「イクメン」の為に「イクボス」の育成を 業績のカギは中間管理職が握る

イクメン・イクボスと、企業の生産性向上は表裏一体

カテゴリ:ビジネス

  • イクメンになるために「仕事の成果はこれまで以上に」と宣言
  • 「時間泥棒」の4つを減らすだけで、労働時間は3分の1程度減る
  • 今一番問題なのは40代から50代の、部長クラスの中間管理職

部下の育児参加を応援しながら、自らも仕事と私生活を楽しむ上司、「イクボス」。

いま「イクボス宣言」をする企業や自治体が増えているが、その背景にあるのは何か?

約20年前、猛烈商社マンから「イクメン」に転身し、現在元祖「イクボス」として、子育てNPO「ファザーリング・ジャパン」の理事を務める川島高之氏に話を伺った。

川島高之さん

「そもそも子育てをなんでお前がやるんだ」

ーー川島さんは、約20年前、それこそ「イクメン」という言葉が無い頃から、「イクメン」を始めたのですが、当時は三井物産の猛烈商社マンだったわけですね。まずは「イクメン」を始めたきっかけを教えてもらえますか?

ちょうど30代前半で子どもが産まれて、目の前に子どもがいると可愛い、一緒に過ごしたい、週末遊びたいと当然ながら思って。

さらに、当時は珍しかったのですが、うちの妻はフルタイムで勤務していて、彼女がワーキングマザーなら、私も家のことをしなければいけないと考えました。

ーー会社に対して、どう「イクメン」宣言をしたのですか?

上司に対して「土日は、すべてではないけれど、出られません」、「週2回は定時帰りします」、「子どもを保育園に送るので、早朝の会議に出られません」と伝えました。

一方で、「仕事の成果は、これまで通りか、これまで以上に出します」と先にコミットしました。

一番大変だったのは、海外出張になかなか行けなくなることでしたね。

ーー当時の上司や職場の反応はどんな感じでしたか?

やっぱり、意味を解ってくれなかったです、笑。

「そもそも子育てをなんでお前がやるんだ」というのが、ベーシックな疑問でしたね。

次に意味が解らないと言われたのが、息子の小学校入学とともにPTAを始めたことです。

PTAの活動のためには月に1,2回、会社を休まなくちゃいけなかったのですが、PTAのために休むということは、さらに解ってもらえなかったですね。

ーー当時は営業でしたか?商社マンだと夜は接待というのが基本になりますよね?

営業でしたね。社内で経営企画みたいなところにいたこともありましたけど、営業のほうが長かったです。

当時は夜の接待があたりまえだったので、もちろん可能な限りはやりましたけど、「(三井)物産の川島は付き合いが悪い」という見方はされていたでしょうね。

しかし、仕事を取るのに接待ばかりに頼っていると、ほとんど毎晩接待となりますから、原則接待をしないで、実績をどう上げていくかと考えました。

ーー日本企業ではいわゆる「社内飲み」、「飲みニケーション」というのもありますよね?

これもゼロではないですけど、社外よりもっと付き合いませんでしたね。

はっきり言って社内飲みをやったほうが、有利なのは間違いないです。

しかし、それで失うものよりも得るもののほうが大きいと自分で決めて、社内飲みには極力いきませんでした。

というか、そもそも行けなかったですよね。

ーー私も子育てを自分では結構やっていたつもりだったのですが、いま妻にそう言うと鼻で笑われます。でも、川島さんの奥さんはさすがにそうではなさそうですね。

私もそうですよ、妻に笑われます(笑)。

メールは「筋肉質」に、長ったらしい文章はやめる。

ーーそして、イクメンの次はイクボスですか?

30代前半はイクメンでしたが、管理職になるとイクメンとイクボスになり、40代の後半から会社経営をするようになると、イクメンは終わってイクボスになりました。

ーー管理職になるとイクボス、要するに部下のイクメンを応援する側に回ったのですね。いわば立場が逆転したのですが、当初部下はイクボスの登場にどんな反応でしたか?

