『共謀罪』でテロが防げないこれだけの理由

また新設に向けて動き出した「共謀罪」は果たしてテロ対策の役に立つのか、古市憲寿+専門家2人が法案の行方を占う。

カテゴリ:国内

  • ATMでお金をおろすだけで犯罪になるかもしれない
  • 共謀罪はテロ対策どころか乱用される危険がある
  • 共謀罪よりまずやるべきことはたくさんある

政府は過去に3度廃案になった「共謀罪」を改めた「テロ等準備罪」の創設を柱とする組織犯罪処罰法改正案を、20日召集の通常国会に提出する。「共謀罪」は、テロなど組織犯罪を未然に防止することが目的だが、対象となる犯罪が600以上にもなり、拡大解釈による不法逮捕が懸念されている。果たして「共謀罪」は今必要な法律なのか、古市憲寿が2人の専門家に聞く。

共謀罪は警察の野望である

弁護士  弓仲 忠昭さん

かねてから警察は、犯罪の実行に至らない段階でも合意さえあれば犯罪とするものを「共謀罪」として捕まえたいという野望があったんです。しかし、共謀罪は2003年から2005年にかけて3回国会に提出されたものの、市民、労働者、刑法学者、弁護士会などの強い反対で、廃案もしくは審議されませんでした。

それが、2013年に特定秘密保護法の中で一部共謀罪が制定。
2015年には「戦争法」(安全保障関連法)が成立。
2016年には盗聴法の拡大とか司法取引を含む刑事訴訟法の改正案が通りました…私たちは改悪だと思いますけれど。共謀罪は安倍政権が目指す、戦争できる国づくりに必要な法案ということで、今出てきたのだと思います。

ATMでお金をおろすと犯罪?

今のところ法案が公表されている訳ではありません。去年の8月末あたりから、政府がこういうことを画策しているという報道があって、その資料などから推測するしかないんですが、準備行為をしただけでも問題になりかねない。

準備行為というのは、例えばATMで犯罪の資金をおろしたとか、ホームセンターに犯罪の道具を買いに行ったということです。行為自体は、日常生活で誰でもやること、犯罪に直結すると見えるわけではないんです。

殺人などの重大犯罪には予備罪というのがあって、例えば刃物を持ってうろついたりすると予備罪として処罰されるということが例外的にあります。けれど、準備行為と言うのは、それ自体が一定の危険性を備えている必要性はないんですよね。結局、警察が判断すれば犯罪ということになり兼ねない。

しかも対象となる犯罪は、新聞報道によると676にも上り、これは広過ぎます。600を超える犯罪について、一人が準備行為をすれば、それ以外の人も全部ひっとらえられることになりかねない。労働組合とか、原発反対とか、沖縄に基地作っちゃだめだとか、そういう反対運動をしている市民団体などが、捜査当局の判断一つで組織的犯罪集団にされかねない。それがきっかけになって人権侵害が起きる恐れが強まることも心配しています。

私が一番心配しているのは、去年の刑事訴訟法等改正で導入された司法取引です。これは、自首したり合意したうえで残忍な犯罪について捜査に協力すれば、本人の罪は軽くなる、あるいは免除されるというシステムになっています。例えば、警察が目を付けた団体にスパイを潜入させて、他の人に何らかの計画を持ちかけ、準備行為をして自首するとスパイは罪が軽くなったり免除されますが、計画に参加した人は捕まってしまうわけです。共謀罪は、市民団体や労働組合を弾圧するための道具になり得ると心配しているんです。

共謀罪でテロは防げるか

共謀罪は、国際的な組織犯罪を防止する条約を締結するために必要だ、というようなことが言われています。しかし、その条約ができたのは、アメリカの911テロが始まる前で、元々はマフィアとか経済的な組織犯罪を処罰するために国際間で連携をとりましょうという内容だったんです。当初、条約の中にはテロ対策っていうことは念頭になかったんです。テロ対策と言えば何でも許す、少々の人権侵害はやむを得ない、目をつぶることも仕方がない、という風潮になっているのが、大変心配です。

