「AIはもう常識」なアナタにおくる「人工生命」講座

H.SCHOOL「人工生命」特集#01/03(2017/05/20) 

  • 人工生命の歴史は30年
  • 生命とは何かを「作りながら考える」
  • 人工生命は「自律化」を目指している

テクノロジーの未来像をお届けする大人のトーク番組「H.SCHOOL」。今回は「人工生命」について、ウェブサイエンス研究者、筑波大学大学院システム情報工学研究科・准教授の岡瑞起さんが解説する。

「生命っぽいもの」が人工的に生まれている


岡瑞起
「人工生命」とは、1986年に理論科学者・計算機科学者のクリストファー・ラントンが提唱した学問です。AI=人工知能は60年くらいの歴史があると言われていますので、その半分30年くらいですね。

「人工的」に「生命」を作ろうという分野で、ソフトウェア的なプログラムを使うアプローチ、ロボットを使うアプローチ、化学反応を使うアプローチ、この3つがあります。まだ人工生命そのものはできていないんですけれど、「生命っぽい」様々なものが研究の過程で作られてきました。

ドミニク・チェン
下の画像は、今まで行われてきた主だった人工生命研究の特徴的な図が並んでいるんですか?


その通りです。



では非生命から生命的なものに近づけていく過程を説明します。
まずは、例えば化学の反応などランダムなパターンを形成します。
次に個体を形成します。そして、その個体を維持します。
あとは自己複製。つまり、自分の子孫を残すというメカニズムが必要になって、複製されたほうも動けるようになります。

個体が自律的に自分で動くようになれば、いろんなコミュニケーションによる相互作用を生み出し、集団が形成されて、生きるものと死ぬものに分かれ、進化が起こっていく。このような「どんどん生命に近づいていくだろう」ということを作りながら研究している分野です。

市原えつこ
本当に生命の動きを再現しているんですね。


そうですね。生命が持つ特徴のどういう部分に注目すれば、DNAではないものからも生命が作れるのか、言葉とともに作っていっているという感じですね。

市原
生き物の進化をそのまま追っているかのように壮大ですね。

「人工生命」とはなにか?



地球が誕生してから何十億年も掛けて、現代の人間という生命に至るまで、どんなステップがあったのかを分解しながら研究しています。画像で示したこれらの研究は、「一緒くた」ではなく「部分的」に行われています。例えば「油滴」の研究があったり、化学反応の研究があったり…

ドミニク
「ゆてき」の研究?


油を水に落とすと丸くなる「油滴」です。自分で動きはじめる「油滴」が作られ研究されているんです。

ドミニク
つまり、生命そのものじゃないけれども、生命っぽい行動の一部分を再現するモデルが個別にできているということですね。


東京大学大学院准教授の池上高志先生は「人工生命」をこのように定義されています。


「構成論的」とは、言い換えると「作りながら考える」ということです。人工生命は「生命とは何か」ということを化学反応やプログラムやロボットで、生命を構成する特徴を「作りながら考える」んです。

偉大な研究者の功績…チューリング



ここからは、偉大な科学者たちの功績を追っていきます。まずは数学者のアラン・チューリング。コンピュータを作ったことで有名な人物なんですが、もう一つの偉大な研究に「チューリング・パターン」というのがあります。

彼が提唱した反応拡散系というモデルを使うと、生物界に見られるいろんなパターンができるんです。最近でも「チューリング・パターン」からトカゲの模様ができるということが論文になったり、非常に活発に研究されています。

市原
これは生物の皮膚の模様を再現しているんですか。なんか非生命的なものから生命が再現されるのはゾワっとしますね。


これは「チューリング・パターン」に基づいたグレイ・スコットモデルというもので、いろんなパラメータを設定するとシマシマや斑点模様ができます。

偉大な研究者の功績…ノイマン


数学者フォン・ノイマンは1960年代に、自己複製して自分自身を作り出すモデルを考えました。のちに彼のモデルをコンピュータ上に作ると、実際に自己複製されることが証明されています。


