まだ食後に歯みがきしてるの? 歯と口の悩みを解決する“唾液力”

特集「不健康診断ーーその我慢が落とし穴」第3回

カテゴリ:暮らし

  • 歯周病を放置すると糖尿病などの重大な疾患につながりかねない
  • 驚くべき「唾液力」。口臭予防にも歯肉の傷の修復にも効果あり
  • 明日から、食後にはデンタルフロスと舌回しを

歯ぐきの炎症が糖尿病を引き起こす

今週は、連続してビジネスパーソンの健康管理についてお伝えしている。働き盛りの世代は公私ともに多忙なときで、体の不調を見て見ぬ振りしがちだ。だがそのツケを後から払わされることも覚えておきたい。
今回取り上げる我慢しがちな不調は、「歯の痛み・歯ぐきからの出血」だ。

まず、特に痛みを伴わないことが多い「歯ぐきの出血」は軽く見ている人が多いだろう。

「歯ぐきの出血は、歯周病のサインです。歯周病になるとカンジタ菌というカビの菌が口の中に増えます。カビ菌は全身の免疫力を落としますので、放置するとだんだんと体が弱ってしまう。それだけではなく、歯周病であるということは、糖尿病の予備群とも言えるのです」

衝撃の事実を教えてくれたのは歯科医の森昭先生だ。近年の研究では、糖尿病と歯周病の相関関係が証明されているという。

「歯周病になると、歯周病菌が血管に炎症を起こし血管を弱らせます。そして炎症のある組織から産生される物質、炎症性サイトカインが血液中に入り込めば血糖値を下げるホルモン、インスリンの働きを阻害し、最終的には糖尿病につながるのです。
ですが、歯ぐきから血が出ている『糖尿病予備群』の段階で、きちんと口腔ケアを受けていればほとんど進行しません」(森昭先生、以下同)


歯周病から糖尿病に発展するには20〜30年かかると言われている。だが、「たかが歯ぐきの出血」とあなどっていると、定年を迎えて「いざ、第2の人生」と思ったのもの束の間、じきに発病して節制を必要とされるセカンドライフを送らざるを得なくなりそうだ。

「間違った歯みがき」が引き起こす知覚過敏

そして、歯の痛みには、大きくわけて2つの原因がある。1つ目は、おなじみの虫歯。そしてもうひとつ、意外に多いのが、知覚過敏だ。

「知覚過敏の原因のひとつは、間違った歯みがきの仕方で、歯が削れてしまうこと。表面が削れて、神経に刺激が伝わりやすくなってしまうのです。歯の神経に防御機能があるため、自然治癒する場合もありますが気になる場合はぜひ歯科の受診を」

そこで大切なのが「正しい歯みがき」だ。

「歯みがきには、ふたつの意味があります。ひとつは食べかすを取ること。もうひとつが、プラークコントロール、歯垢除去です。みなさんが食後に歯をみがいているのは、食べかすの除去ですよね」

こう聞けば、「毎食後、ちゃんと歯みがきしていますから」と胸を張って語る方もいるだろう。だが、その「食後の歯みがき」が間違いだ、と言ったらどうだろう。

食後の歯みがきは「良いことなし」

森先生によると、食後の歯みがきがよくない理由は2つあるという。

「1つ目は、歯が削れてしまうことです。歯は糖質を含む食事をしたあと、リンやカルシウムが唾液に溶け出し歯の表面がやわらかくなるのです。やわらかくなった歯の表面を歯ブラシでゴシゴシと磨けば…お分かりですよね。
そして、2つ目はせっかくの唾液を洗い流してしまうことです。
食後は、消化のために唾液の分泌が活発になります。量も増えるし、効力も高い。実は唾液はやわらかくなった歯の表面を修復するとともに傷ついた歯肉の傷も治してくれるのです」


昔から言われる、『ケガしたら唾でも付けときなさい』には一理あり、ということだ。
さらに、唾液の効果はこれだけではない。ビジネスパーソンにとって気になる「口臭」も予防してくれるのだという。

「唾液は、最高の消臭剤です。その証に、どれだけ口臭のきつい人でも、食後すぐには口臭が気にならなくなっていますよ。
ある調査によると在日外国人の72%が『日本人の口臭にがっかりしたことがある』と答えたそうですが、これこそ日本人の『食後すぐの歯みがき』習慣の弊害と言えるでしょう」


これほどの恩恵に満ちた唾液を、食後すぐの歯みがきで、しかも歯みがき粉で泡だらけにして、すっきりと洗い流してしまうのは、本当にもったいないというわけだ。

とはいえ、大事な商談を前に歯間にはさまったゴマやネギなど食べカスが気になる、という言葉はもっともだろう。

「そこで行ってほしいのが、デンタルフロスです」

「歯間を綺麗にすれば唾液の通りも良くなり、一石二鳥です。
ちなみに、食後すぐに歯みがきをしなかったら虫歯になるのでは? という心配はいりません。なぜなら、歯周病菌をはじめとする口腔内細菌の巣である歯垢は食後すぐではなく、歯みがき後およそ24時間後にできると言われています」


もう1つ、森先生が日々行っている歯のお手入れがあるという。それが「舌回し」だ。

「食後にデンタルフロスをする余裕がないときなど、舌でネギなどの食べカスを取るようにして舌を口の中で回すのがおすすめです。
具体的には、舌を歯ぐきに円を描くように口の中で舌を回すだけ。右回り、左回り各10回ほど行うと唾液分泌が活発になり、あご周りの筋肉、食いしばりなどをゆるめる効果もありますよ」


ちなみに森先生は、歯みがきは1日2回だけ。唾液の分泌が減り口中細菌が繁殖する「睡眠中」の前後、就寝前と起き抜けの2回だ。そして、食後はデンタルフロスと舌回しのみだという。

歯や歯ぐきの不調は毎日のことで、慣れっこになっていないだろうか。しかし、放置すれば日々の口臭トラブルから重大な病気まで、軽視できない問題が山積だ。

さあ、まずは明日から「歯みがき」習慣を変えることから始めてみよう。

■森昭先生
歯科医師・竹屋町森歯科クリニック院長。60万人もの歯を診て唾液の重要性を訴える。『歯はみがいてはいけない』(講談社)などの著書が好評発売中。

文=武藤徉子
イラスト=前田はんきち