ネットよりテレビがいい? 若者支持の『VICE』がテレビ参入したワケ

特集「日本のメディアが米メディアから学ぶこと」第2回

カテゴリ:ビジネス

  • 若者が働きたくなる雰囲気で魅力的なオフィス
  • スタッフの3分の1がテレビ部門
  • 次にやりたいことはVR

医療関連メディア「WELQ」で記事の信憑性や制作体制が問題視されたことをきっかけに、ネットメディアのあり方が大きな議論となっている。『ホウドウキョク』では秋のリニューアルを前にアメリカで様々なメディアの現状を見てきた。その内容は、今の日本メディアが学ぶべき点も多い。それを全5回でリポートする。第2回は“若者のBBC”とさえ呼ばれる「VICE」について。

オフィスに緑が広がっていた

ニューヨークの中でもおしゃれな地域として若者に人気のブルックリン。そこに若者から絶大な支持を受けて成長したメディア「VICE」のオフィスがある。

1997年にパンクやファッションなどを扱うフリーペーパーとして始まり、2000年頃からオンライン事業に乗り出したところ急成長。今やコンテンツは国際問題や社会問題、音楽、料理など多岐に渡る。

通信の世界にとどまらず、今年ケーブルテレビに出資して「VICELAND」という24時間チャンネルを始めたことも話題となっている。

その人気ぶりから「若者のBBC」と呼ばれるなど、飛ぶ鳥落とす勢いのVICE。オフィスに入ると開放感のあるロビーで若者たちが自由に仕事をしていた。

さらに驚くのが、ロビーに面した広い中庭。本当に鳥が飛んできそうだ。

この中庭の緑には、憩いの場としての性格や冷暖房効果を高める意味合いももちろんあるが、VICEの場合はそれにとどまらない。特徴は生えている草花の種類だ。ハーブなど食べられる草花が多く植わっている。これは、ロビー奥に設置されたキッチンスタジオで調理に使うためだという。

私が取材に行った時も、ちょうど中庭から草花を収穫し、料理に彩りをつけて撮影するところだった。確かにこれ以上新鮮な状態はないだろう。

テレビは強い!

オフィスの中を案内してくれた経営企画責任者のハミルトンさんによると、VICEのスタッフは現在700~800人。そのうち約250人がテレビ部門で働いているそうだ。テレビセクションのオフィスは、広さも設備も文句なし。
「ニューヨーク・タイムズの報道センターの雰囲気を目指している」と笑っていたが、それも冗談とは思えない。

私自身は“テレビの力”を信じているが、「若者のテレビ離れ」などと週刊誌で面白おかしく書かれることもある。「若者の支持」を受けてオンラインメディアで成功しているVICEがなぜテレビ参入したのか。

「若い人がテレビを見なくなってきているというのは確かだ。しかし、テレビは死んでいない。むしろとても良い業界で、収入はケタ違いだ。テレビとネットはすごく相性が良くて、いいコンビだと思っている」

VICEではオンライン上で流すミニ番組を作り、人気が出たら1時間番組にしてテレビに出すというサイクルが多いとのこと。そして、その番組にスポンサーをつけていくのがビジネスモデルだ。


しかし、VICEほどのブランド力を持っていても、テレビで成功するのは簡単ではない。「VICELAND」放送開始3週間と、前身の「H2チャンネル」最後の3週間を比較すると、平均視聴率が77%下落したと米インターナショナル・ビジネス・タイムズが報じている。

今後、どのように戦っていくのか?そのカギは報道センターの雰囲気とは裏腹に、「ニューヨーク・タイムズの記事を目指さないこと」だという。

「自分たちはジャーナリズムではない。ニューヨーク・タイムズで出る記事じゃないものを目指しているし、ライバルはABCニュースでもない。独特のセンスでVICEらしくやっていくよ」

イラクの戦場やLGBT特集など、国際問題・社会問題に鋭く切り込むコンテンツが多いので、「自分たちはジャーナリズムではない」という言葉は少し意外だったが、これを何度も何度も繰り返していた。

ジャーナリズムを大事にするABCニュースは自分たちの真似をすることはありえないし、しようと思ってもできないという。「だから脅威ではない」とまで言い切っていた。

「テレビは儲かっているのに、良いコンテンツをネットに出すのはおかしいと思う。テレビとネットでは受け入れられるコンテンツが違うから、テレビのコンテンツをそのまま流していてはダメなんだ。ネット向けにコンテンツを作り、それを見た人がテレビを見るという循環ができてほしいと思っているよ」

次の挑戦は?

ハミルトンさんの言葉で印象的だったのは「テレビは失敗してはいけないメディア」というものだ。逆に、ネットなら何でも挑戦できるという。

「ネットでは何をすればみんなが満足するのか誰もわかっていない。そんなものがあるのかもわからない。でも、何かは成功するかもしれないよね」

デジタルでの成功をビジネスにつなげることを目的に、VICEではデータを特に大事にしている。ユニークユーザーは何人で、何分見ていて、最後まで見たかなど、様々な指標を細かく検証するため、分析チームと営業チームは同じ場所に席を配置している。

新しいことに挑戦し続けるVICE。「今後やりたいこと」を聞いてみると、ハミルトンさんは「VR(360度の映像世界)」だと即答した。

「VRはニューヨーク・タイムズがコンテンツ制作を手掛けて話題を作った。あれはすごい。私たちもああいうのをやりたいんだ」

伝統メディアの雰囲気を目指す。でも、ジャーナリズムは目指さない。それでもやっぱり、伝統メディアの姿勢は学ぶ。

その自由さが新しいことを生み出し続けるVICEの原動力になっているようだ。

行った場所:VICE本社(ニューヨーク)
答えてくれた人:Samuel Hamilton氏(VICE経営企画責任者)