「生活は大事だぞ」などと言う上司はそれまでいなかったでしょうから、「え~~」という感じがありました。

2012年に三井物産の関係会社の社長になった時は、社員みんなに「私生活を充実させれば、相乗効果で仕事の成果も上がる」とメッセージを送りました。

最初は「意味が解らない」という反応でしたが、社内の全体会議や、個別のランチの席で、「私生活を充実させると視野が広がり、発想力、コミュニケーション能力がつくので、仕事漬けの人たちに比べたら、絶対いいものをお客さんに提供できるようになる」という話をしましたね。

ーー若い社員がイクメンしやすくなるためには、イクボスが社内の制度やルール作りをすることも必要になりますね?

経営層が社内の制度やルールを変えるのは大切です。

しかし一方で、部下自身が「どんな制度だろうと俺はイクメンをやるんだ。それにはどうすればいいのか」と自発的に考える必要があると思いますね。

ーーいま日本社会に「働き方改革」や「生産性向上」の動きがあって、長時間労働の見直しも行われています。イクメンやイクボスにフォローの風が吹いていますね。

日本のホワイトカラーの生産効率は最低だと思います。

私がよく「時間泥棒」と言っている4つは、会議、メール、資料作り、何段にも重ねた階層です。これを減らすだけで、労働時間は3分の1程度減る感覚ですね。

私は、「会議を8分の1に」と部下に言ってきました。

「まず会議の回数を半分に」、そして「会議の時間を半分に」と。そのためには、資料を事前配布して、予習してから会議に参加しなさいと。

さらに「人数を半分に」と。実際、物事を決めるのに7人も10人も必要ありません。最大で5人程度で十分です。

実際8分の1になったかどうかはわかりませんが、そのくらいの気持ちでやってみろと。

ーー半分の3乗で8分の1ですか。メールのやりとりに費やされる時間も、なかなか減らせないですよね。

メールは「筋肉質」にして長ったらしい文章はやめろと言いました。

「3行におさめて、もし4行以上になるなら最初に結論を書いて、場合によってはタイトルに結論を書きなさい」と指示しました。

さらに、「どうしても長くなるなら箇条書きにして、宛先にやたらCCを入れないように」、「受信ボックスはゼロにして、不要なメールは躊躇なく削除する。返信できるメールは、1行でいいからすぐ返信する」とも言いました。

ーーこれだけでもずいぶん仕事は効率化されますね。残業が減れば企業の生産性も上がるし、なによりイクメンの時間が増えますね?

社内資料では、経営会議に役員が持ち込んでいい資料は1枚だけにしたんですよ。

こうしたことで少なくとも3分の1は労働時間が減ったかなと。

カギを握るのは中間管理職


ーー結局、部下がイクメン出来るかどうかは、イクボスによるところが大きいと。


私は商社にいましたが、たとえば夜早く帰った時に取引先から問い合わせがあって、ライバル企業が先に対応したらどうするんだと。

それによって失うものが大きいと考えるのか、それ以上に得るものが大きいと考えるのかは、経営トップの判断次第ですよね。

ーー最近、企業や自治体が続々とイクボス宣言をしています。川島さんは様々な企業に招かれて講演することが多いそうですが、イクボスが増えている実感はありますか?

最近は、イクメンが必要だと思っていないトップはほぼいなくなっています。

トップに立つぐらいだから、アンテナもたっていて視野も広い。

今一番問題なのは、部長クラスの中間管理職、40代、50代です。

彼らは「粘土層」とよく言われ、滅私奉公で会社オンリー、社内人脈を築くためにずっと飲み会をやってきた人たちで、当然部下に同じことを求める。

トップからは「お前ら変われ」と言われたけど、腹に落ちないから、かたちだけしか「働き方改革」をしない。

ーー私も50代ですが・・・苦笑。こういう人たちがイクボスになるには、どうすればいいんですかね?

私はよく講演で、「時代が変われば、OSを入れ替えます。バージョンアップしましょう。OSを変えないと、あなた自身もぬれ落ち葉になりますよ」と言います。

人生はいまや100年です。

しかし定年退職後にやりたいこと見つけようとしても、うまくいってない人が多い。

「現役時代にサードライフを楽しむ場所を作っておきましょう」と言うと、この年代の人はぐぐっときますよ。

「部下のため」といっても本気にならないけど、「自分のためにも」というと急にメモを取り始めますね、皆さん、笑。


イクメン、イクボスと企業の生産性向上は、表裏一体だ。

そして、そのカギを握るのは、どうやら中間管理職の本気度のようだ。