イメージカラーを「黄色」に変更

突然だが皆さん、中華料理店の「色」は?と聞かれたら何色を思い浮かべるだろうか。
筆者が思い浮かべるのは赤色だ。赤い看板で中華料理店の存在を認識し、ラーメンや炒飯の香りに誘われて赤いのれんをくぐる。
お店によっては、店内に赤い提灯がぶらさがっていることもあるだろう。

そんな中華料理店のイメージカラーに、新たな流れが起ころうとしている。大手チェーン店の「大阪王将」が、「赤・黒」を基調としていた看板の色を「黄色」に改装しているのだ。

看板メニューの餃子(提供:イートアンド)
看板メニューの餃子(提供:イートアンド)
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運営元の「イートアンド株式会社」によると、大阪王将が黄色い看板への改装を始めたのは、2018年11月から。
2019年3月末現在、直営店38店舗、加盟店308店舗のうち、計7店舗が黄色い看板で営業しているという。

注目すべきはその影響。2018年11月下旬に黄色い看板に変えた東京・西五反田店では、翌月の売上・客数が前月比で130%を記録したという。これら看板の影響もあってか、イートアンドの2019年3月期の売上高は、前年比3.5%増の約291億円となっている。

売上アップという効果を生んだ改装だが、これは看板の色の変更によるものなのだろうか。そして、店舗の「顔」と言える看板になぜ黄色を選んだのだろうか。
イートアンドの担当者に聞いてみた。

創業当時への「原点回帰」

――店舗看板を黄色に改装したのはなぜ?

大阪王将は2019年9月で創業50周年を迎えます。これを機会に「原点回帰」しようと始めた取り組みです。
創業時のイメージカラーである黄色を基調に、昭和を感じさせるようなデザインを導入しました。ただ、50年前のデザインをそのまま持ってきているわけではなく、新しく制作したものを採用しました。


――大阪王将は赤・黒のイメージがあったが、いつから変わった?

看板のモデルやデザインは、実は時代ごとに変化しています。赤と黒を基調とした看板は2000年代初期、「モダンデザイン」として大阪エリアから広がりました。店舗の景観は周辺の環境や立地で異なったり、加盟店がデザインを選ぶこともあるため、実際はさまざまなデザインの店舗があります。

創業当時の大阪王将は黄色だった(提供:イートアンド)
創業当時の大阪王将は黄色だった(提供:イートアンド)

――「黄色い看板」に改装した店舗ではどんな変化があった?

黄色い看板を採用している7店舗のうち、2店舗は創業当時から「黄色い看板」で営業している古い店舗です。赤・黒から黄色に改装したのは残り5店舗ですが、このうち、西五反田店では売上や客数のアップが確認できました。その他の店舗では改装が直近のため、数字としてお出しできる情報がありません。


――このような影響があったのはなぜ?

看板が黄色くなり、店舗の存在が視覚的に気付きやすくなったことはあると思います。飲食店を選ぶ際は「○○に行こう」と決めていなければ、目に付いたお店に入ることも多いです。そんなとき、大通りから離れたお店は選ばれにくい傾向にあります。

西五反田店もそんな目立たない店舗の一つでしたが、看板を黄色くした後は客数も増えました。「大阪王将が新しくできたんだ」と勘違いされる方もいたため、新規のお客さまが多かったのではないかと思います。

改装前の西五反田店(提供:イートアンド)
改装前の西五反田店(提供:イートアンド)
改装後の西五反田店(提供:イートアンド)
改装後の西五反田店(提供:イートアンド)

――看板以外に変わったものはある?

店舗によって異なりますが、メニューの内容も一部変更しています。
西五反田店では、ハーフサイズを廃止し、定食メニューや既存商品の充実を図りました。その結果、30~40代のお客も増え、お酒のおつまみとしての需要に加え、お食事処としても選んでいただけるようになりました。


――黄色い看板はこれから広げていく?

店舗に与える影響を確認して、経済的な有効性があれば他店舗にも導入する方針です。加盟店でもリニューアルする店舗があれば、選択肢として提案するかもしれません。


大阪王将が多くの方にとって馴染み深い、赤や黒の看板ではなく、「黄色い看板」で創業されたとは意外だった。
では、売上や集客に視覚的な効果はどのように関与したのだろうか。
色が人の心に与える影響を研究する「色彩心理」の専門家・佑貴つばささんに分析してもらった。

「黄色」と「黒」は最も目立つ組み合わせ

佑貴つばささん
佑貴つばささん

――大阪王将の取り組みをどう思いますか?

色は人の感情や体験や記憶と結び付きやすく、人は色に「イメージ」や「象徴的な意味」を重ねます。モノを見るときに色のイメージを重ねることもありますし、色の持つ「心理的効果」で人の行動が促されることもあります。

今回は店舗看板の色を変えたとのことですが、看板はお店の第一印象を決めるため、色づかいはとても大切です。色を使い分けることで「店舗の印象」や「求める客層」に影響を与えることもできますし、店舗を見つけてもらいやすくする「工夫」とすることもできるでしょう。


――「赤・黒」から→「黄色」では何が変わる?

