「最新鋭のものはありません」パナソニックとソニーが人気のワケ

SXSW2017リポート<米テキサスで開催>

カテゴリ:ビジネス

  • SXSWで日本企業の出展も目立つ。
  • ソニーはVRなど「最先端」が展示されていた。
  • パナソニックは「未来の家電」にこだわっていた。

創造的なアイデアや技術が世界中から集まっているサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)。新しい製品を開発したスタートアップの挑戦が目立つが、資生堂やNTT、パルコなど日本企業の名前もよく見かける。

そうした企業の中でも目立っているのが、ソニーとパナソニックという日本を代表する2つのメーカーだ。どちらもかなりの集客となっているが、そのアプローチが大きく違うのが興味深い。

“オシャレで最先端”


ソニーはメイン会場にほど近いJAPAN FACTORYというパビリオンの中に出展している。ここでの目玉はVR。ヘッドマウントディスプレイをつけた状態で、仲間と協力して宝探しに出かけるゲームでは外国人が次々と歓声を上げていた。

また、参加者がそれぞれヘッドマウントディスプレイをつけて、「自分」「仲間」「鬼」の視点を同時に見ながら逃げ回る「VR鬼ごっこ」も体験が可能。自分の目線の中に「鬼が見ている自分」が見えるのは、何とも新鮮だ。

目の前にはモニターと同じ4画面が見えている

VR以外にも、プロジェクションマッピングを使って、スパイダーマンの世界でロッククライミングを楽しむ体験コーナーや、スマホ画面のように机の上を触るとピアノやドラムの映像が登場して音を鳴らす仕掛けなど、ソニーならではの「オシャレで最先端」な空間になっていた。

本格的なクライミングをゲーム感覚で…
音の出るピアノに変身

出口近くの来場者アンケートもタブレットで答える形になっていて、質問項目は「ソニーはイノベイティブだと思うか?」など、企業として目指したいのであろう方向が表れていた。

「今回は最新鋭のものは持ってきていません」


もうひとつの注目のパナソニック。街で一番の中心地「6番街」沿いに展示会場を借りている。

通りはすべて歩行者天国で、かなり賑やかな場所にあるのだが、中に入ると展示されている製品はあまり派手ではない印象だ。VRを使った製品などは一つもない。

日本酒やワインを適温に冷やして管理するクーラーや、お気に入りの一着を洗ったり香り付けしてリフレッシュできる機器など「未来の便利家電」が並んでいる。

服を入れる本体(右)。数種類の中から香りを選ぶ

電子レンジのような形の家電の中に皿ごと食べ物を入れると10秒ほどで食品全体のカロリーを計算してくれる製品は、医療現場やダイエット中の人などに喜ばれそうな感じがした。

今はまだ試作機なので家庭用としてはかなり大きい印象だが、小型化したりスマホをかざすだけで計測できたりするようになれば、ビジネスチャンスはあるかもしれない。

本体に料理を入れて…
10秒でカロリー計算


これらの製品は試作機で、現時点では発売の予定はない。おおよその価格を聞いても全くの未定だ。

パナソニックでは今回、SXSWで出展することを決めて社内でアイデアを公募。集まった44の応募の中から6つに絞って試作機を用意し、テキサスに乗り込んだという。

試作機と言っても、きちんと機能を備えているだけではなく、デザインまで考慮されている。予算をかけて、ここまで製品化するというのは驚きだ。

プロジェクトの責任者を務めるパナソニックの新規事業開発室の深田室長は「今回は最新鋭のものは持ってきていません。『未来の家電を探す』とこういう形なのかなと。プロダクトとして出すことで共感を得たい」と語った。

今までのパナソニックでは、経営コンセプトを決めてから製品化するのが普通で、アイデアを出しても「何万台売れるのか?」と大企業なら当然のように出る声に阻まれ、製品にならないケースが多かったという。

しかし、今回は「売れると自信を持って言えるのは3000台だけど、こういう新製品が出てほしいと待っている人がいる」といった社内の声を形にしたという。

例えば、普段は商品開発とはあまり縁のない品質管理課に所属する小川恵さん。介護で出される流動食では食欲がわかないため、「見た目はそのままで食感は流動食のように柔らかい」という調理ができる装置を考えて応募した。

小川さんは、2016年に82歳で亡くなるまで父親を介護していたそうで、日に日に食べる力が弱っていく姿を見て、見た目には美味しそうな柔らかい食事を出してあげたいと考えたのがきっかけだという。

小川恵さん(右)。右手奥にあるのが試作機

このアイデアが採用されて、試作機が完成。カタコトの英語であってもすべて自分でプレゼンをするのが基本ということで、カタカナで発音が書かれた英語の説明メモが置かれていた。


それぞれの試作機について、SXSWでどれくらいの反応があるのかを見て、日本で行われる報告会で実際に製品化するかどうかを決めるという。

来場者アンケートは「どの製品が気に入ったか投票する」というものだが、ポストイットにコメントを書いて壁に貼る仕組みだった。ここでも敢えてテクノロジーには頼らない手作り感が出ていた。

ただ、実際には、すべてのアイデアが商品として家電量販店などに並ぶことは厳しいのが現実だ。「スタートアップの精神」と言いながら、イベントが終わって仮にアイデアが採用されなければ、チャレンジを繰り返すのではなく元の部署に戻ってしまう社員・職員も多いだろう。

しかし、深田室長は今回の取り組みの意義をこう語る。

「社内では冷ややかに見ている人が多いのも事実です。でも、私たちも成長のためには、スタートアップのようにSXSWのような場所でアイデアを鍛えないといけないんです」

「最先端」を揃えたソニーと、「未来の形」にこだわったパナソニック。アプローチは違うが、海外の人たちに技術力の高さを見せていたことだけは間違いなさそうだ。