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人生100年時代、学び直しをする社会人は増える一方だ。しかし、それが現役のJリーガーと言うと、少し状況が違う。浦和レッズのMF長澤和輝選手(27)は、今春早稲田大学院に入学し、スポーツビジネスを学んでいる。かつてブンデスリーガで武者修行した長澤選手が、なぜいまスポーツビジネスなのか、インタビュー取材した。

スポーツをビジネスの視点で学びたい 

早稲田大学スポーツ科学学術院平田竹男研究室。平田教授は内閣官房参与、2020東京オリンピック・パラリンピックの推進本部事務局長も務める
早稲田大学スポーツ科学学術院平田竹男研究室。平田教授は内閣官房参与、2020東京オリンピック・パラリンピックの推進本部事務局長も務める

ーーまず、なぜ大学院に入学しようと思ったのか、教えてもらえますか?

専修大学を卒業してドイツに渡ったときは、ドイツ語や英語の語学学校に行きました。学ぶ意欲は、帰国後Jリーガーとしてプレイしながらもあって、自分がいるスポーツビジネス界をプレイヤーの視点だけではなく、ビジネスという視点で勉強したいなと。自分自身はサッカーのプレイ面はわかりますけど、それしかわかっていないという感覚があったので、一度こうやって学びたいなというのがありました。

ーーそもそもJリーガーは、試合日を除くと練習以外の時間は何をやっているのですか?

野球と違ってサッカーは2~3時間以上練習すると、練習の負荷・効果ともに落ちてしまうので、1日の中で練習以外の時間がすごく長いといえます。ですから、家族のいる選手は家族と過ごしますが、独身の選手は映画を観たりとか、ご飯に行ったりとか。中には語学を勉強したり、宅建とか資格を取ったりする選手もいますが本当に稀ですね。

ーー長澤選手がスポーツビジネスを学ぶのは、次の自分のキャリアのためでもあるのですか?

次のキャリアに関しては、そこまで何かやりたいというのは、いまはありません。これまでやってきたサッカー、スポーツというものに何か貢献できればということ、自分が研究した論文で、次の選手たちに役立つことができればという2つの想いからです。

日本人選手がブンデスリーガで成功するには 

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ーーいま大学院でされている研究について伺いますが、研究テーマは何ですか?

テーマは日本人選手がブンデスリーガに渡って、困難や壁をどう解決していくか、ブンデスリーガで活躍、つまり出場時間をどう伸ばしていくかということです。自分自身ブンデスリーガに渡って、試合に出場する、環境に馴染むことがすごく大変だなという想いがありました。次の若い選手たちがその困難をどう乗り越えて行けるかに、日本のサッカーが伸びていくかどうかがかかっているかと。Jリーグもすごくレベルが上がっていますけど、日本人選手が海外で活躍することが、いまの日本の代表をより強くする意味で、本当に必要だと思っています。

ーー長澤選手自身はドイツでプレイしてみて、日本人であることの限界と、日本人として可能性があるなと思ったのはそれぞれどんな部分ですか?

やはり日本人は、身体の大きさや強さだったり、速さだったり、そういった部分では世界のトップレベルに劣るとプレイして感じましたし、実際に多くの選手がその困難にぶつかっていると思います。日本人の可能性としては、圧倒的な個性を持っている外国人選手に対して順応性や協調性があったり、監督の言うことを素直に体現しようとしたり、周りの選手に気を使ったプレイができたり、こうしたことはもちろん選手にもよるのですが、日本人の可能性かなと思います。

ーー今後研究していく中で明らかにされると思いますが、ドイツで成功する日本人と失敗する日本人の分かれ目はどこにあると思いますか?

研究で「成功」と「失敗」をどう定義するのかは、すごく難しいと思うんですけど、僕は出場時間にフォーカスしています。つまり、選手として出場時間を長く確保できれば、自ずからチームでのキャリアが長くなり、もしくはキャリアアップできて「成功」となるだろうと。逆になかなか出場できないのは、「失敗」と定義づけました。出場時間を増やしていくのは、選手個人の能力、そのときの姿勢やメンタルだったり、または周りの環境だったり、いろんなことが絡んできて一概にこれとは言えません。研究では、ブンデスリーガで長く活躍できた日本人選手たちの特徴を分析できるだけでも、次に続く選手たちの参考になれるかなと思います。

大学院が次の選手の選択肢になれば 

ーー最後に、いま人生100年時代を見据えて社会人の学び直しが増えています。こうした傾向についてどう思いますか?

実は自分の母親もいま大学に通っているので、社会人が学ぶという姿勢はすごく身近に感じていて。社会人の方が仕事をしていくうえで、同じことを繰り返していても学びは生まれにくいでしょうし、そういう意味では新たに大学に行くというのは、学べるすごくいい機会だと思います。

ーー長澤さんは発信力があるので、他の人に与える影響が大きいですね。

スポーツ選手には寿命があるし、サッカー選手の場合は特に短い。選手でいる間に空いている時間をどう使うか。こういう取り組みもあることを発信していって、次の選手たちの選択肢になればいいかなと思っています。

ーーシーズン途中の忙しいところ、ありがとうございました。引き続き頑張ってください。

(インタビュー:2019年4月26日 都内・早稲田大学にて)

長澤和輝選手プロフィール
1991年千葉県市原市生まれ。専修大学卒業後、2013年ドイツ・ブンデスリーガ2部のFCケルンに加入。帰国後ジェフユナイテッド千葉を経て、現在浦和レッズ所属。日本代表経験あり。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。