「成果ではなく、インプットにごほうびを」もっとも投資効果の上がる教育とは?

「学力の経済学」の著者・中室牧子さんに聞く

カテゴリ:国内

  • 教育経済学という新たな分野を開いた慶応大学准教授
  • 子どもの学齢が低いほうが、収益率が高い
  • 幼児期に非認知能力を鍛えることこそが、子供の将来の利益になる

子どもの教育について、10人いれば10通りの哲学や思いがあるが、これまで科学的根拠に基づいて論じられることはほとんどなかった。

そこで12月20日放送のホウドウキョク「教育のキモ」では、教育を経済学で分析するという独自の切り口で教育経済学という新たな分野を開いた、ベストセラー「学力の経済学」の著者で慶応大学准教授の中室牧子さんにお話を伺った。

中室さんは日本銀行出身で、マクロ経済が専門だった。2010年に世界銀行に勤務し、はじめて教育や医療、労働市場分析を行ううちに、教育に興味を持ったという。

当時の世銀は8%を教育に投資しているが、投資効果がなかなか上がらずフラストレーションを持っていた。

そこで中室さんは、効果が上がる教育とは何かを考えるようになり、そのツールとして経済学が有力だと気付いたという。

では、教育経済学は多くの親が抱える悩みにどう解決策を出すのか?

たとえば、多くの親が突き当たる悩みに「ごほうびで子どもをつって勉強させることは、いいことか?」がある。

この悩みに対して中室さんは、外的インセンティブ(ごほうび)は内的インセンティブ(勉強の楽しさ)を失わせないことが実証されているという。

そして、中室さんはごほうびのあげかたが問題だと指摘する。

「テストで100点を取るなどの成果(アウトプット)にごほうびをあげるより、本を読むというインプットにごほうびをあげるほうが有効です。これは、アメリカ5都市で小中学生を対象に社会実験が行われ実証されました。アウトプットにごほうびを付けられても、どうやったら成績が上がるのか子どもは方法がわかっていません。逆にインプットにごほうびをあげると、何をやったら成績が上がるのか方法が明確に示されます」

アウトプットにごほうびを付ける場合は、家庭教師など勉強の方法を教えるメンターをつければいいという。

子どもの教育費も、親にとって頭の痛い問題だ。子どもが幼稚園から大学まですべて私立に進むと、一人あたり2千万円かかるという試算もある。

それでは、どう子どもの教育に投資すれば、もっとも効果が上がるのか?

この問いに対して中室さんは、「子どもの学齢が低いほうが、収益率が高い」という。

ペリー幼稚園プログラムという、アメリカのミシガン州で1960年代に行われた社会実験がある。3、4歳の子どもを対象に、手厚く教育を受けたグループとそれ以外のグループを、その後40年にわたってフォローする。そうすると教育を手厚く受けたグループは、受けなかったグループに比べて大人になってからの持家率、学歴、所得が高く、逮捕率や生活保護受給率は低いことがわかった。

日本の親は大学受験に向けて教育費を増やしていき、最も教育費をかけるのは高校3年生の時だという。教育の投資効果としては、真逆の行動だ。

では、幼児教育や知育をやればいいかというとそうではない。

ペリー幼稚園プログラムによると、子どもを変えたのは、学力テストで測られる認知能力ではなく、非認知能力、つまり自信、忍耐力、リーダーシップなどだ。

非認知能力は、しつけやきちんとした生活習慣により高められることも実証されている。

幼児期に非認知能力を鍛えることこそが、子供の将来の利益になるのだ。

中室さんがいまもっとも強い関心を持つのが、子どもの貧困と学力格差の問題だ。

子どもの貧困は年々深刻になり、今後国の税や社会保障にも影響を与えるとの見通しもある。

一般に親の所得が高いほうが、子どもの学力が高いと言われているが、それでは補助金を出せば学力が高くなるかというとそうではない。

中室さんは「実は意欲や努力に格差があるのではないか」と考え、多様な人を受け入れ、地域で問題解決を図ることが豊かで強い社会になると強調する。

日本の教育費はGDP比で3.8%、先進国は5%と言われ、常に過小だ。

中室さんは、日本版ペリープロジェクトを行うことで、国のお金をどう教育に配分するか、科学的根拠を示す試みをしている。

「教育が大切だ」というだけでなく、どう効果があるのかデータで示されれば、国も納税者も教育への投資に納得するだろう。