発売前の「すごい小説」を全文公開…異例の試みは成功!?

読んでしまったら売れなくなる?作家・佐々木俊尚が評価するポイントとは

カテゴリ:話題

  • 新潮社が発売前の小説を全文公開しキャッチコピーを募集
  • ようやく出版社の意識も変わってきた
  • 「読んだら買ってくれない」というのは間違い

出版社の新潮社が発売前の小説の全文を掲載するという異例の特設サイトを公開し話題になっています。
7月14日に新潮社の公式Twitterに「担当編集から読者の皆様へお願いです。この小説、すごすぎて、いまだコピーをつけられずにいます。恐縮ですが皆様のお力をお借りしたく発売前に異例の全文公開に踏み切ることにしました。ぜひご応募いただければ幸いです」と書き込まれました。

その小説のタイトルは「ルビンの壺が割れた」で、ある日突然無名の著者、宿野かほる氏から送られてきたものだということです。小説は特設サイトから全文読む事が可能で、男女のSNSでのやりとりで構成された1時間ほどで読み終わる長さの小説となっています。小説は電子書籍でも読むことができます。
キャッチコピー案は「結末を絶対に明かさない」という条件でTwitterまたは専用フォームから応募可能です。小説の公開は、この応募期間中のみで7月27日23時59分までとなっています。書籍は8月に販売される予定です。

海老原優香アナ
期間限定とはいえ発売前に全文公開というのはかなり思い切っていますよね?

佐々木俊尚

ようやく出版社もこういう意識に追いついてきたのかな。iPadが発売されたのが2010年でそれが日本の「電子書籍元年」と言われてるんだけど、そのときに本が売れなくなって本屋さんがどんどんつぶれていって、これを電子書籍化によって乗り越えるしかないんだっていう「電子書籍の衝撃」という本を書いたんだけどすごいバッシングにあって、出版社の人たちから「液晶で本読むなんて信じられない」とか「おまえはIT業界の回し者だ」とか大変だったんだけど、あのころはとにかく紙こそすべてみたいな感じだった。

電子書籍で売ったら紙の本が売れなくなるから絶対出さないという人が山ほどいたんだけど、あれから7年くらいたって出版社もだんだん世代交代が進んできたのもあり、電子書籍が別に敵じゃないよねというのがわかってきたのもあり相当出版社の意識も変わってきたかな

米川一成取材撮影部長
ブックオフとか古本屋さんで本を買って読むと安いじゃないですか、そういう人と比べて電子書籍で読む人の方が作家としてはありがたい?

佐々木
そっちの方が売り上げになりますからね。中古の本をいくら買ってもらっても一銭も僕には入らないけど電子書籍の場合は売り上げになる。普通の紙の本って一般的に大手の出版社でいえば印税1割で、1500円の本だと印税は150円入る。じゃあ1500円の本が電子書籍でちょっと安くて1200円くらいで売られてるとすると、その印税は大手出版社で15%くらいかな。そうすると180円で紙よりは高い。

ちなみに自分で直接アマゾンに電子データを渡して自分で出すと70%なんですよ。1200円で840円入る。紙より全然売上大きい。だからといってブックオフで買ってもらうことはよくないかというと、そんなこと全くなくて読んでくれて広めてくれればそっちの方がいい。

今回の件もそうで、「無料段階で読ませたら本売れなくなる」ってみんな言いたがるんだけど全然そんなことなくて、これ読んで話題になればその方がいい。「この本面白かった」ってSNSで拡散してくれるわけでしょ。ずっと無料でもいいと思うよ。下手するとそれで拡散して「面白かった」って声がでてくるとやっぱり紙で読みたいという人が出てくる。紙の本買うわけです。そこがマーケティングなんだよね。みんなマーケティングの発想がないから「読んだら買ってくれない」って言いたがる。そこの誤解が蔓延してるところはあるかな。

今回新潮社がこういうことやったっていうのはさすがにその誤解が解けてきて、出版社の側も無料でもいいから宣伝のために出した方がいいってことがようやく理解されるようになったのは非常に大きな前進じゃないかと思う。

本が売れなくなる心配は?新潮社に聞きました

佐々木
これで面白いと言ってもらえれば全然いいんじゃないですかね。ちなみにアメリカのKindleなんかでよくやってるのは、例えばシリーズものの小説ってあるでしょ全10何巻とか、その1巻目だけ無料で公開する。DVDとかでもおまけにテレビシリーズの1話目が入ってたりするじゃない、2話目以降はお金出してくださいというもの。

これマーケティングの手法としてはうまくいってると言われていてアメリカでは多かった。でもあんまりやりすぎると効果がなくなるんで、また新しい方法をみんなが考える。電子書籍の世界って何が成功するかわからない、いろんな手法で試行錯誤している最中なんでこれはその一つとして僕は面白いしいいんじゃないかなと思う。

90年代が一番本が売れていた時代で年間6万点だったかな。今は当時より全体の売り上げが4割くらい減ってるのに出ている本の数は9万点くらいと増えてる。一冊あたりの売り上げがどんどん低下していて、しかも新刊が次々書店に送られてくるので、書店員の話をきくと問屋さんから大量の段ボールが送られてきて、それを開けて並べてまた翌日にはしまって段ボールを送り返すみたいな、店頭を光の速さでかすめていくだけの本が大量にある状況の中、自分の本を手に取ってもらうのは至難の業だよね。

キャッチコピーより重要なこと

海老原
本を買うときってキャッチコピーとか見てこの本読もうかなとかあると思うんですけど、キャッチコピーは重要ですか?

佐々木

キャッチコピーは大きいと思うよ。でもそもそも平積みの台に並べてもらわないとキャッチコピーさえ見えないわけで、「面陳」っていうんだけど面がみえるように陳列してもらう。背表紙だけだともはやキャッチコピー見えないじゃない。

海老原

「ルビンの壺が割れた」特設サイトへは3日間で50万近いアクセスがあったということです。もしかしたらそれを話題にして平積みになる日がくるかもしれないですね。

佐々木

これだけビューがあれば明らかに平積みにはなるよ。成功してるんじゃないですか。

海老原

松葉さんは、サイト記事のタイトルの書き方の工夫は?

松葉信彦(ギズモード・ジャパン前編集長
):
最新のガジェットとかテクノロジーが好きな人が主な読者なんでその人にわかるようにつけつつ、SNSで出すときはそれを知らない読者もわかるように砕いたものにしたりする。ターゲットごとにわかる言葉遣いとか前提条件とか違うなと感じてるので、ギズモードのサイト内で出すタイトルとSNSで出すものを変えたりしている。今回のキャッチコピーも本の帯につけるものとSNSにつけるものと違ってもいいかなという気はする。

佐々木

SNSの特質によって何が読まれるかが変わってくるってありますよね。

松葉

変わります。読者の年齢も性別もちょっとずつ違うし、情報が流れていくスピードも違うじゃないですか。

佐々木

それをうまく使い分けてくのが発信者としては大事ですね。


(執筆:FLAG7)