最近注目されている「睡眠負債」という言葉。毎日の睡眠不足が積み重なると「睡眠負債」となり、命のリスクにつながることが様々な研究から明らかになってきた。

日本人は世界的にみて睡眠が不足していると言われている。

では「睡眠負債」を返済するためには、日常的にどうすればいいのか?

企業向け睡眠改善プログラムを提供している「ニューロスペース」の小林孝徳社長、そして筑波大学で睡眠医科学の研究に携わってきた佐藤牧人氏(現在「ニューロスペース」取締役)に話を伺った。

睡眠不足は肥満につながる

――まず気になるのが、「睡眠は何時間が最適なのか」ですが?

小林:
一般的に6~7時間と言われますが、これはあくまで平均値です。睡眠は個人差がありますから、3時間で十分な人もいるし、10時間寝ないといけない人もいます。

企業向けの睡眠研修で私がよく言うのは、「自分の適性睡眠時間を知る目安は、起きてから4時間後に眠気があるかどうかです」と。

起きてから4時間後は人間の脳が最も活性化して、集中力が高くなる時間なので、もしその時間に眠気があるとすれば、必然的に睡眠が足りないということになります。

 
 
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――睡眠不足の健康への影響は?

佐藤:
様々な研究論文によって、疾病リスクが1.5から2倍に上昇することが明らかになっています。疾病とは、がんや糖尿病、高血圧など生活習慣病です。

小林:
また、睡眠不足は肥満につながります。睡眠不足になると、食欲を増進させるグレリンが増大し、レプチンと言う抑制ホルモンが効かなくなりますので、太りやすくなります。一方、寝ているときに分泌される成長ホルモンは、糖分・脂質を代謝しますので、質のいい眠りが取れていると痩せやすくなります。

――痩せやすくなる眠りとは?

小林:
睡眠中に成長ホルモンを出しやすくするには、「時間医学(※)」では、起きてから11時間後に深部体温(内臓の体温)を高くするのがいいと言われています。つまり、ダイエットをするなら、朝6時に起きる場合、午後5時ごろにジョギングなどの運動をするのがおススメです。
 

※『時間医学』睡眠・覚醒などの体内時計と言われる「生体リズム」の研究を、医学の分野に取り入れたもの。


――朝にジョギングする人も多いですが?

小林:
朝走るのは、午前中から活発に仕事するためにはオッケーです。ただ、ダイエットを目指すなら、時間医学的には、夕方から夜にかけて走るほうがいいですね。

小林社長(左)と佐藤取締役(右)
小林社長(左)と佐藤取締役(右)

「睡眠負債」と「睡眠不足」

――では最近注目されている「睡眠負債」ですが、そもそも「睡眠不足」とどう違うのですか?

小林:
睡眠不足は1日単位と短期的ですが、睡眠負債は慢性的です。

佐藤:
各個人が認識できるかどうかです。睡眠不足は日中に眠くなるなどで認識できますが、睡眠負債の怖いところは、毎日1時間程度の睡眠ロスがたまっていくので、本人が気づきにくいことです。

「睡眠不足」は気づきやすいが…
「睡眠不足」は気づきやすいが…

――よく平日の睡眠不足を解消するため、週末寝だめをする人がいますが、これは「睡眠負債」の返済に有効ですか?

小林:
週末だからと言って、ずっと寝続けるパターンはダメです。人間には体内時計、睡眠と覚醒のリズムがあります。体内時計は、起きて光を浴びることでスタートします。光の刺激が目に入ると、その刺激が睡眠物質のメラトニンの分泌をストップさせます。

そして、光を浴びた15~16時間後にふたたび眠気が起こります。平日は通学や出勤時間が決まっているので、朝起きる時間が一定なのですが、土日にお昼まで寝ていると、体内時計が数時間後ろにずれてしまい月曜日がつらくなります。

佐藤:
土日にいつもより何時間か長く眠る人は、無意識のうちに普段足りない睡眠負債を返済しようとしています。寝ることで身体や心の疲れは一時的に取れますが、寝だめで体内時計を狂わせてしまうと、かえって身体に負担がかかることになります。

――ではどう寝だめすればいいのでしょうか?

小林:
ハイパフォーマンスなビジネスマンは、1週間を通じて起きる時間がほぼ一定です。つまり土日も平日と同じ時間に起きているのですね。では彼らがどうやって平日の睡眠不足を解消するのか。まず、いつもより遅く起きるのではなく、可能な限り早く寝ています。

早く寝るのが難しければ、いったんいつもと同じ時間に起きて、光をあびて体内時計を動かしてから二度寝したり、昼寝をするのがいいです。こうすれば体内時計は狂いません。

――なるほど。寝だめは朝ゆっくり寝るのではなく、夜早く寝れば睡眠負債の返済につながるのですね。 

小林社長
小林社長
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。