古市憲寿が「男性保育士の女児オムツ交換NG」騒動を冷静分析

男性保育士に「女児のオムツ交換や着替えをさせないで」という要望は妥当か?古市憲寿が2人の専門家に聞く

カテゴリ:国内

  • 保育士が専門職として見られていない
  • あの男には娘をさわらせたくない!という親
  • 男性保育士についての議論は話を広げ過ぎ

男性保育士が、女児の着替えやオムツを交換をすることなどを一部の保護者が嫌がっていると、千葉市の熊谷市長がTwitterに投稿したところ、ネット上の議論に発展している。千葉市では保護者の声を受け、一部の保育所で男性保育士を特定の仕事から外すということも行われているという。社会学者の古市憲寿はどう見るのか?

古市憲寿の目線

産婦人科医にも男性はいるけど、医者だと男性・女性が問題になることはあまりないと思います。それだけまだ男性保育士の認知度は少ないという事なんですかね。今、大きな問題になっていますが、それより保育士の数が足りないとかの方が重要で、こういう事で揉めてる場合じゃない気もするんですけど。

保育業者から見れば2周遅れの議論

NPO法人フローレンス代表理事  駒崎弘樹さん

我々保育業者からすれば、2周遅れているという感じです。なぜ、こんなことが議論になるかというと、保育士が専門職として見られていないからです。大学の先生に男性がいても、とやかく言われません。小学一年生の体育の着替えを男性の先生が見ても何も言われません。でも、その一歳年下の年長さんを男性保育士が担当するのはイヤだというんです。矛盾してますよね。

「保育」というのは「子供を慈しみ育てる」という行為と「教育」という2つの概念が組み合わさったものなんです。しかし、日本では「子育てのアウトソース」だったり「母親の代替」だと多くの国民が思っているが故に、女性がやるものだというメンタルモデルを抱え続けているわけです。小学校の先生に男性がいるように、保育も男性がいるべきです。男性だからといって現場から外すのは性差別に当たると思います。

私たちは、基本的には男性保育士を外すという事はしていません。親御さんにきちんと、こう説明します。「保育士というのは擁護を行うのと同時に教育者なんです」「小さいころから男女半々に近い多様性の中で育つというのは、今後のこの子の人生にとっても良いものです」なので信頼してお任せしてもらえますか、という風に伝えます。

66の保育園が1人の保育士を奪い合う

東京都では、去年11月の時点で保育士の有効求人倍率は66倍でした。どういうことかというと66の保育園が1人の保育士を奪い合っているんですね。保育士を集められないので保育園を増やせないんです。

さらに男性保育士は全体の数パーセントしかいません。その理由の多くは処遇にあります。保育士の給料の平均値は月額20万ちょっとなので、なかなか男性は参入しづらい。だから女性の仕事とされていて、だから処遇を上げなくていい、という政治的意思が働いていて、2重の意味で男性を排除しているんです。

保育士が集まらない原因は、「長時間労働など働き方の問題」、先ほど挙げた「処遇」、3つ目は専門職としてみなされていないという「社会的地位の低さ」があります。保育士は子供の専門家というプライドを持って仕事に取り組んでいますが、周囲からは「子どもと遊んでるだけでいいね」という言葉を投げかけられるんですね。そうじゃないんです。子供の心の基盤を作るために語り掛け、遊びを通じて自発性・内発性を育てていく。繊細なプロの仕事をしているんだけど人々は理解してくれない。そういうことを分かってもらうためにも、こういう論争の機会だけでなく声を上げて伝えていきたいと思います。

男性保育士の問題は年に2~3件

アイギス代表取締役  脇貴志さん

こういう議論が起きたのは、男性保育士が起こした性的虐待などの問題があるからだと思います。我々の会社は、そういう事が起きたときに、園側に対してアドバイスをしているんですが、だいたい年間に2~3件はありますね。

そういう事はごく一部なんです。でもそれが全体のイメージを作り上げちゃっているのであって、男性保育士を特定の仕事から外すのは妥当ではないと思います。

あの男には娘をさわらせたくない!

もともとは「私の娘を預けている、あの男はイヤだ」という、特定の人物への要望だったと思うんですよ。それを、性別の問題まで拡大しちゃっているから、この問題はややこしくなっているんでしょう。逆に「あの女には私の息子を預けたくない」って保護者もいます。

やっぱり大切なのはイメージなんです。「あの男は、子どもを性的な対象として見るんだろうなあ」というイメージを与える何かをしているんですよね。例えば、目つきが変だとか、はっきり挨拶しないとか、名前を呼ばれてもモゾモゾしているとか、そういうイメージの問題なんです。お母さんと男性保育士が信頼関係を構築する時間に何か問題がある、つまり「朝の受け入れの時」か、「夕方のお迎えの時」か、どっちかです。オムツ交換の手つきがいやらしいとかじゃないんですよ。だって お母さんはそういうところを見られませんから。

私が一緒にお仕事させていただいている保育園では男性保育士さん専門の研修もしています。そこで「こういうところが誤解を招きますよ」とか「こういうところをお母さんは見てますよ」とか「そういうことは信頼を裏切りますよ」ということを説明しているので、問題は一切出てきません。

男性保育士の採用をやめる保育園

「男のくせに保育士をしてるってなんなの?」と思っている人がいるんですよ。少数派に対する偏見みたいなものです。男性保育士は増えているところもあります。でも逆に、こういう問題があるので「昔は男性保育士を採用していましたけれども今はやめました」という保育園もあります。

これからは男性保育士が、職場の中で文化やいいイメージを確立していかなければいけないと思います。一番よくないのは、「こういう問題が出ました、だから男性保育士はやめましょう」という流れ。これは性の差別でもあるし、職業の差別でもあるんですよ。

今は、保育士そのものの労働人口が減っていて、他の業種と取り合いみたいになってます。にもかかわらず「保育士は男がする仕事じゃない」みたいなイメージがあったら、更に苦しくなってしまうでしょう。要するに個別の問題で議論すればいいのであって、「男性保育士ってどうなの?」っていうのは話の範囲を広げすぎなんですよ。

古市憲寿のまとめ

確かにそうですよね。男性保育士全体の議論っていうのはどうなんでしょう?

駒崎弘樹さんは「2周遅れ」っておっしゃってましたし、脇貴志さんは「意味ない」って話でしたし、そうだと思います。まだまだ世間の偏見があることが浮き彫りになりました。

保育士が足りない、でも待遇が悪いから人数も集まらない。その中で無理が生まれたりするわけです。もっと保育士さんにいい環境を作って、専門職と認知されるように待遇も改善してあげることが大事なんではないかと思いました。Twitterでは男性保育士のことを知ってもらうために「月9」とかにしたらいいんじゃないかって意見が来てますね。