「BuzzFeedなんておやつだ」米ABCの重役が新興メディアを語る

特集「日本のメディアが米メディアから学ぶこと」第1回

カテゴリ:ビジネス

  • デジタル分野では新興メディアに勝てない
  • それでもテレビは強い。BuzzFeedなんておやつ
  • VRとドローンを組み合わせるなど新しい取り組みも
清水俊宏 Reporter Dec 12, 2016
鈴木款 Reporter Dec 13, 2016

医療関連メディア「WELQ」で記事の信憑性や制作体制が問題視されたことをきっかけに、ネットメディアのあり方が大きな議論となっている。『ホウドウキョク』では秋のリニューアルを前にアメリカで様々なメディアの現状を見てきた。その内容は、今の日本メディアが学ぶべき点も多い。それを全5回でリポートする。第1回は伝統のテレビ局「ABCニュース」のネットでの取り組みについて。

テレビが潰れていく?

「20代の息子がテレビを見ないんだ」

ABCニュースのエグゼクティブディレクター・ドーランさんがおどけた表情で私を見た。

「たくさんのケーブルテレビが今後潰れていくと思うよ」

ドキッとするようなテレビの不吉な未来を予言。息子さんはスマホでGoogleやFacebookに夢中なのだそうだ。

ただ、それまでおどけていたドーランさんが真剣な表情になって、こうも語った。

「それでも、ニュースとスポーツではテレビが必ず残るよ」

BuzzFeed、ハフィントンポスト、VICEなど、ネット上でニュースを扱うメディアの台頭は著しく、伝統的なテレビニュースを脅かす存在に見える。「見たい時に見たいものが見られる」「時間無制限」などの点では、どうしてもネットメディアが有利だ。

「デジタルの世界ではバズフィードには勝てないだろう。若い人を抱え、安い給料でコンテンツを大量に生産しているからね」

素直にそう認めつつも、「新興メディア」の欠点を語り出した。

BuzzFeedはおやつ?

「BuzzFeedは噂話も記事にする。今のようなコンテンツの作り方をしている限り、絶対に質で我々に追いつけない。真似をして価値のないコンテンツを作ったらABCのブランドを下げるだけだ」

ドーランさんに言わせると、「BuzzFeedはおやつのつまみ食い」なのだそうだ。おやつはどんなに頑張っても所詮はおやつ。BuzzFeedなど新興メディアは広告収入も会員収入も、すでに限界が見え始めていると分析している。そもそも「デジタルニュースで儲かるというのは幻想」なのだという。

「ニュースに金を払おうというユーザーはほとんどいない。エンターテイメントならまだしもね。テレビとネットの収入は、今もこれからしばらくも比べ物にならないよ」

しかし、テレビも安穏としていられるわけではない。米調査会社の分析によると、2016年に全世界のインターネット広告収入がテレビ全体の広告収入を上回るという。2020年にかけてテレビ広告も増える試算だが、インターネット広告の伸びはそれを超えている。

テレビを収益の柱に据えるとしても、インターネットはもはや無視できる存在ではない。ABCもテレビの枠から飛び出さずに手をこまねいているつもりはない。

ただし、ABCの場合は、コンテンツをヤフーに出す場合もTwitterに出す場合も、 “高いジャーナリズムの基準”を必ず守っているという。「おやつ」に対して「高級ディナー」といったところだろうか。基本的には「おやつの時間に“ABCディナー”の良さを知ってもらうこと」が目的だ。

「テレビやラジオを含めて、ABCすべての取材素材をデジタルで使えるようにしている。デジタルで出したコンテンツの続きをテレビで見たいというケースも多く、宣伝効果も高いよ。
また、世論調査の結果はとてもデジタル向きのコンテンツだ。そこでどう見られたかのデータをテレビ番組にフィードバックできる意味はとても大きい。ジャーナリズムという点は新興メディアに絶対に負けない強みだね」

ABCではFacebookやTwitterなどにどうやってコンテンツを載せるかだけを考えるスタッフを採用し、デジタル部門で活躍しているという。

おかげで、テレビ担当は「視聴率を取れる最高の番組作り」だけを考えればよく、デジタル部門の担当者が『最高の素材』をそれぞれのプラットフォームに合った形で自由に編集し、発信している。

ただ、セクショナリズムで分断されたりすることがないように、テレビチームとデジタルチームはオフィスでも常に顔を合わせるようにしている。

ネットはテレビの敵?

日本では「デジタルにコンテンツを出すと、テレビを見る人が減ってしまう」という考えが根強い。そのことをドーランさんに聞いてみたところ、この日一番の大笑いをした。

「かなり昔にアメリカでもその議論はあったよ。だけど、すでに過去の問題だね。トランプのスクープインタビューをとった時に、『テレビで出すまではデジタルに流すな』という声があがった。結局、デジタルに出したんだけど大きな話題となって、結果的にテレビを見る人も増えたよ」

デジタルシフトは取材する記者にとってもメリットがあったという。

記者は日々のニュースに追われるため、自分で何の取材をしたのか忘れてしまいがちだ。ABCの記者も、テレビ放送では「流しておしまい」という面が強く、録画して自分でもう一度振り返ることは少なかった。

しかし、デジタルに合う形で出すためにテキストや短い動画に作り変えることで、大きな流れを整理したり気軽に見返したりできるようになったという。

また、自分の取材に対するユーザーの反応が数値などでダイレクトにわかるのはデジタルならではで、それを再び取材に生かせるとも語っていた。

目下、取り組んでいるのはVR(360度カメラによる映像)。ドローンと組み合わせて火山の中に入る視聴体験ができるなど、これまでにないプロジェクトを次々と進めているという。

「テレビ離れ」という言葉に惑わされず、「テレビ」の枠に捕われず。「テレビメディア」が目指すべきヒントが隠れているようだった。

行った場所:ABCニュース本社(ニューヨーク)
答えてくれた人:Paul R Dolan氏(ABCニュース・エグゼクティブ・ディレクター)