弾道ミサイル再び……挑発強める北朝鮮

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北朝鮮が4日に続き、再び飛翔体を発射した。

ミサイルは9日午後4時29分と49分に北西部の平安北道・亀城付近から東方向に発射された。韓国国防省によると高度は40キロあまりで、1発目は約420キロ、2発目は約270キロ飛行して日本海に落下した。

4日の発射ではロシア製の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を改良したと見られる「戦術誘導武器」が含まれており、専門家らから弾道ミサイルの疑いが指摘されていたが、日米韓は認定を避け「飛翔体」としてきた。

しかし今回、アメリカ国防総省は発射されたのは「複数の弾道ミサイル」と断定。

北朝鮮が弾道ミサイルを発射するのは2017年11月29日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」以来、1年5ヶ月ぶりだ。

2017年11月29日に打ち上げられた大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」
2017年11月29日に打ち上げられた大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」

国連の安全保障理事会は、北朝鮮に対し「弾道ミサイル技術を使った発射」や「弾道ミサイル計画に関連する全ての活動」を禁じており、決議違反が決定的になった。

9日の発射を受けてアメリカのトランプ大統領は、「誰も喜ばない。事態をとても深刻に捉えている。」と述べた。また、今後の非核化交渉について「米朝の関係は続く」と対話継続の姿勢は示したものの、「彼らは交渉の準備が整っていないと思う」と早期の交渉再開には否定的な見解を示した。4日の発射の際は、「彼(金正恩朝鮮労働党委員長)は私が味方であることを知っており、私との約束を破るつもりはないだろう」と対話継続を優先する姿勢を示したのとは対照的だ。

一方、北朝鮮は10日、金委員長が前線・西部戦線防御部隊の「火力攻撃手段」訓練を指導したと伝えた。4日の発射については「正常な軍事訓練」で「地域情勢を激化させてもいない」と正当性を主張。今回も「自衛的な訓練」として、安保理決議違反との批判に対抗する見通しだ。

弾道ミサイルであっても短距離の場合は、これまでも非難声明止まりで国連が新たな制裁を下すには至らなかった。北朝鮮は米朝対話に決定的な影響を与えない範囲で、挑発の度合いを強める戦術と見られる。米朝対話の期限を年内としている北朝鮮。アメリカが制裁緩和に同意するまで今後も挑発を続ける可能性が高い。

弾道ミサイルでも食糧支援検討…仲介者役にこだわる韓国

北朝鮮の挑発は日米韓の足並みにも乱れをもたらした。

米当局に続いて日本も9日の飛翔体は「短距離弾道ミサイル」と認定した。岩屋毅防衛相は「国連決議に明白に違反しており遺憾だ」と述べた。

しかし、韓国国防省は「短距離ミサイル」との見解を発表、日米とは食い違いを見せた。

国防省関係者は「(弾道ミサイルは)ペンタゴン(アメリカ国防総省)の公式見解ではない」と釈明しているが、北朝鮮を刺激したくない文在寅政権に過度に配慮しているのではないかとの指摘がでている。

9日に発射された飛翔体について韓国国防省は2発と発表したが、10日の北朝鮮メディアが公開した写真ではミサイルを含め6発の発射が確認された。米韓の情報共有も含め、韓国軍の情報能力を不安視する声もある。

北朝鮮に対する向き合いでも米韓に温度差が生じている。

文氏はアメリカのトランプ大統領と7日夜、電話でおよそ35分間会談した。

終了後、ホワイトハウスと韓国大統領府はそれぞれ内容を発表したが、そこにも食い違いが見られた。
韓国大統領府によれば、両首脳は「北朝鮮が非核化対話から離脱しないようにしつつ、早期に非核化交渉を再開するための方策を巡って意見交換した」
文氏はトランプ氏がツィートで対話継続の姿勢を示したことについて「北朝鮮を肯定的な方向に引き入れるのに決定的な役割を果たすもの」と評価した。

さらに、北朝鮮の食糧不足が深刻だとする国連機関の報告書についても意見交換し、トランプ氏が「韓国が人道的次元で北朝鮮に食糧を提供するのは時宜にかなっており、肯定的な措置になると評価しこれ(支援)を支持した」と明らかにした。

