行き着く先は社員の健康 大企業の働き方改革【ヤフー、カルビーの事例

特集「仕事の“生産性”って何だ?何なんだ!」第4回

カテゴリ:ビジネス

  • 特集「仕事の“生産性”って何だ?何なんだ!」第4回
  • 成果を出すために諦めないことで革新が起こる
  • 経営トップの旗振り次第で働き方は変わる

“生産性”という言葉は、多様な意味を含んでいる。それだけに、ひと言で“生産性を上げる”と言っても、さまざまな捉え方ができてしまう。無駄を省いていくのか、時間あたりの成果を上げていくのか、誰でもできるように属人化をなくしていくのか、といった具合に。

本連載の第3回では、比較的まだ規模が小さい企業の事例を取り上げた。では、社員数が数千人規模の大企業はどうなのだろうか。制度をつくったとしてもそれを根付かせるのには、さまざまなハードルがありそうだが……。ふたつの企業の施策について取り上げたい。

自宅でもオフィスでも自由な働き方を推進

最初に紹介するのは、最近も週休3日の導入を検討しているというニュースで話題を集めたヤフー。同社では、2016年10月に本社オフィスを移転したことをきっかけに、さまざまな働き方改革をより一層推し進めている。

なかでも同社がとくに力を入れているのが、働く環境への対応だ。たとえば、リモートワークの推進がそう。連絡がつけば普段とは異なる好きな場所で働くことができる「どこでもオフィス」を2014年から月2回を上限に実施しているが、これを試験的に月5回までに拡充したという。また、新幹線通勤制度を導入することで、住む場所にもとらわれない働き方の模索も進めている。

その一方で、オフィス環境の整備にも力を入れている。同社グループでは、オフィスビルの5階から24階部分を占有しているが、ほぼ全社員がフリーアドレスで自由に好きな場所で働けるようにしている。また、机をあえてジグザグに配置することで情報の交差点をつくり、イノベーションを生み出すきっかけづくりに役立てている。

机を不規則に配置したヤフーの社内。コミュニケーションが生まれる可能性を高めている。

「オフィス移転前の2015年9月~10月にかけて行った社内調査では、従業員の動線がジグザグになったことで人との接点が増え、従来の配置と比べてコミュニケーション量が約2倍に増えるという結果が出ました。また、社員から移転後はコミュニケーションが増えたという声を聞いており、まずは一定の効果が生まれていると感じています」

そう話すのは、同社広報の埜村知彦さん。もちろんこれらの施策は、生産性を上げたり、新しいアイデアを生み出したりするためのものであるが、同時に同社が考えているのは働く社員の体へのケアだ。

「2016年10月の新本社移転後、社員食堂で注文したメニューやカロリーを社員専用Webサイトから閲覧可能にしました。今後、栄養素の情報も閲覧できるようにし、希望する社員には連携する医療法人の医師や管理栄養士を通じて、食事や運動、睡眠の生活指導を行う『健康増進プログラム』を提供する予定です。また、社員に貸与しているスマートフォンから取得できる『歩数』や『歩行距離』、さらには『上った階数』などのデータを活用することも検討しています」

生産性を上げるために効率だけを突き詰めるのではなく、社員が健康な状態で働き、高いアベレージで成果を出すことを目指す。効率性重視の働き方改革とは一線を画す指針だ。

「会社は成果を出す場所」経営トップからのシンプルなメッセージ

次に紹介するのは、ここ数年で大きく業績を伸ばしているカルビーだ。

同社は、2009年6月にジョンソン・エンド・ジョンソンで経営トップを15年間務めた松本晃氏が会長兼CEOに。以後、「ダイバーシティ」や「働き方改革」を推し進めるとともに「成果主義」を徹底することで、社員の働き方を大きく変えた。

カルビー株式会社代表取締役会長兼CEO松本晃氏

ヤフー同様にフリーアドレス制を導入。在宅勤務についても、これまで週2回を上限に、自宅での在宅勤務に限定していたが、2017年度からは自宅やオフィスに限らず勤務することができる日数の制限をなくしたモバイルワークを導入する。また、営業職は直行直帰も可能。移動時間のストレスやロスを解消することで、自発的な営業の推進に役立てている。広報課の野原和歌氏は、同社の取り組みについて次のように話す。

「会社で成果を出すためには、個人の成長が必須であるという松本の考えもあり、仕事が終わったら早く帰って、知識や教養を身につけて、家族と過ごす時間を大切にして、そして健康でいるために努力することが推奨されています。また、社員は年ごとに仕事内容と目標について上司と面談して決めています。それが達成できるのであれば働く場所や時間は基本的には問いません。会社が求めているのは『時間』ではなく『成果」なので、長時間労働は評価されないという考えが浸透しているんです」

そう、カルビーでは1年ごとに社員が上司と相談したうえで個人の目標を設定し、契約書にサインをする仕組みを取っている。会長は社長と、社長は役員と、部長は課長と……といった具合に。すると、会社の目標が徐々に噛み砕かれて社員へと伝わり、自然と全員が会社の目標達成に向けてコミットメントできるというわけだ。そして、目標達成のためには知恵と工夫を惜しまない。

「契約書にサインした項目については、どんなことが起ころうとも修正はしません。天災が起ころうと、そこで目標の軌道修正をするのではなく、目標を達成するために何をすればいいかを知恵を絞って考える。そうすることで今までにないアイデアが出てきて、イノベーションが起こるんです。そのためには、個人の成長が必須です」

もちろん、こうした働き方改革がすぐに結果に表れたわけではない。少しずつ制度や環境を整え、それが文化として社員に浸透してきたことで、大きな成果を生むようになったのだ。

「生産性を向上させる仕組みをつくるのに、会社の大小は関係ないと思います。まずは経営トップが明確な指針を掲げられるか。これがとても重要なことではないでしょうか」と野原氏。

どんな会社でも、旗振り役が重要なことに変わりはないということだ。


文=村上 広大(EditReal)
イラスト=浜名 信次(Beach)
モーションデザイン=濱本富士子(Beach)