共謀罪はテロ対策どころか乱用されるかもしれない

青山学院大学法務研究科教授・弁護士  浜辺陽一郎さん

共謀罪は、果たしてこれがテロの防止に役立つのかも疑問ですし、他方 役立たないどころか逆に乱用される恐れも心配されるんじゃないでしょうか。

共謀罪で対象になる犯罪は、、とにかく「懲役4年以上のものは全部」みたいに、ものすごくざっくりしたものなんですね。別に共謀罪なんてなくても、それなりに現行法でも規定は出来るんですよ。ところが、あれも欲しい、これも欲しいみたいな感じで、新しい刑罰法規を作ることは、ちょっといかがなものかと思います。

警察など関係当局は、新しい武器を得ることができるわけです。いざとなったら、なんでも「しょっ引ける」状態を作り出すことができますよね。今は、いろいろと頭をひねらなきゃいけないんですけれど、これを使えば、いろんな形に広げることができます。

共謀罪のような仕組みは、どこの国の権力者も似たようなことは考えがちなので、人権の歴史は、それをどう規制するかという方向でした。しかし、いま世界はテロの脅威を抑えようとしているので、共謀罪のような動きが強まっているのかもしれません。

共謀罪はどう使われている

アメリカでは90年代から有名で、企業犯罪でもよく共謀罪の話が出てきます。ただアメリカとは取り調べに弁護士が立ち会うことができるとか、刑事手続きの基盤も違います。一方、逮捕されたら99%有罪になる日本の風土としては、警察や検察に目をつけられたらおしまいだ、という雰囲気があるわけです。こういった非常に漠然とした法律が導入されてしまうと、本当に悪いやつを捕まえるならいいんですが、「あいつは気に入らないから捕まえよう」みたいにならないかという懸念があるということじゃないですかね。


海外では、共謀罪があっても、テロは防げていないという話もあります。日本の場合は、それ以前にやることがあるんじゃないでしょうか。たとえばサイバー犯罪に対する取り組みであるとか、犯罪者の国際的な引き渡しであるとか。毎日パソコンに届くメールの中にも国際犯罪が絡むものがあるわけですが、それすら捕まえられないのにこんな法律を作ってうまくいくんでしょうか。確かに国際的な連携が足りないところはあるわけで、そういうところをきちっとやらなきゃいけないのに、共謀罪がどう役に立つのか。できない事もいろいろあるのに、どうするんだという事を今回の議論で感じています。


どの業界も同じですが、今問題だと思うのは、優秀な人が少ない。警察も検察も優秀な人って非常に少ないわけです。本来やるべきはそういう人材をきちっと育てなきゃいけない。あるいは、今ある捜査の手法をもっと高度化するであるとか、そういう事に力を入れた方がテロ対策としては有効なんじゃないですか。警察も時折不祥事を起こす中で、やらせてくださいって言われても「ハイそうですか」ってわけには、なかなかいきにくいんじゃないかという感じがします。

アンカー古市憲寿のまとめ

テロ対策といえば、通信傍受法とか、すでにいろんな法律があるわけです。新たにこの法律を作ったことによって、どれだけテロ対策になるかというと、なかなか怪しくて、逆に害の方が大きいんじゃないかなという話でしたね。


テロ対策というのは難しくて、いま世界では銃乱射とかではなく、トラック1台あれば単独犯で何十人もの命を奪えてしまう。果たして、この新しい共謀罪を作ることで本当にテロ対策ができるのかって考えると、なかなか怪しいなって思うんです。そんな時代に、本当にこの法律に意味があるのかなっていうのが、お二人に共通した意見でした。


トラックだけじゃなく、「包丁」だって人は殺せるけれど別に悪くないように、なんだってテロや犯罪は起こせるわけで、果たして共謀罪が本当にテロ予防になるかというと難しい、というか重要なのは、そこじゃないんじゃないかという気がします。