、よく調べると朱鎔基氏の行く先々で、前もって食料が移送されていたそうです。

杭州(中国浙江省)で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20)でも……。
西湖の周りに容姿端麗な市民を選んで散歩させたという報道が。
「エキストラにも全て演出というのは、実は(中国の)伝統だったのかなと」(東さん)

待ち、耐え、時に無情に決断……組織を生き抜く知恵

陳廷敬の座右の銘は「待・耐・穏・狼・陰」の5文字。
……時期を待ち
……逆境に耐え
……穏健に行動でき
……時には無情に決断(狼)し
……地位を極めても控えめにふるまう
これができた結果、朝廷の熾烈な権力闘争を生き抜くことができたのです。
若い時は後先考えずに信念を貫こうとする陳廷敬。
でも晩年は老獪な策略家になります。
自分は表に出ないで一気に複数の政敵を倒すぐらい、です。

正義感一辺倒のヒーローでは通用しない。
したたかな主人公の姿に、中国の読者はリアルさを感じるといいます。
腐敗摘発もやり過ぎると、皇帝の周りに誰も居なくなってしまう。
そんな皮肉な現実も描かれていきます。

宰相に上り詰めた後、陳廷敬は耳が遠くなったふりをして、朝廷から退きます。トップに上り詰めたら後は蹴落とされるだけ……。
陳には引き際を見極める冷静な目があった。
だからこそ、最後まで組織を生き抜くことができたのかも知れません。