一方、ホワイトハウス側の発表では、「両首脳が北朝鮮の最近の動向や最終的かつ完全で検証可能な非核化(FFVD)の達成に向けた方策を議論した」とあるのみで、食料援助に関する言及はなかった。

そもそもアメリカ政府は食料援助には否定的だった。だが、食料援助を使って北朝鮮との対話再開に持ち込みたい韓国側は、電話会談でこの問題を持ち出し、大統領から直接お墨付きを得るのに成功した。

電話会談を受けて韓国政府は早速、食糧支援の検討を表明した。統一省報道官は8日、「国際社会と緊密に協力して北朝鮮住民に対する人道的食糧支援を推進して行く」と述べ、人道支援に強い意欲を示した。

北朝鮮側は韓国批判を強めている。韓国国防省が4日の発射について南北軍事合意に反すると批判したのに対し、「南朝鮮の発言は居直りに鉄面皮」だと反論。

文政権がめざす米朝の“仲介者”の役割についても、「これ以上仲裁者役にしがみついても更なる窮地に陥るだけだ」と切り捨てている。文氏は食料援助をカードに北朝鮮を対話の場に引き出し、米朝の“仲介役”を果たす考えを捨てていないが、北朝鮮側が応じる可能性は低そうだ。

日本「無条件対話」へ…首脳会談の成否

日朝関係への影響はどうか。

安倍晋三首相は金委員長との首脳会談について「核・ミサイル・拉致問題の解決につながることが重要だ」としてきたが、「条件をつけずに直接向き合う」と前提条件なしに会談する方針を示している。

9日に発射された飛翔体が弾道ミサイルと断定された後もこの方針に変更はない。

北朝鮮も日本の方針転換を好意的に受け止めているフシがある。

北朝鮮メディアは8日、4日の飛翔体発射について「国際社会はもちろん、米国と日本も今回の訓練に対し中長距離ミサイル発射でも、大陸間弾頭ミサイル(ICBM)でもないので、いわゆる『約束違反』ではないという立場を明らかにした」と主張した。

アメリカと並んで日本が北朝鮮の主張に理解を示しているとしたのは異例で、北朝鮮の態度変化につながるのか注目される。

日本は昨年6月にシンガポールで開催された史上初の米朝首脳会談以降、北朝鮮側と極秘接触を試みてきた。接触にあたったのは、北村滋内閣情報調査官と北朝鮮の金聖恵・朝鮮労働党統一戦線部策略室長で、情報当局ラインを稼働させたものの、首脳会談の実現には至らなかった。

北朝鮮側は「会いたいというなら会ってもいいが、こちらから何かする気はない」(北朝鮮関係筋)という対応に終始したという。北朝鮮側に取ってみれば対米交渉が最優先で、日本は眼中になかったというのが正直なところだろう。

肝心の金委員長はどう考えているのか。
共同通信など一部メディアは、2回目の米朝首脳会談で金委員長がトランプ氏に「拉致問題の存在は認識している。安倍首相と会う用意がある」と伝えたと報じた。

しかし、首脳会談を開催しても、成果が得られる保証はない。ハノイでの2度目の米朝首脳会談が示すように、実務協議が煮詰まらない段階でのトップ外交にはリスクがつきまとう。

安倍首相は果たして、金委員長との直接会談に打ってでて、拉致問題で成果を上げられるのか。首脳会談の成否は五里霧中だ。

【執筆:フジテレビ 報道センター室長兼解説委員 鴨下ひろみ】
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鴨下ひろみ
鴨下ひろみ

「小さな声に耳を傾ける」 大きな声にかき消されがちな「小さな声」の中から、等身大の現実を少しでも伝えられたらと考えています。見方を変えたら世界も変わる、そのきっかけになれたら嬉しいです。
フジテレビ客員解説委員。甲南女子大学准教授。香港、ソウル、北京で長年にわたり取材。北朝鮮取材は10回超。顔は似ていても考え方は全く違う東アジアから、日本を見つめ直す日々です。大学では中国・朝鮮半島情勢やメディア事情などの講義に加え、「韓流」についても研究中です。