マネされないレベルの仕掛けを作る。今すぐ始める「ブルーオーシャン」戦略

身近なサービスやエンターテインメントを経営学の視点で解説

カテゴリ:ビジネス

  • 「スタディサプリ」が引いたもの
  • 本当の「ブルーオーシャン」はマネされない
  • 誰も追いつけないアイデアを生み出す方法

前編に引き続き、早稲田大学ビジネススクール准教授・入山章栄氏が、サーカス・エンターテイメント「シルク・ドゥ・ソレイユ」の日本公演最新作「ダイハツ キュリオス」を実際に鑑賞し、「ブルーオーシャン戦略」について解説する(後編)。

(前編「競争のない世界を独り占めする」https://www.fnn.jp/posts/00045751HDK/201803310000_FNNjpeditorsroom_HDK

(聞き手:新美有加アナウンサー)

ブルーオーシャン戦略をとった「スタディサプリ」

シルク・ドゥ・ソレイユは一般的なサーカスの価値であった動物やスターを引き、新たな価値を追加し、独占的な地位を築くまでに至った。

ブルーオーシャン戦略のポイントは「引き算」。既存の価値を引き算することで余裕が生まれたところに、新しい価値をプラスしていくという考えだ。

「コントーション」Photo: Martin Girard / shootstudio.ca © 2014 Cirque du Soleil

(※都合により公演の内容は一部変更される場合が御座います)

――シルク・ドゥ・ソレイユ以外に、ブルーオーシャン戦略の成功事例は?


入山:
「スタディサプリ」ですね。こちらも「バリューカーブ」(価値曲線)を書いて説明していきます。

リクルートが提供するオンライン学習サービスの「スタディサプリ」は、月額980円で小学校、中学校、高校、大学受験に必要な4万本以上の質の良い授業を見ることができます。すでに多くのユーザーを獲得して、教育産業で革命を起こしています。

これはご本人に伺ったのですが、実際にスタディサプリを考察・運営しているリクルートの山口文洋さんが、ブルーオーシャン戦略の価値曲線を参考にしてこのサービスを思い付いたのです。塾や予備校で必要な教室や場所の調達、管理などが大きな課題で、大きい塾・予備校でも先生の確保は必須でした。

そして、拠点が増えるほどに先生を確保しなければならないため、全国展開すると授業の内容や指導力にも差が出てきてしまう。この問題に、スタディサプリは従来の塾・予備校の在り方を見直して、新しい価値を生み出したんです。

入山:
一つは、教室をなくしてインターネット配信にすること。ネット配信にすれば、1つの講義内容につき、先生は1人しかいりません。レベルの高い先生が1人いれば良いわけです。ですから、山口さんは各分野のナンバーワンの先生だけを集めました。

もう一つは、ネット配信であれば、全国誰でもどこでも、勉強したい時に見ることができます。何らかの事情で塾などに通うことができない子どもたちにも、教育のハードルを下げることに成功し、塾がないような過疎地でも受けることができるようになった。

さらに言えば、ネット配信は使うのに時間を選びません。先生が映像で授業を教えてくれるので、自分の学習タイミングやスピードで、繰り返し復習できるようなったんです。

従来型の塾や予備校で必要とされる「先生」や「教室」を引き算して、逆にインターネットを用いてトップクラスの先生を提供したことが、ブルーオーシャンとして確立した成果となった。

「スタディサプリ」では、トップレベルの先生を独占しているため、「先生」という点では「スタディサプリ」以上の先生を確保できないなど、競合他社が参入しようと思ってもクオリティーが下がってしまう点など、ブルーオーシャン化していると言えるという。

ーーこの「スタディサプリ」は意外な使われ方をしているそうですね。

入山:
学生時代、授業中に先生から「ここ大事なところだから1回しか言わないぞ」と言われた経験ありません?これって、今思うとちょっとヒドイですよね(笑)。

スタディサプリは「1回しか言わないぞ」なんてことはなく、何回も繰り返し見ることができるので、高校の補習で使われてるそうです。

実際、これはスタディサプリ担当者の方も想定外だったようですが、授業で置き去りになった生徒や予備校・塾などに行けない生徒たちに、ブルーオーシャンが切り開かれたんです。

真のブルーオーシャンとは?

