世界初ウェアラブルメトロノーム「Soundbrenner」が音楽シーンを牽引する

世界初の技術、ウェアラブルメトロノームとは?

  • 世界中でファンを獲得するスタートアップ、Soundbrenner
  • 振動でリズムを伝え、ミュージシャンの演奏を邪魔しない
  • 現在も競合は存在せず、音楽市場で唯一無二の存在感を放つ

音楽シーンが盛り上がるベルリンでは、音楽関連のスタートアップを見かけることが多い。その中でも、ソフトウェアよりも一段ハードルが高いと言われるハードウェアを開発し、世界中でファンを獲得したスタートアップを今回は紹介したい。ウェアラブルメトロノームを開発するチームSoundbrennerだ。

Soundbrennerが開発するデバイス「Soundbrenner Pulse」は、腕や脚に固定してバイブレーションでリズムをとってメトロノームとして使用することを目的にした「ウェアラブルメトロノーム」である。

カチカチと大きな音を鳴らす卓上に置く形の従来型のメトロノームと違って、音が邪魔にならずに演奏に集中できる点、表面をタップして開始・停止できたり、デバイスの縁のウィールを回すと速さが調整できるというような直感的でシンプルなUI、グループの他のプレイヤーとも簡単にシンクロできる機能、そして過去に使ったリズムを保存・再生できるアプリといった点が強みとなって、世界中でユーザーを獲得した

Soundbrennerは2014年に創業して、2015年にクラウドファンディングキャンペーンを開始、2016年にはデバイスの出荷を開始した。こうしたタイムラインを見る限り、ハードウェアスタートアップにしてはかなりスピーディーに開発から出荷までを進めているような印象を受ける。

リソースやノウハウの少ないSoundbrennerのチームが、チームづくり、開発、マーケティングをどのように進めていったのだろうか。

Startup Weekendで優勝し「このアイデアはイケる」と思った

すべての始まりは、ベルリンで開催されたStartup Weekendだった。Startup Weekendとは、スタートアップを始めたい人たちが参加して、週末を通してアイデア出しから始め、実際にチームをつくり、コンセプトやプロトタイプを最後に発表するというイベントで、世界各地で開催されている。実際にスタートアップを始める際の初期のプロセスを経験できる点が好評で、このイベントがきっかけでその後に本格的に事業を立ち上げるケースも少なくない。

このStartup Weekendに参加したSoundbrennerの現CEO、フロリアン・ジメンディンガーさんと音楽好きの仲間たちは、ウェアラブルメトロノームというアイデアを思いつく。その場でアイデアと簡単なコンセプト、プロトタイプを作ったところ、見事に優勝。「これはいけるかもしれない」という手応えを感じた。その後も、同じアイデアでスタートアップのアイデア・ビジネスプランを競うコンテストに出場したところ、複数のアワードを獲得。これだけ評価されるのであれば、本格的に事業として取り組む価値があるかもしれないと考え始めたという。

Soundbrennerのチーム Credit: Soundbrenner

その後、ベルリンのハードウェアコミュニティをベースにしながらチームをつくり、プロトタイプづくりを進めていった。今回インタビューさせてもらったCTOのジュリアン・フォーゲルスさんがチームに加わったのもこの頃だ。モントリオールの大学院でミュージックテクノロジーを専攻した彼が地元のベルリンに戻り、音楽関連で何かやりたいと考えていたとき、ハードウェアコミュニティのミートアップを通じてチームに出会ったのが、彼のその後の人生を変えた。

ベルリンから香港へ、アクセラレータプログラムに参加

その後、転機となったのは香港のアクセラレータに参加したことだ。ベルリンのテックフェスティバルTechOpenAirで出会った香港のIoTアクセラレータ Brinc に応募したところ、参加が認められた。

実際に現地に行くと、Brincはそれまでにスタートアップを受け入れた実績がなく、Soundbrennerはそのアクセラレータプログラムに初めて参加したチームであることが判明した。さらに参加チームは他になく、唯一の参加チームだった。

「そんなこととは思いもしなかったからビックリしたよ」と、フォーゲルスさんは笑って話すが、逆にこの状態はBrincにとってもチームにとっても良い結果をもたらしたのだという。Brincも最初の成功実績を作りたいという動機で懸命に支援をしてくれたし、Soundbrennerのチームもまた、現地のネットワークを使いきる意気込みで積極的に事業を進めるために行動をしていった。そのかいあって、課題であった部品の調達においても、深圳の良いベンダーを見つけることができ、開発を進めていくことができた。

