脱“属人化”への道筋 チームの生産性を向上させるのに必要なこと

特集「仕事の“生産性”って何だ?何なんだ!」第5回

カテゴリ:ビジネス

  • ノウハウは隠さず広める方が組織は育つ
  • クオリティラインが定まると仕事は変わる
  • 生産性を向上させることは勝ちパターンを見つけること

今回の連載では、「生産性と何か?」という問いかけからはじまり、その後の4回の記事で個人や企業が生産性を高めていくために取り組んでいる事例を交えて考えてきた。

それを踏まえて本記事では、実際に生産性の高いチームを構築していく方法について考えていきたい。

自分にしかできない仕事は、チームと個人両方のリスク

組織力を向上させるためには、人材育成の強化は必要不可欠だろう。社員のパフォーマンス力が向上すれば生産性も上がり、かつ難易度の高い業務に挑戦できるからだ。

しかしホワイトワーカーの場合、自身の知識やスキル頼みの仕事になりがち。結果、業務が属人化することが多い。

確かに“自分にしかできない仕事がある”というのは、個人で完結する仕事であれば高い評価を得られるかもしれない。だが、組織という単位で考えると“その人がいないと仕事が進まない”状態を招く。そして、属人化を招く人ほどそのことに気づかない。他人に任せるよりも自分でやった方が早いと盲信し、個人で多くの仕事を抱える。だが、その一方で手持ち無沙汰な部下の姿。これでは生産性が高い組織とはいえないだろう。そして、仕事の属人化は組織のみならず個人の首も絞める。休みたいのに休めない。なぜなら仕事が止まってしまうからだ。これでは、組織も個人もハッピーにならない。

こうした事態を防ぐために、企業によっては評価基準に「部下の育成」を盛り込むところもある。しかし、人を育てるのは頭で考えているほど簡単ではない。自分がその仕事をこなせることと、それを他人に伝えて育成することとでは必要なスキルが異なるからだ。

「人間はどうしても目先の仕事をこなすことに一生懸命になりがちです。ただ、それは至極当然のこと。『仕事をしている実感』が得られるからです。飛び込んできた仕事を、自分のチカラでささっとこなす。それは気持ちいいですよね。相手からも感謝されますし。ただ、この『仕事した感』が厄介。仕事の標準化や育成など『すぐやらなくてもよさそうだけれど、実は長い目で見て大事な仕事』がどんどん後回しになってしまうから。その結果、いつまでたっても属人化から脱出できないという状況が続くわけです」

そう話すのは、本連載の第1回でも話を伺ったオフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまね氏だ。属人化を何とかしたい。そう考える人は多いだろう。では、どうすれば組織を正しい方向へ導いていけるのか?

沢渡あまね氏

完全な脱属人化を目指さない。「良い属人化」「悪い属人化」を見極める

「まずは自分やメンバーの仕事を見える化することが大切です。そのために、仕事を5つの項目にバラしてください」

沢渡氏はそう話す。どんな仕事も次の5つに分解できるという。

<1> 目的(何のため、誰のための仕事か)
<2> インプット(成果を生むためにどのような情報・材料・ツール・スキルが必要か)
<3> 成果物(完成形はどのようなものか)
<4> 関係者(どのような人が関わっているか)
<5> 効率(何人で取り組むか、何日で終わらせるか、費用はいくらか)

「たとえば『パンをつくる』仕事があるとします。<2>のインプットは、小麦粉・水・タマゴなどの材料。 <3>の成果物は、食パン、あんパンなどの製品と考えていいでしょう。単純に言えば、インプットを成果物に変えるのが仕事。そして、どんな仕事にも<1>の目的が存在します。たとえば『健康的な食材を使った、親子で安心して食べられるパンをつくる』ことが目的だとしましょう。そうすると、<1>はどんな材料でもいいということにはなりません。『無農薬の小麦粉』『地産のタマゴ』など材料が限定されるはずです」

そして<4>の関係者は、「契約農家」「工場のラインの作業者」「品質管理担当者」「物流業者」などが考えられる。また、<5>の効率も大事だ。1時間あたり何個つくればいいのか? 作業者は何人でこなすのか? どのくらいの時間で? 不良率は? など、その仕事が問題なく回っている、あるいは問題があることを客観的に示す根拠は何か。これを定義する必要があるからだ。