1970年にはゲーム・オブ・ライフが登場、日本ではライフゲームという名で知られていていますね。これは先ほどのオートマトンの一種で、2次元のパターンを作ると自分自身で動きだすものができたりします。

偉大な研究者の功績…ウルフラム

1980年代になると、理論物理学者のウルフラムが、先ほどのゲーム・オブ・ライフの一次元バージョンを考案し、256種のルールを整理しました。下の図はルール30というもので、単純なセットから非常に複雑で予測不可能なパターンが作られることを示しています。

池上高志先生の研究


池上先生と鈴木さんが実装したバレラという研究者が提唱した、オートポイエーシスのモデル、SCLモデル、のシュミレーションです。カタリストというグリーンのドットを囲むように膜ができていて、環境の変化に対応しながら一つの個体を維持していくシミュレーションをしているものです。

ドミニク
自分の存在という境界線ができてるわけですね。さっきのライフゲームだとそれが無かった。


ライフゲームでは膜がないのですごく脆いんですけど、これは環境が少し変わっても動きながら個体を保っています。人間も次の瞬間に自分の身体がバラバラになりませんよね。そういう自己維持について、膜をどうやって保っているかを化学反応レベルでモデル化しているものなんです。

人工生命と人工知能の違いは「モチベーション」


「人工生命」は人工知能と言葉が似ているので、よく違いを聞かれるんですけど、一番大きな違いは、人工知能が「自動化」を目指しているなら、人工生命は「自律化」を目指していることです。

まず、人工知能が得意な「自動化」とは、学習するべき答えが与えられていて、それをどう上手く解けるようにするのかということ。人工生命は、なにかをしたいというモチベーションも自分で作り出そうとします。「モチベーションが与えられるか、それとも自分で作るのか」これが大きな違いと言える思います。

例えば「ペット」は、私たちがモチベーションを与えなくても自由に動き回ってくれるところが、かわいさを生むと思うんです。ああいう関係性を作るためには、きっと自律性が大切なんじゃないでしょうか。

市原
なるほど。「ルンバ」はかわいいですけど、そこまで思わないですもんね(笑)


実は「ルンバ」を作ったロボット工学教授のロドニー・ブルックスは、初期の人工生命の会議に参加していたんです。彼が作った「ルンバ」は最初から「ゴミ」を知っているのではなく、動きながら拾えたものを「ゴミ」だと考えるような仕組みになっています。これは今日の人工生命研究の基本的な考えになってます。

ドミニク
先ほどの「モチベーション」と似ていますね。答えをあらかじめ人間が決めているのではなくて、自分自身の行動から答えを生みだしていくみたいなことなんですね。

そもそも「生命」とはなにか


塚田有那(編集者・キュレーター)
「人工生命」という言葉を聞いたときに、もう少し生物学的というか、クローンだったりDNA組み替えだったり、またロボットのようなものから、新しい生命を作るようなイメージを持たれる方も多いと思いますが、岡さんたちの研究は、いわゆる生物学的なものと、どう分けているのでしょうか。


大きな差は、DNAを使わなくても生命というのはできるんじゃないかというところです。

塚田
普通の感覚というか、私自身もこういう議論を知る前は「生命」とは生物学の教科書に書いてあるようなものだと思っていたんですね。それが技術の進化によって生命の定義そのものが揺らいできているということなんでしょうか。


進化という過程を経ないで「生命っぽいもの」を作れる現代だからこそ、そもそもの「生命とは何か」を学ぶことができるのだと思います。人工生命を学ぶことは、機械や人間を理解することにも役立つんじゃないでしょうか。機械と人間の優しい関係を、どのように作っていくのかということにも貢献できると思ってます。

ドミニク
考えてみたらすごい話です。何億年もかけて進化してきたものを、人工知能は60年、人工生命は30年というスピードで再現というか人工的に作り出そうとしているっていうのはある意味恐ろしいことですよね。

市原
神のような業をやっているということですもんね。