色の目立ちやすさは、色が光を反射する波長の長さで決まるとされています。人の目に見えるものなら、波長が一番長く目立つのが「赤」、逆に一番短く目立たないのが「紫」です。

しかし、これが複数の配色になると、ベース色と他色の明度に差があればあるほど目立つようになります。このうち最も目立つ配色が、新しい看板に採用されている「黄色」に「黒」の組み合わせなのです。黄色は有彩色で一番明度が高く、反対に「黒」は一番明度が低いです。この組み合わせは人の目を強く引きつけます。
遠くからでも認識しやすい配色なので、踏み切りの遮断機や注意喚起の標識にも使われていますね。

改装前と改装後の写真を見比べると、今回は看板の配色が黄色に黒文字の配色となったことで、店舗が「大阪王将」であると認識されやすくなったのではないでしょうか。西五反田店の客数が増えた要因のひとつと考えられます。

このほか、黄色は「気軽さ」や「安い」という印象にもつながりやすいです。現実でも「マツモトキヨシ」「ドンキホーテ」や「鳥貴族」など、「低価格」を特徴とするお店の看板には「黄色」が使われていますよね。
このほか黄色は「進出色」と言い、対象が実際より近くにあるように見える効果もあります。

赤色の看板が特徴的な「なんば御堂筋店」(提供:イートアンド)
赤色の看板が特徴的な「なんば御堂筋店」(提供:イートアンド)

――色が持つそれぞれのイメージは?

今回の改装に関係する色のイメージは次の通りです。

・黄色
「希望・喜び・意欲・好奇心・無邪気」などの印象を与えます。
「明るい、楽しい、親しみやすい」といった感情を感じさせます。

・黒
「重厚感・高級感・威厳・プロフェッショナル・強い意思」などの印象を与えます。
信頼性を感じさせることから、従業員の制服などにもよく採用されます。

・赤
「自信・活動的・情熱・達成感」などの印象の与えます。
「情熱や自信」と関連しやすい色とされています。


このうち、黄色と赤はどちらも暖色系の色ですが、「赤」に「黒」を組み合わせた改装前の看板より、新しい「黄色」の看板の方が「明るさ、気軽さ、入りやすい雰囲気」を与えると考えます。

なぜなら「黒」は「重厚感」や「高級感」を演出できる色ですが、反面、敷居の高さや緊張感につながり、気軽に入りにくい印象を与えてしまうこともあるからです。西五反田店の場合、大きな面積の「看板」全体を「黄色」に変えたことで、店構えがより明るく、カジュアルで気軽に入りやすいイメージに変わったと思います。

ターゲットの客層によっておすすめの配色は変わる

――客足や売上を伸ばしたいお店に、おすすめの色彩などはある?

「赤・オレンジ・黄色」などの暖色は、自律神経の活動モードである「交感神経」を優位にする働きがあります。暖色には「食欲を刺激する効果」があると言われており、食品のパッケージにもよく使われています。

反対に「青」などの寒色は、リラックスモードの「副交感神経」を優位にして「食欲を抑える効果」があります。一方で「冷たい」印象も与えるので、食品でも「爽快感」や「スッキリ感」を伝えるパッケージには使われています。

実際の店舗においては、目立つ色を使うとともに、お店やターゲットの客層にあった配色をすると良いでしょう。例えば、主婦の利用が多いスーパーでは、マゼンダやピンク色など、女性らしさを感じさせる色が採用されています。デパートの販売コーナーでも、男性向け商品の売場には寒色、女性向け商品の売場には暖色が使われています。このほか、高級感を与えるなら「黒」、リラックスさせるなら「緑」などの色づかいがおすすめです。

もし「おいしい」という印象を与えたいのであれば、オレンジが良いでしょう。オレンジがかった「温かみのある光」の下では、食べ物がおいしそうに見え、食欲につながるとされています。

このほか、店内の色づかいは「お客さまの回転率」とも関わりがあります。
暖色に囲まれた店では、実際の時間よりも長時間滞在したような印象を与えます。短時間でも満足度を得られるため、回転率を上げることにもつながるのです。マクドナルドなど、ファストフード店の看板や内装には、暖色が使われていることが多いです。

反対に、リラックスしてゆったり過ごして欲しい場合には、寒色系の色を少し取り入れると良いでしょう。暖色系の中でも暗めの「茶色」やトーンをおさえた「ベージュ」を使ったり、観葉植物で「緑」を取り入れるのもおすすめです。

イメージ
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ガッツリ系のラーメン店やディスカウントストアなど、「黄色」に「黒」をモチーフとした店舗は多いが、まさか配色の中で最も目立つ組み合わせとは驚きだった。
そして、黄色は「気軽さ」や「安い」という印象にもつながりやすいということで、今回の看板の色の変更は、大阪王将が求める客層にもマッチしたということのようだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。