「領土・主権展示館」の移転問題
東京・日比谷公園内に設置された「領土・主権展示館」は、竹島や尖閣諸島が日本固有の領土であることを示す公文書や、写真の資料などをまとめて展示している日本初の施設だ。
この記事の画像(11枚)国際法や歴史的事実を無視した昨今の韓国による暴挙や、海洋進出を進める中国などによって領土をめぐる情勢が深刻化する中で、日本の主張の正当性を内外に発信する役割を担っている。領土問題というと難しいものと思われがちだが、春休み・夏休みのシーズンなどには「竹島のアシカ」など、子ども向けに柔らかい切り口から理解を深めることができる企画展も開催していて、広く国内の世論啓発を狙っている。
しかし、この領土・主権展示館がここ数ヶ月、移転問題に揺れていた。
展示館は去年1月に設置されたのだが、耐震工事のため退去する必要に迫られていたのだ。退去期限は2020年の3月末。緊急を要する状況となっていた。当初移転先には、都内で建設中の高層ビルなどが浮上したが、財務省との間での調整が難航。移転期限までに手続きが間に合わないことで断念に追い込まれた。他の民間施設なども候補にあがったが、予算や広さ、利便性の面で、条件に見合うものが見つかっていなかった。
そうした中、政府・与党関係者が懸命に移転先を探し続けた結果、ようやく光明が差した。
移転先の広さは7倍!アクセスも向上!
「拡張移転することを決定いたしました」
5月7日、宮腰領土問題担当大臣は「領土・主権展示館」の移転先が東京・霞が関の民間ビル内に、決定したことを記者会見で発表した。
宮腰氏は「移転を契機として展示館がより魅力的・効果的な内外発信の拠点となるよう、関係府省庁、団体や地元自治体等と連携しつつ、展示内容や企画イベント等の一層の充実に尽力をしていく」と強調。
また、宮腰氏は現在の施設が100㎡と狭く、施設の場所もわかりづらいとされている中で、「今回の移転先は700㎡、しかも地上1階のフロアでありますので、相当これまでと違った展示もできる。国会から近い、交通の便も相当良いのではないか。まずは国会見学においでになった子どもたちを中心とする皆さんが歩いてでも足を運んでもらえる環境を生かして、できるだけ多くの方々に来ていただきたい」と来館者の増加への期待を示した。
実際に新たな入居先は東京メトロ銀座線の虎ノ門駅の出口から徒歩1分とアクセスに優れていて、国会議事堂にも近い格好のロケーションだ。
“ようやく世界と戦える”発信力強化に期待に声
5月14日に開催された、自民党の領土や外交に関する合同部会では、「領土・主権展示館」の移設が政府側から報告された。
この問題の解決に尽力してきた、自民党の領土に関する特別委員会の委員長・新藤義孝元総務相は会議の冒頭に「久しぶりに、喜ばしいお知らせをご報告ができるんではないかということで、本当にうれしく思っております。我が国の領土、主権問題を総括的に展示する。そして企画発信する。こういう拠点が新たに整備され、しかもこれまでの7倍という規模。そして、内容においては数十倍の拡充が図られるものと思っております」と笑顔を見せた。
また土日祝日の開館も可能になり、これまでの100㎡から、7倍の約700㎡の広さに拡張されることを評価する声も挙がった。
さらに展示館の発信力強化に向けては重要な点がある。それは、この移転先のビルには、日本の外交・安全保障に関する“政策シンクタンク“の「日本国際問題研究所」も入居していることだ。
日本国際問題研究所は、1954年(昭和34年)に、吉田茂元首相が提唱して設立され、世界の地域や外交・安全保障政策に関する研究を行っている。
新藤氏は「領土主権問題の調査研究の、一次的な調査研究は、国際問題研究所が外務省から委託を受けて調査事業をやっている。その得た成果を展示場のところで、展示館が収集している資料と合わせて、連携させながら展示展開できる。これをより強力にやっていく」と、政策シンクタンクと連携して、さらに発信力の強化が図れることを強調した。
加えて、「この展示館の中でとどまらず、充実した展示の内容を、企画展のようなものを催して全国展開させていきたい」として、北海道から九州、そして離島に至るまで、全国各地と連携を深め、広く国民に領土や主権の問題を考える機会を作っていく意向を示した。
国際法を無視し、我が国固有の領土である竹島を不法占拠する韓国を例に挙げれば、すでに国と研究機関が一体となって世界への発信を強めている。そうした状況からも今回の移転先の決定、シンクタンクとの連携強化などについて出席議員から「ようやく世界に負けない発信の体制が整っていくスタートラインに立てた。ここから勝負になる」との声が聞かれた。
課題は国民世論の関心の向上か・・・
一方で、領土・主権問題を巡っては課題も大きい。2017年に政府が実施した世論調査では、59.3%が竹島に「関心がある」と回答したものの、30代までの若年層の約5割が「関心がない」と回答するなど、日本が抱える領土問題などに関する理解は未だに深まっていない。
また、「どちらかといえば関心がない」または「関心がない」と答えた人に、複数回答でその理由を尋ねたところでは、64.7%もの人が「自分の生活にあまり影響がないことだと思うから」と回答。また31.4%が「竹島に関して知る機会や考える機会がなかったから」と答えるなど、国を挙げて領土・主権の問題を議論する土壌が整っているとは言えない状況がある。現在の展示館の状況を見ても、去年1月に開館してから10か月での来館者は約7000人だった。1か月に約700人とすると、まだまだ発信力という面では物足りない。
今回の移転で格段に広くなった展示スペースでは、ジオラマやシアター、北方領土に関する展示などを充実させるための十分な広さがある。自民党議員からは「子どもでも分かりやすく、修学旅行や国会見学の際にも立ち寄って、社会学習できるような場所にしていきたい」との声も挙がっている。
領土・主権展示館は来年の2月から3月にかけて、移転して開館する予定だ。どういった展示館になっていくのか、今後も注視していきたい。
(フジテレビ政治部 自民党担当キャップ 中西孝介、 首相官邸担当 山田勇)