何十年も家族が暮らしてきた実家には、長年にわたって積み重ねられた家族の想い出と、さまざまな荷物が詰まっている。親と別居している場合、久しぶりに帰った実家で「ガラクタがいっぱい。片づけなきゃ」と離れて暮らしていると意外と気づかない乱雑ぶりに気づく人も多いだろう。親の介護で手一杯になってしまう前、親が元気なうちに、実家の片づけにも着手しておきたいところだ。

第3回となる本稿では生活研究家・消費生活アドバイザーの阿部絢子さんに、実家の片づけをどうハンドリングしていくべきか聞いた。

家の片づけとは、暮らしの仕組みをつくること

 
 
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「実家の片づけというと、単なる断捨離と考えてとにかくガラクタを捨ててしまおうとするお子さんが多いようです。でも、そんなやり方で親の家を片づけようとしては絶対に揉めますよね。

暮らしっていうのは、生き方が出るものなんです。ただモノを少なくすればいいというのではなく、親の生き方や暮らしをどうデザインしていきたいのか、イメージを持ってそれを実現していくことが重要です。親の生き様を尊重しながら、コミュミケーションをとって親の暮らしについてのイメージを共有しておくんです。そのイメージを実現しつつ、老いていく親が暮らしやすいように“暮らしの仕組みづくり”をサポートしていくことが必要です」

その“暮らしの仕組みづくり”とは、どういうものなのだろうか?

「老いた親が動きやすく、安心安全な暮らしをできるような部屋を作ることです。たとえば、高いところや奥にものをしまわず、取り出しやすくしまいやすいようにするとか。寝室が2階で階段を上るのがつらいようであれば、寝室を一階の入り口近くにするとか。つまりは、親が自立して暮らすためのサポートをするということ。歳を取ってくると若い頃のように体の自由が利かなくなりますから、改装という手段も含めて暮らしやすい仕組みを整えてあげる必要があります」

親の家の片づけ、どこまでやるべき?

子どもの立場としては、とにかく実家をとことん片づけておきたいと考えてしまうが、実際のところ親の世代は片づけを望んでいるのだろうか?

「正直いうと、親だって勝手な子どもの思い込みで自分のものを捨てられたりするのはイヤですよね。自分が暮らしてきた生き様を否定されているように思うだろうし、ごちゃごちゃした中で暮らしていくのだって、親の権利の一つだから。土足で自分の生活に踏み込まれて、勝手にものを捨てられたりしたら誰だってイヤでしょう」

とはいえ、子どもが強制的に親の家を片づける必要がある場合もある。

「親の生命に危険が及ぶようなことがあれば、強制的に片づけるべきだと思いますよ。ものが多くて窓が開けられず、エアコンのつけ方もわからなくなってしまった場合、締め切った状況で熱中症になることもある。そういった場合は、風が通って暮らしやすくなるように窓のそばにモノを置かないようにしたり、エアコンを簡単につけられるように部屋を整えてあげるとか。ケースバイケースでその親御さんがどういう状況かを見極めて、相手の思いを尊重しながら安全に暮らせる仕組みを作っていけばいいんですよ」

なんのために親の家を片づけるのか?子どもが楽になるためにものを片づけるのではなく、その家に暮らす親が安全・快適に暮らしていくために片づけるのだという目的に立ち返れば、何をすべきで何をすべきでないのか、おのずとわかってくるはずだ。

きょうだいに内緒の行動は、大きなトラブルの原因の一つ

子どもに勝手に家の片づけをされることを嫌がる親もいる一方で、終活の一環として自分の持ち物を減らしていきたいと自ら断捨離を望む親もいる。親から「片づけを手伝って」と依頼されることもあるが、そんな時に気をつけておきたいのが、きょうだい間のコミュニケーションだ。

たとえ親自身が納得していたとしても、親の持ち物が処分されたことを後から知ったきょうだいが、クレームを入れてくるといった事態は多い。そういったことを避けるためには、きょうだい同士で密にコミュニケーションをとりあって、親の家の片づけなどについて隠し事をせずにお互いに納得しておくことが重要だ。

「知らない間にきょうだいが実家に出入りしてモノを処分していることが後から耳に入ると、財産を処分して自分のものにしているのでは、などと揉めやすくなるもの。関係悪化を避けるためにも、普段からコミュニケーションをとり、情報は隠さず報告しておいた方がいいでしょう」

もう一つ重要なのは、親が元気なうちに、親自身に資産状況や遺産配分などについて明らかにしておいてもらうことだ。

「きょうだい同士で情報共有をしていたはずでも、親から聞いていない財産が出てきたり、あるはずの財産がなかったりということはよくあります。もしくは、これまで知らなかった新たなきょうだいが出てきたりする場合すらあるんです。

できれば親に財産状況を把握し、遺言状の準備や見直しをきっちりしておいてもらいましょう。重要なことは文書に残してもらうのもいいですね。これも、親の自立の一つ。後で子どもたちが揉めないようにすべてをはっきりさせておくのは親の責務だし、子どもにも聞く義務があるんです。だから、そういったことを親が話し出しやすい雰囲気を作ることも必要だし、親の言葉を尊重して受け入れることが重要ですね」

“親の自立”とは、片づいた家で快適に暮らせるようにするだけではない。遺された子どもたちや親戚などに禍根を遺さないよう、資産状況などの整理を行っておくことでもあるのだ。家の片づけとは、大きな意味では親がこれまでに手にしてきたモノや資産、人間関係、そういったすべてのものを整理していくことともいえるだろう。

 
 

■阿部絢子
生活研究家・消費生活アドバイザー。料理や片づけをはじめとした家事全般や食品の安全性の専門家として、豊富な知識と合理的なアドバイスで、出版・講演など幅広く活躍している。主な著書に『案ずるより、片づけよう 住まいの老い支度』(講談社)など。

(執筆:松村 知恵美)

プライムオンライン編集部
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