「大事なのは経済だ、バカモン」

"It's the economy, stupid"という言葉が、米国の選挙戦で有名なスローガンになっている。

 「大事なのは経済だ、バカモン」とでも訳せるが、1992年の大統領選挙でビル・クリントン陣営がこのスローガンで勝利したことから有名になった。

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相手は現職のジョージ・H・W・ブッシュ(父)大統領。1989年のマルタ島首脳会談で旧ソ連との冷戦を終結させ、91年にはクエートを侵略したイラクを相手にした湾岸戦争で文字通り「鎧袖一触」の勝利を納めて一時は国民の90%もの支持率を得ていた。

そこでクリントン選対は、当時景気が後退気味であったことから「経済」に絞って選挙戦を戦う戦略を立て、選挙参謀のジェームズ・カービル氏がこのスローガンをあみだし選対事務所に貼り出していたという。

選挙はこの狙いが功を奏してクリントン大統領を誕生させることになったのだが、選挙では「経済」が有権者に訴える最も効果的なことが改めて証明され、以後選挙ではこのスローガンがしばしば引用されるようになっている。

そして、来年の大統領選でもこのスローガンが早くも使われ始めた。

「21世紀は20世紀の経済学では理解できないことが起きる」

 「大統領の経済政策の支持率急増:56%が支持。2月から8ポイント上昇。大事なのは(今も)経済だ、バカモン。ジェームズ・カービルに脱帽」

トランプ大統領の顧問ケリーアン・コンウェイさんが2日こうツイートした。

ケリーアン・コンウェイ氏 公式ツイッターより
ケリーアン・コンウェイ氏 公式ツイッターより

同日CNNが発表した大統領の経済問題に関する世論調査で、回答者の56%が「大統領は良い仕事をしている」と答え、これまでで最高の支持率を記録したからだ。

さらに翌3日、米労働省が発表した4月の雇用統計で非農業部門の雇用者が26万3000人と大幅に増え、失業率は3.6%と1969年以来49年ぶりの水準まで回復したことが明らかになった。

 「雇用ブーム、低インフレ:経済に起きるはずのなかったことが起きている」

トランプ大統領の政策をことごとく批判してきたニューヨーク・タイムズ紙も、好況を裏付ける数字を否定することもできず、21世紀の経済は20世紀の経済学では理解できないことが起きるのではないかと言い訳のような分析でお茶を濁した。

トランプに対抗できる経済政策が見当たらない

 「トランプの成功は2020年(の大統領選挙)で民主党の大きな問題に」

 共和党寄りのニューヨーク・ポスト紙は、こう勝ち誇ったような社説を掲載した。
 その民主党からは20人が候補者に名乗りを上げているが、公約にトランプ大統領に対抗できるような経済政策は見当たらない。

ジョー・バイデン候補
ジョー・バイデン候補

「支出1兆ドル(約110兆円)削減、増税6000億ドル(約66兆円)」ジョー・バイデン候補
 「大企業への優遇措置の廃止、富裕層への課税強化」バーニー・サンダース候補
 「 GAFA(巨大IT企業)の解体」エリザベス・ウォーレン候補
 「ベーシックインカム(最低限所得保障)の採用」カマラ・ハリス候補

 世論調査で上位の民主党候補の経済公約だが、どれをとっても現実味がなく有権者の投票意欲をそそるものとは思えない。 このままだと「大事なのは(やはり)経済だった、バカモン」と言ってトランプ大統領が再選されることになるのではないか。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【イラスト:さいとうひさし】

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木村太郎著
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木村太郎
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理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。