このように、仕事をとらえなおしてみることで、「関係者をもっと広げたほうが、よりよい成果物を出せるようになるかもしれない」「1時間に200個は生産できていないとまずい」など、現在の仕事のやり方の無理、無駄、改善に向けた前向きな議論ができるという。

そして次に取り組みたいのが、クオリティラインの定義。仕事において最低限どんな提供レベル(品質、スピードなど)を目指すのかを決めていくことが大切だ。

人の手が加わるかぎり、多かれ少なかれ属人化は起こる。だが、それを最小限に抑えていくことも大切だ。なんとなく属人化している状態を「仕方ないね」と蓋をするのではなく、特定の人にしかできない仕事なのか、誰でもできる仕事なのかをチームで話し合って考えていってほしい。それにより、チームの相互理解が進み一体感も生まれてくる。

「私は、属人化が必ずしも悪いとは思いません。なかには良い属人化もあります。たとえば、あなたのチームに問い合わせ対応の仕事があるとします。誰もが答えられなければならない問い合わせなのに、その人しか答えることができない。これは『悪い属人化』です。一方、『その人に聞けばより役に立つ情報を添えて答えてくれる。あるいは、説明がとても丁寧で分かりやすい』というのは『良い属人化』です。その人『らしさ』と言い換えることもできるかもしれませんね。こういう、良い属人化はむしろ大切にしたほうがいい。働き甲斐が生まれますから。良い属人化は褒め称えあい、ノウハウを共有し合う。そうすることで、より高いクオリティラインを目指していくことができるようになります」

人には苦手分野と得意分野があるわけだが、ノウハウを共有し合う体制ができてくると、メンバー同士で何が得意で何が不得意かを相互理解するようになり、個々の得意を生かして苦手をフォローしあう風土が醸成されてくるという。

「いい組織をつくるうえで大切なのは、上司と部下、あるいはメンバー同士がお互いのことをよく理解し、互いにいい背中を見せ合うこと。そのためには、先ほどの5つの項目にあてはめて考えてみたり、自分たちの仕事をシンプルに説明できる状態にしておく必要があります」

同じチームにいたとしても、個人個人で考えは違うし、見えている景色も異なる。それを共有することで組織力が強まるというわけだ。

はたして生産性とは何なのだろうか?

さて、全5回の連載を通じて考えてきた“生産性”についてだが、この広くあいまいな意味を持つ言葉の役割は何なのだろうか。

それは“勝ちパターンを見つけること”ではないだろうか。とくにスポーツなどで強豪と呼ばれるチームは、必ずといっていいほど得意なスタイルが決まっている。それは仕事においても同じことだ。

目標を達成するために、自分や組織にとっての最適な仕事の方法を見つけ出していく。そのなかには効率的なものもあるし、一見すると無駄とも思えるものもあるはず。だが、それで勝てるのであれば、それがつまり生産性がいいということにほかならないのだ。

「無駄な資料はつくらない」「リモートワークを推進する」「副業をはじめる」「あえて効率化をはからない」など、例をあげたら枚挙に暇ない。だが、その選択肢のうちから何を選ぶかで、進む道は決まってくる。もちろん失敗することもあるだろう。それでも、自分たちがもっとも勝てる方法は何かについて試行錯誤する。そうやっていくことで道は拓けていくはずだ。


沢渡あまね氏
業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車、NTTデータ(オフィスソリューション統括部)、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。現在は複数の企業で「働き方見直しプロジェクト」「社内コミュニケーション活性化プロジェクト」「業務改善プロジェクト」のファシリテーター・アドバイザー、および新入社員・中堅社員・管理職の育成を行っている。主な著書に『仕事の問題地図 ~「で、どこから変える?」進捗しない、ムリ・ムダだらけの働き方』『職場の問題地図 ~「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方』『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』など。


文=村上 広大(EditReal)
イラスト=浜名 信次(Beach)
モーションデザイン=濱本富士子(Beach)