その後、2015年にクラウドファンディングサイトのIndiegogoでキャンペーンをローンチ。最初はくすぶっていたものの、最終的には目標金額の2倍である24万ドル(約2650万円)に達した。

2016年1月には、世界最大の楽器ショーである米国のNAMM Showで賞を受賞したことが契機となって、ターゲット市場であった米国で契約を順調に増やすことができた。米国では、最終的に220の販売会社との契約を結んだ。その後も、海外の展示会をきっかけに、販売店との契約を結んでいった。そして、2016年初期から製品も出荷を開始した。

資金が集まらない…クラウドファンディングで行き詰まったときに思いついた妙案

Credit: Soundbrenner

着想から開発、販売までのこうした展開を聞く限り、順調な成功ストーリーのようにも聞こえるが、直面した問題も数々ある。

クラウドファンディングで資金調達キャンペーンを始めたときは、自分たちのポケットマネーを使って米国のPR会社に依頼するものの、その効果はむなしく、最初の数日が勝負といわれるクラウドファンディングキャンペーンで、期待の5分の1程度しか資金が集まらなかった。

キャンペーンの開始日の翌日、その数字の低さに青ざめたというが、チーム内で知恵を出し合った結果「同じような音楽系デバイスでクラウドファンディングキャンペーンを進めているチームにコンタクトして、お互いのユーザーにプロモーションを行う」という案を思いつく。このアイデアは見事に成功し、最終的には目標額を大きく上回って資金を集めることができた。

香港のアクセラレータプログラムにしても、ほぼ経験のないアクセラレータであれば不安を感じて当然だろう。だが、彼らは逆にその状況を生かして、アクセラレータプログラムの提供するリソースを活用しきった。こうしたエピソードからも分かるように、彼らの逆境を乗り越える力、ピンチをチャンスに変える力が事業を前進させていった。

唯一無二のプロダクト、強固な技術力

Credit: Soundbrenner

こうした逆境に負けない、工夫を続けるメンタリティに加えて、彼らが成功した要因は、唯一無二の製品を作れたこと、そして技術力がしっかりしていたことだろう。

ウェアラブルメトロノームというアイデア自体はシンプルなようにも聞こえるが、当時も今も競合といえる製品はないのだという。それまでも「身体に装着するメトロノーム」というコンセプトの製品はあったものの、別のデバイスとケーブルで接続するデザインであり、使いやすさやデザインの洗練度という点では課題があった。また、バイブレーションを発するウェアラブルデバイスといえば、Apple Watchをはじめとしたスマートウォッチも思い浮かぶが、Apple WatchのバイブレーションよりもSoundbrennerは6倍の強度のバイブレーションを発し、またアプリで細かいリズムを設定できたり、腕の上部や脚に装着できたりと、よりミュージシャンの細かいニーズを考慮したフレキシブルな設計になっているのが強みだ。

そしてなによりも、しっかりとした技術力がベースとなっている点が着実に開発を進めることができた理由であることは間違いない。CTOのフォーゲルスさんは、カナダのモントリオールにあるマギル大学でミュージックテクノロジー専攻の修士課程を修了している。その他、デジタルシグナルプロセシングといったメトロノームのアルゴリズムを設計する際に必要となる知識が備わったメンバーも参加している。

ベルリンと香港、それぞれの都市の強みを生かす

さらに香港とベルリンの二拠点で事業を営んでいる点も彼らの強みだ。事業開発と主なハードウェア開発を香港で、そして主なソフトウェア開発はベルリンでと、それぞれ異なる役割を担って運営する。

ベルリンをソフトウェア開発の拠点にした理由は「ミュージックテック関係の人材が集めやすいし、ベルリンのミュージックテックのコミュニティが大きいから」とフォーゲルスさんはいう。香港は、アクセラレータプログラムへの参加がきっかけとなったこと、そしてハードウェアスタートアップ向けに部品を提供するベンダーが揃っている深圳が近いことが理由だ。こうした各都市の強みを生かして、事業を進めている点も彼らのユニークな強みだ。

技術力、拠点づくり、洗練されたコンセプトづくりといった様々な強みが相乗効果を発揮して、事業がスピーディーに立ち上がっていったSoundbrenner。今後も、世界中の音楽プレイヤーのユーザーの意見や提案を取り入れながら、次世代バージョンのデバイス開発を進めていく予定だ。


(執筆: 佐藤ゆき)