小泉進次郎氏が応援演説に駆け付ければ、多くの聴衆が一目見ようと詰めかけ、会場はさながらスター歌手のコンサートのような熱気に包まれる。

小泉氏は決して難しい言葉を使わず、ゆっくりとしたリズムで話す。

小泉氏のスピーチが人々を魅了する理由は、どこにあるのか?

今週行った応援演説からそのヒントを探る。

 
 
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(1)目線を下げ、親近感を抱かせる

小泉氏のスピーチは、聴衆の目線をいつも意識している。たとえば自らの初選挙の苦労話を冒頭から入れることで、聴衆との距離を一気に縮め、親近感を抱かせる。

「皆さんに考えてほしいのは、自民党が野党の時のことです。

最近の野党の動きを見ていて、私は初当選が野党になった時だったから、自分たちが野党の時に一体どうだったかを比較して考えるようになりました。

あの8年前、『地域名』で何が起きたかといえば、当時の民主党の鳩山さんの顔が大きく載ったマニフェストが街中で配られればそこに大勢の人だかりが出来ました。

自民党の街頭演説やビラ配りをやっていても、ほとんどの人は足を止めてくれませんでした」

(2)対立構造をはっきりさせる

自民党の野党時代を引き合いに出しながら、返す刀で希望の党への批判を展開する。小泉氏のつくる対立構造のストーリーは、いつも明快かつわかりやすい。

「あのとき自民党の不人気、国民の皆さんから嫌悪感を抱かれるくらい本当に厳しい状況だったけど、少なくとも自民党は人気が無いからと言って自民党という名前を変えると言うことはしなかった。

そしていくら不人気であったとしても自民党を一回なくしてどこか人気のあるところとくっつこうとは思わなかった」

(3)ご当地エピソードを盛り込む

小泉氏の十八番が、ご当地エピソードの披露だ。さまざまな地域で、よくここまで調べたなと感心させるようなエピソードを紹介し、聴衆の地域への愛着心やプライドをくすぐる。

「この『地域名』の『Jリーグチーム名』は最下位だが、あの自民党も野党の時、そういう苦しい時こそ離れずに支えてくれたファンがいるから今の自民党がある。

これからはしっかりそれを忘れずに前を向いて、反省を胸にもう一度託して頂けるように私たちがどんな日本を作るのかを皆さんにしっかりと説明して、きょう残りの1週間を、もう野党の批判に明け暮れても仕方ありません」

(4)批判にもユーモア

小泉氏のスピーチの真骨頂は、批判にもユーモアを盛り込むことだ。

この発言がメディアで「オイシイ」と引用され、さらなる人気につながる。

「批判ではなくてほめるところはほめて、あげなきゃいけない。

私も野党のこと批判ではなくて一つくらいは、一貫しているなと思って褒めなきゃいけないなと思っていることがあるんです。

それは、安倍総理が嫌いということは一貫している(聴衆笑)。

とにかくそれはずっと言っている。だけど、私は理解できないのは、安倍総理が嫌いだから憲法改正は反対と言っていた人たちが、小池さんの憲法改正には賛成だからくっついちゃう」

(5)自虐ギャグも披露

自虐ギャグも小泉節の真骨頂だ。自虐ギャグを織り交ぜて、聴衆の心をつかむ。

「今の野党の訴えを見てこれから仮に私たち自民党が負けて野党が政権を取った時にその後何が起こるか。私は8年前のことを想像すると今から透けて見えますよ。

これだけ混迷、北朝鮮の情勢の中、そして人口が減ると言う大きな日本の構造的な変化の時代の中で、いくら安倍総理が嫌いと言って、安倍総理だっていつまでも総理じゃないんですよ」(聴衆笑)

 
 

(6)政策を親しみやすく語る

政策を語る際には、その土地のエピソードを盛り込むなど、聴衆に親しみやすさを感じさせる。決して候補者にありがちな「手柄話」はしない。

「私たちは作りたい国がありますよ。さっき『候補者名』は農業の話をしました。

『地域名』の農業の力を活かせば、私は真の医食同源の国づくりができると思っているんです。

農業をしっかり育てて漁業もしっかり支えて、林業もしっかり政策を打って、それを『Jリーグチーム名』も含めてスポーツのある街づくり国づくりをしていけば、結果として医療費や介護費がよりかからなくてすむような食と社会保障を連動させていく国づくりが出来れば、いままでとは違う病気になってからお金を使う国ではなくて、病気にならないためにお金を使う国にあり方を変えることが出来る」

(7)子育て世代を大切にする

小泉氏は、自民党が「冷たい」とされている子育て世代を忘れない。子育てや子どもを語ることで、若い世代の心を一気につかむ。

「そんな国づくりをやりたいし、きょうは子どもの方、子育て中の方、赤ちゃん抱いた方もいますが、赤ちゃんや子どもがいま育つ環境は大変ですよ。

そういった中で、子どもを社会全体で育てていくような、そんな国を作っていくためにはこれから一歩踏み込んだ国づくりをやらなくてはいけない。

そのためには全世代が、子どもの存在が、すべての世代の将来の社会保障を支えているんだともう一度思い返して、赤ちゃんがこういう場所で泣き出しても赤ちゃんを抱いているお母さんが周りから厳しい目を向けられることの無いような、暖かい目線をしっかりともっていただけるような、そんな子どもに暖かい社会を私たち一緒になって作っていこうじゃないですか」(拍手)

(8)前向きなフレーズ&人気にも驕らない

演説は前向きなフレーズで締めくくり、選挙カーから降りると握手や写真撮影を快く受ける。これで聴衆の心はわしづかみだ。

「そういう前向きなこれから何をしたいのかを語る選挙にしましょう。

この『地域名』の皆さんの力を残り一週間結集すれば必ず『候補者』さんは、勝てると思います。

どうか『候補者』さんに、皆さんの力を貸してください。一日一日全力で頑張ります。

ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます」(声援)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。