震災とVRの意外な関係性。福島第一原発の中に入ってみると…。

特集「被災地、東北の今」第6回

カテゴリ:テクノロジー

  • VRで見ると、2号機の地面に段差があるのがわかった
  • 閉館した「マリンピア松島水族館」はVRで復活
  • 取り壊しなどが進む中で、VRの活用は増えるかもしれない

あらゆる可能性が期待されているVR。実は今、被災地でも活用されているという。いったいどのように使われているのか。

福島第一原発2号機の建屋内へ

私がいる場所は、福島第一原発2号機の原子炉建屋・地下1階。放射線量は1時間あたり126ミリシーベルトとかなり高い。積算で100ミリシーベルトを受けると、1000人のうち5人ががんで死亡するという(※国際放射線防護委員会〈ICRP〉の計算)。本来なら長居は許されない場所だ。

それでも私が誰に止められることもなく取材できる理由。それは、ここがVR空間だからだ。本当の場所は、福島第一原発から20キロほど離れた楢葉町。去年4月に本格運用が始まった遠隔技術開発センターの中にVR(仮想現実)の研究施設がある。

前と左右の3つのスクリーンに画像が投影されていて、特殊な3Dメガネをかけて中に入ると、その場にいるかのように立体的に見えるというものだ。

デモ映像。本物の原発建屋内の体験は撮影禁止だった。

原発作業員の訓練などのために作られたこの施設。メガネはかなり簡易的な上、壁と壁の実際の境界はどうしても見えてしまうので、「あたかもそこにいるかのような没入感」というと少し言い過ぎだと思うが、コントローラーを使って自由に中を移動できるので、訓練や作業計画の立案にはもってこいだ。

VRを体験できるメガネ
コントローラーを使って内部を移動可能。映像はデモ

福島第一原発では、これまでに40台前後のロボットが1~3号機に入って、7台が未帰還になったという。1台は回収できたそうだが、他のロボットは今も原発の内部にいる。

私が体験した2号機に関していうと、水素爆発はしていないが、地震の揺れで地面のゆがみや段差などがあり、ロボットがスムーズに通って作業することができない。そうした内部の状況を知るために、レーザーを照射して距離を測定し、建設段階の図面と突き合わせて3Dで内部を再現しているのだという。

ロボットで進むと、確かに内部にある段差を確認することができた。仮にこの場所で車輪を取られることがあれば、未帰還ロボットになってしまう。モードを切り替えれば暗さを再現することも可能。実際の訓練の際には照明を当てながら進むことになる。

今年度末までには、1号機、3号機のVR映像も準備して、ロボットの性能確認や作業員の技術向上に使う予定だという。さらには、この映像を活用し、新たなロボット開発にもつなげたいと意気込む。

担当者は「いま世界で最も難しいのが福島第一原発での作業なので、この研究を進めれば、様々な原発での作業に応用できると思う」と語っていた。

被災地で利用されるVR

東日本大震災の被災地でVRが使われているのは、原発ばかりではない。

日本で2番目に長い歴史を持つことで知られていた「マリンピア松島水族館」。水族館がある宮城県松島町は東日本大震災で大きな被害を受け、ここも休館となったが、地元の人々の期待の声を受けて震災の約1カ月後に営業を再開した。

その後も地元の人々を勇気づけながら営業を続けていたが、2015年5月10日に老朽化のため閉館となり、88年の歴史に幕を下ろした。

地元の人々に愛され続けた水族館の記憶や雰囲気を何とか残せないか。そう考えて作られたのがVRコンテンツ(360度動画)だ。

仙台市の携帯ショップに無料体験スペースが用意され、当時の様子を360度の動画で見ることができる。今年1月14、15日には特別イベントが開催され、マリンピア松島水族館の元職員たちも招待された。

元職員の川村隆さんは「今は何もないあの場所に、1年7カ月ぶりにまた戻ったような体験をさせてもらいました。自分の見たいものを360度そのまま見られるので、本当にその場にいるような臨場感がありました。このVR体験を機にマリンピアを思い出してもらえれば嬉しいです」と感想を述べた。

被災地では復旧作業を進めるために震災の記憶や爪痕が次々と取り壊されていて、今のありのままの姿を360度すべて映像で残しておくことができるという点でVRは有効だ。また、「防災教育」の観点からVRを利用する団体も増えてきているので、教訓を伝える“生きた教材”として360度映像を残しておく意味も大きい。

まだまだ続く復旧・復興作業の道のり。目覚ましい技術の発展を続けるVRは、被災地での活用がさらに増えていくかもしれない。