いよいよ平成が終わり、令和の時代を迎えようとしている。韓国の文在寅大統領は、天皇陛下が在位中に平和 の大切さを守って行く事の重要さを強調し、日韓関係の発展に大きな寄与をされたとして、謝意を表わす書簡を天皇陛下に送った。書簡には、「退位以後にも両国関係発展のために努力してくださることを期待します」との文言も含まれているという。

韓国メディアが伝える「お代替わり」

退位礼正殿の儀で国民への最後の言葉を述べられる天皇陛下
退位礼正殿の儀で国民への最後の言葉を述べられる天皇陛下
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 韓国メディアも連日、お代替わりについて報じている。日本国内の雰囲気について「パン、即席カップ麺 、コーラ、筆記具などにも令和を刻んだ製品が登場するなど、年号マーケティングが祭りの雰囲気を高めている。(国民日報)」「行政官庁は若い新婚夫婦が“令和婚”届けをすることに備えて特設窓口を作った(朝鮮日報)」など、日本中が新時代に向けた希望にあふれていると東京発の記事は描写している。

しかし、そうした現象面ではない解説記事には、首をかしげたくなる記述も多い。複数の韓国メディアが、今上陛下や皇太子さまを「親韓国」「反安倍首相」だと決めつけた上で、結論として「右傾化する」安倍首相批判に繋げているのだ。朝鮮日報、聯合ニュース、マネートゥデイなどが挙げた「親韓国」「反安倍」の主な根拠は、以下の通りだ

・終戦記念日に安倍首相は反省の言葉を述べないが、陛下は反省の言葉を述べた
・陛下が2001年「桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると,続日本紀に記されていることに,韓国とのゆかりを感じています」と発言された
・陛下は2005年のサイパン訪問時に、韓国人慰霊碑も参拝された
・皇太子さまは2014年に「今日の日本は,戦後,日本国憲法を基礎として築き上げられ,現在,我が国は,平和と繁栄を享受しております。今後とも,憲法を遵守する立場に立って,必要な助言を得ながら,事に当たっていくことが大切だと考えております」と発言された。皇太子さまは「護憲派」だ
・安倍首相はお代替わりを契機に平和憲法改正に勢いを付けようとしている

まず、天皇陛下は日本国、日本国民統合の象徴であり、政治的権能を有しないと憲法で定められており、陛下のお言葉や行動を政治的に利用する事は厳に慎まねばならない。韓国には日本国憲法の効力が及ばないので問題とは言えないのだが、あからさまに政治利用しようとする記事は気持ちの良いものではない。

また、百済との繋がりを述べられた陛下の言葉は、翌年に控えたサッカー日韓ワールドカップに向けて韓国への関心や思いを聞かれた際の回答で、世界的な大会を共催する韓国への親しみを表されている。ただ陛下はこれまで、国の大小などに関わらず、どの国にも平等に接し、すべての国に敬意を払われてきた。退位の儀式の最後のおことばでも「世界の人々の幸せと安寧を祈ります」と述べられており、いわば「親世界」「親人類」を体現 されてきた。韓国メディアが我田引水的に「親韓だ」と言い募るのは、間違いとは言えないが違和感がある。また、陛下や皇太子さまが「憲法を遵守する」と仰って来た事をもって「護憲派」とは言えないだろう。「護憲派」は「改憲反対」との意味も含むが、政治的な発言が出来ない陛下や皇太子さまの言葉を勝手にそう解釈する事は出来ない。朝鮮日報は皇太子さまの先に紹介した2014年の発言を受けて、「(皇太子さまは)安倍総理が推進中の憲法改正に対しては反対する立場だと伝えられている」と断言しているが、文字通り「憲法を遵守する」という意味で受け止めるべきだ。

結局言いたいのは「反安倍」

退位礼正殿の儀で陛下へのお礼の言葉を述べる安倍首相
退位礼正殿の儀で陛下へのお礼の言葉を述べる安倍首相

韓国の聯合ニュースは、「安倍首相は海外歴訪中だった4月23日に改憲推進団体の集会に送ったメッセージを通じて"令和という新しい時代のスタートに立った。この国の未来像について真正面から議論しなければならない時が来ている。憲法は国家の理想を語るものだ"として露骨に日王(※韓国メディアが使う天皇陛下の呼称)と年号交替を改憲の雰囲気に繋げようとする意図を表わしたことがある。」と書いている。他の多くの韓国メディアも、安倍総理がお代替わりと改憲を結び付けようとしていると分析している。

ただ、憲法改正は、衆参各議院の3分の2以上の賛成で発議され、その後の国民投票で過半数の賛成がなければ成立しない。元号が代わったからと言って、日本人が雰囲気や勢いだけで憲法改正に突き進むような軽挙妄動を本当に取るだろうか?過去に日本に統治された経験から、日本の右傾化を警戒する気持ちも分からないでもないが、韓国メディアは危機を煽りすぎているように感じる。

 日韓関係の改善も期待しているが・・・  

もう一つ目立ったのが、お代替わりを日韓関係改善のきっかけにしたいとの論調だ。聯合ニュースは「この頃の(日韓)関係梗塞の大きい原因は安倍政権の政策にある。安倍政権は支持層結集と政権延長を試みる手段で右傾化、軍事大国化、韓日葛藤を試みてそそのかしているという批判を免れ難い。」「徳仁日王(※韓国メディアが使う天皇陛下の呼称)即位と新しい年号、G20首脳会議など一連の変化と首脳外交を契機に大きい枠で出口が摸索されることを願う。」と書いた。多くのメディアは、現在の日韓関係に危機感を抱いていて、関係改善が必要だと切実に訴えている。そこは同意できる。ただ、現在の日韓関係悪化の契機は、慰安婦問題の財団解散や、いわゆる元徴用工に関する訴訟など韓国側の一方的な対応に端を発している。「日韓関係悪化の原因は安倍首相」という現状認識では、しばらく関係改善は難しいだろう。

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】
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渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。