財政破綻したデトロイト、それでも市民が守った美術館

売却が検討された世界有数のコレクションは今も1点も欠けていない「奇跡のコレクション」

カテゴリ:ワールド

  • 2013年、米デトロイト市は財政破たんする
  • 市の財源確保のため「デトロイト美術館のコレクションを売却する」という案が浮上
  • そこで市民が立ち上がり、国内外からも支援の手が差し伸べられた

アメリカ中西部の都市、デトロイト。
この全米随一のモーターシティが財政破綻したのは2013年のことでした。困窮する市の財源を確保するために持ち上がったのは、世界屈指のコレクションを誇る地元デトロイト美術館の収蔵作品を売却するという案です。

1885年に開館したデトロイト美術館は、自動車業界を始め地元の有力者からの資金援助で世界の名品を収集していました。しかも、ゴッホでもルノアールでも、その作家の良品が集められているのが最大の特徴で、コレクションを始めた人々の目の確かさが判ります。ちなみに、ゴッホとマチスをアメリカの公共美術館として初めて購入したのもこの美術館でした。

デトロイト美術館の作品が売却されるのでは、というニュースは世界を駆け巡りました。

そこで立ち上がったのがデトロイト市民です。自分たちの誇りである美術館を守らねばならない。彼らは資金を集め、そしてニュースを知った国内外からも支援が集まり、結局コレクションは1点も失われることなく美術館に残りました。そして今も市民の誇り、市民の宝として存在しているのです。これぞ「奇跡のコレクション」。デトロイト市内はまだまだ荒廃した感じがあるものの、この美術館には今も変わらず多くの人が訪れています。

デトロイト美術館が誇るコレクションは古代エジプトから現代美術までおよそ6万5千点。そのうち52点をいま上野の森美術館で観ることができます。そのうち15点は日本初公開作品です。

フィンセント・ファン・ゴッホ《自画像》 1887年 油彩、板に貼り付けたカンヴァス City of Detroit Purchase
クロード・モネ《グラジオラス》 1876年頃 油彩、カンヴァス City of Detroit Purchase

この展覧会のユニークな点はまず、月曜日と火曜日に全ての作品を撮影できるということ。私は火曜日に行きましたが、作品を撮るだけでなく、作品の前でご夫婦が記念撮影をする様子が素敵でした。そして最新鋭のインクジェット技術を使った複製画に触れられるということ。ゴッホでなくても油絵の表面を触ることは無いですよね? これがなかなか楽しい体験でした。

美しい絵を眺めながら考えました。

もしも自分が住む街が財政破綻したら、年金支給が止まるなど生活に様々な支障が出る中で、それでも「美術館のコレクションを売ってはならない」と思えるだろうか。そもそも、自分の住む街の誇れるものに私は気づいているだろうか。