企業やビジネスでブルーオーシャン戦略を取った場合、ある一定期間は独占状態を貫けるかもしれない。しかし、同業他社が追随して、また業界がレッドオーシャン化する可能性もあるだろう。その時はどう対処すればいいのだろうか。

入山:
マネされるブルーオーシャンもありますが、それは本当のブルーオーシャンではない。本当のブルーオーシャンは、マネされないレベルの仕掛けを作ること。それが、シルク・ドゥ・ソレイユです。

シルク・ドゥ・ソレイユは新しい演目の開発に多大な資金を掛け、加えて世界中からあらゆる分野のアーティストを集めています。一般的なサーカスでは、人的な面も初期投資もそこまですることはできない。そこに圧倒的な優位性があり、マネすることが難しいんです。

シルクは投資と人的資源に強みがあります。スタディサプリなら、それは「ナンバー1の先生」。その他の塾や予備校は二番手になります。このように、一度先行したら誰も追いつけない仕掛けをすることが理想ですね。

――誰も追いつけないアイデアを出すことはかなり難しいと思いますが、どう生み出せばいいですか?

入山:
これは私の経験則ですが、多くのイノベーターに共通するのは強い原体験を持っていることです。過去に「これはおかしいんじゃない?」「別のあり方ならもっと価値を生み出せるのでは?」という経験から、ある時ふっと降ってきて新規事業につながっていくんです。

――仕事以外のことからビジネスチャンスが生まれることも?

入山:
イノベーションの父と言われる経済学者ジョセフ・シュンペーターは「イノベーションは常に既存のものと、別の既存のものが新しく組み合わさることで生まれる」と言いました。

これはニューコンビネーションと言い、日本語では新結合と呼ばれるものです。人はゼロからは何も生み出せず、常に何かと何かを組み合わせて、新しいものを生み出している。これがイノベーションの基本原理です。でも、人間は目の前にあるものを組み合わせる傾向があるが、30年以上も生きていると目の前にある組み合わせは終わっているんです。目の前でなく、遠くのものを見ておく経験がのちのち、重要になってくるんです。

――遠くのものを見るとはどういうことですか?

入山:
いろいろな可能性がありますよ。例えば、異業種交流会で仕事や趣味の話をしたり、知らないことを学んでみたり、旅に出るのだっていいかもしれない。私のオススメは、書店で今まで行ったことのないコーナーへ行って、目を閉じて本を選んでみることです。

このようにして、自分がまだ出会っていない遠くの知識を取り込むことで、知と知の新しい組み合わせが生まれて、イノベーションにつながっていくはずです。

――初対面の人や行ったことのない場所へ行くことが大切ですか?

入山:
日本の終身雇用制は良い面も悪い面もありますが、長い間同じ会社にいて同じような人と会っていると、知と知の組み合わせが終わってしまうんですよ。そういう意味でも、フジテレビでイノベーションを起こすのであれば、お台場という場所から外へ出て、いろいろな業界の人と付き合ってみるのがいいかもしれませんよ。

フジテレビはお台場にあることが、現状では物理的なチャンスを減らしていますよね。これは大きな課題かなと思います。東京の都心部と距離があり、交流の場が少なくなっています。自ら都心部に行ってみるか、むしろ逆にお台場に全く違う分野の面白い人たちを呼んでみるのがいいはずです。

アナウンサーでブルーオーシャン!?

新しい市場を開拓し、独占的な地位を築くことができる「ブルーオーシャン戦略」。

企業やビジネスだけではなく、同僚や上司と差別化を図って、抜きんでた存在になるためにはどうすればいいのか。

新美:
人数も多く、さまざまな個性のあるアナウンサーが多い中で、私もブルーオーシャン戦略を取り入れてみたいのですが、どうすればいいでしょうか。

入山:
面白い質問ですね。ブルーオーシャン戦略になぞらえれば、それは女性アナウンサーの価値を抽出して、自分の価値曲線を描いてみることですよね。

ブルーオーシャン戦略の考えは引き算なので、出した価値の中から引かないといけません。引いたら何かが出てきます。

新美:
私のどこが女性アナウンサーとして価値を認められているのか、考えるのが最初ですね。技術力などは引けません。

入山:
あえて、そこを引いてみるとどうですか?(笑)

新美:
自分のプライドが邪魔をします…。引くのも、新しい価値を見つけるのも難しいですね。

一回、自宅でこっそりとやってみます(笑)。

■入山章栄氏
早稲田大学ビジネススクール 准教授。
三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。『[新版]ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』(ダイヤモンド社)の監訳にも携わる。国際的学術誌に多くの研究を発表している。2012年に刊行した『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)2015年末に刊行した『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)は、共にベストセラーとなっている。