滞納したらどうなるの…?家賃トラブル解決のパイオニアが見た現実

カテゴリ:暮らし

  • 「家賃滞納を中心に活動する司法書士はあまりいない」
  • 家賃を滞納したら…返済のチャンスもあるが応じないと裁判へ
  • 孤独を抱えた滞納者たち、環境・生活が変わらないと再び滞納

「家賃滞納」と聞いても、ピンと来る人はそう多くないかもしれない。
 
けれど、賃貸物件の家賃滞納問題は増加傾向にあり、以前は事業の失敗などの理由が大半だったが、今では景気の低迷や年金受給年齢の引き上げ、低賃料物件の減少など、さまざまな理由があるという。
 
そこで、約2200件以上ものリアルな家賃滞納の現場を見てきた『賃貸滞納という貧困』(ポプラ新書)の著者で司法書士の太田垣章子さんに話を聞いた。

司法書士の仕事は?

まず、司法書士という職業は聞いたことがある人はいると思うが、どんな仕事をしているのだろうか。家賃トラブル解決のパイオニア的存在である太田垣さんは「家賃滞納を中心に活動する司法書士はあまりいないです」と話す。
 
司法書士は基本的には登記が中心。これまで司法書士は裁判の代理人にはなれなかったが、平成14年の法改正で法務大臣からの認定を受ければ、“認定司法書士”として簡易裁判所で訴訟代理権を持ち、弁護士と同じように法廷に立てるようになった。
 
同じ頃、家賃滞納に関する仕事に携わったことがきっかけで、太田垣さんは「気づいたら16年もやっていました。年間で100件以上やっているのは、うちの事務所くらいだと思います」と言う。家賃トラブルでの司法書士は、家主側の訴訟代理人として賃借人に家賃の催促や明け渡し手続きなどを行う。
 
著書には、大手広告代理店に勤務するエリート社員の家賃滞納、シングルマザーや働かない、働いても収入が少ない低所得者たちの家賃滞納など、実際に太田垣さんが携わってきた事例が記されている。幅広い年代で家賃を滞納してしまう理由もざまざまだ。
 
「最近は若干、高齢者が増えてきましたが、どの年代が突出しているとも言えません。その原因の一つは、東日本大震災後の建替えです。震災以前は古いアパートなどが多く存在していましたが、震災以降は古いアパートの倒壊に対する危機管理や倒壊したときの補償などを大家が請け負わなくてはならなくなり、建替えが行われるようになりました。また、空室を恐れる大家が人気物件になることを目指してオートロックや温水洗浄便座などを完備するような物件も増えています。建替えや高スペックな設備により家賃がどんどん高くなっていきます。
 
特に、大学生や新社会人は安い物件を探したくてもなく、背伸びした物件の家賃が重荷になってきます。一方で、30代から40代は転職の失敗や、就職氷河期の人たちが派遣切りにあって職を失ったり、昔は子どもが親を見るということが普通でしたが、家族関係が希薄になり、『親とは縁を切りました』という人たちも多くいたりするため、家族による家賃のサポートもない高齢者の滞納も増えてきているのが現状です」

家賃滞納したらどうなるの? 

もし、自分が家賃の滞納をした場合、どうなるのか。さまざまな段階で“返済”のチャンスはあるが、それに応じていかないと裁判にまで発展していく。そして、最後には強制的に家を出されることになるのだ。
 
最初は、家主などから電話や文書で支払いの催促を受け、それに応じて支払えばペナルティは発生しない。だが、複数回の催促にも応じない場合は、「期限までに支払いがない場合は契約を解除する」ということが書かれ、家主が法的な手続きを進める準備に入ったことを示す通知書が内容証明郵便で送られてくる。
 
期限までに家賃を全額返済すれば契約解除は免れるが、支払いもなく退去にも応じない場合は、家主による明け渡しの裁判が提起される。
 
そもそも、家主側から賃貸借契約の解除をするためには、「家賃3ヶ月分程度の滞納があること」「一定の期間を定めて支払いを求めているにも関わらず、家賃の支払いがないこと」「信頼関係が破綻したこと」という条件を満たすことが必要とされているため、3ヶ月以上滞納して、催促に応じないと裁判を起こされる可能性がある。
 
訴訟が提起されて明け渡しの判決が言い渡されても、明け渡さない場合は家主が強制執行の申し立てを行い、この手続きは2回に分けて行われ、定められた日数までに退去しなければ、執行官が部屋に入り、荷物を撤去して、賃借人が室内へ入れないようにしてしまう、という流れがある。
 
いずれにしても、家賃を滞納する人たちの生活がギリギリであるため、催促をしたとしても返済に応じられないことが多いという。

環境・生活が変わらなければ滞納し続ける 

家賃を滞納している人の中には、「家賃なんて払うか!」と払う意思がない人もいるが、家賃滞納のリアルな現場を見てきた太田垣さんは、「滞納する人の多くが孤独を抱えている」と指摘する。
 
太田垣さん自身、幼い子どもを抱えながら離婚を決意し、その後、極貧生活を経験したこともあり、「小さいお子さんを抱えているシングルマザーの方は、自分の経験と重なることもあり、心苦しいこともあります」と話す。
 
「いつも考えてしまいます、自分が携わった人たちはこの先どうなるのだろうと。全員を手厚く手助けできるわけではないので、安い物件につないで、引っ越してもらっても、『助けて!』と言えない人たちが多くいます。孤独な中で誰にも助けを求められなくて生きている人たちなので、住む場所が変わっても孤独な環境が変わらなければ何も変わりません」
 
日本の法律では、家賃を払わない人を家主側が自力で追い出すことは許されていない。「家主=金持ち」、「賃借人=貧乏」という昔の認識のもと、賃借人の権利が保護され、家主の権利が後回しになってしまうという現実もあるといい、家賃滞納によって収入源を失うことで家主自身も困窮してしまうのだ。
 
そして、残酷なのは、太田垣さんが家賃滞納者に対してサポートをしたとしても、引っ越し先で再び家賃滞納を繰り返してしてしまうという現実があるということだ。
 
「若者やシングルマザーなど滞納をしてしまう人たちは、自分の殻に閉じこもってしまう人が多くいます。働いても働いても、家賃で生活費は消えてしまいますから。結局、居場所は変わっても、収入が変わるわけでもないですし、生活環境が変わるわけでもありません。苦しみからは逃れられないのが現状です。
 
そして、家賃滞納を繰り返している人は結構います。16年間やってきて2回目、という人もいました。一度、家賃滞納を経験してしまうと、どこまでがセーフでどこまでがアウトか知っているので、そのギリギリのラインで生活しています」
 
シングルマザー、低所得者など、家賃の滞納は全世代的に渡り、それぞれ状況も異なる。家賃滞納は借金だが、「どうしても家賃を払えない人」たちに対して、国や行政が対策を考える必要があるだろう。


太田垣章子
章司法書士事務所代表、司法書士。30歳で離婚後、シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。登記以外に家主側の訴訟代理人として、2200件以上の家賃滞納者の明け渡し手続きを受託してきた家賃トラブル解決のパイオニア的存在。

『家賃滞納という貧困』(ポプラ新書)