座談会には日韓を代表する専門家が参加 

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今月15日、韓国・ソウル市内で注目の座談会が開かれた。

「危機に直面する日韓関係について緊急議論する」と銘打たれたもので、参加者には日本を代表する朝鮮半島研究家である慶應大学の小此木 政夫名誉教授、そして韓国で日本研究のトップとも称されるソウル大学のパク・チョルヒ教授らが名を連ねた。
 
やはり議論の中心になったのは「徴用工問題」だ。

日本企業に賠償を命じた去年10月の韓国最高裁の判決以降、下級審でも原告勝訴の判決が相次いでいる。日本は日韓請求権に基づく協議を韓国側に求めているが、韓国政府は返答せず、その間に複数の企業の資産が差し押さえられた。今月初めには追加訴訟まで起こされ、事態は悪化の一途をたどるばかりだ。この“最悪の状況”の解決方法を日韓の専門家たちが議論した。

小此木名誉教授「いくつかの条件を満たした財団の設立」 

小此木名誉教授の解決法を以下にまとめる。

・問題が深刻化した原因は外交決着した問題に司法が介入したから。
・ただ三権分立のもと「司法の独立」は確保しなくてはいけない。
・差し押さえ資産の現金化、対抗措置の応酬は1965年の日韓請求権協定以前の「無協定状態」に戻ること。
労働者の補償事業を担う財団を設立する「財団方式」しか解決方法はないのでは。ただ韓国は慰安婦財団を解散した過去がある。財団方式にはいくつかの条件を満たす必要がある。
①  古い枠組み(日韓基本条約、請求権協定)の正当性を破壊しない。韓国側が財団の枠組みを示す必要があること。韓国政府・企業による財団設立。そこに日本企業が自発的に参加する。
②  現実的に補償可能な範囲で考える。日韓が受け入れ可能なものであること。
③  未来志向的で「最終的」に解決できる仕組みを持つ。

パク教授「被害者を限定するべき」

一方、パク教授の解決法は以下の通りだ。

・日韓合意の形骸化の原因には日韓双方の過失がある。
・慰安婦財団は34人の元慰安婦に補償金を支給し使命を尽くしている。韓国が言う被害者中心主義は“抵抗する”被害者中心主義だ
・安倍総理の謝罪拒否は日本側の誠意不足
・韓国政府が介入して判決を覆すことはできない。被害者の反発もある。
・財団方式は非常に良い案。だが韓国が先に行動するのは容易ではない。
・まずは被害者を特定する必要がある。訴訟を起こす当事者は「被害者本人」に限定する。
・徴用された被害は客観的に立証されなければいけない。
・訴訟の時効を設定する必要がある。 

「財団方式」で日本人は納得するか? 

小此木名誉教授が提案する「財団方式」にパク教授も肯定的な意見であった。だが小此木名誉教授も指摘するように、「また解散するのでは?」という疑念を拭うことはできない。

そもそも「慰安婦財団」は2015年の日韓合意で日本政府が出資した10億円を元に韓国政府が設立し、元慰安婦への支援事業を担ってきたが、去年11月、韓国政府は解散を発表。文在寅大統領は「合意で問題は解決しない」とちゃぶ台返しをして、国と国との「約束」を一方的に破棄した訳だ。政権が変わったからといって許されることではない。「財団」と聞いた途端に日本側が反発するのは必然だ。

仮に残された道が「財団方式」だったとしても、まずは韓国側が日韓合意の柱だった「慰安婦財団」を解散させた事実に対して、適切な対応をとり、財団を「あるべき姿」に戻す必要がある。最低限の議論はそこから始まるのではないか。

また看過できないのは、どうも現状の日韓関係悪化の原因は「日韓双方にある」との主張が韓国内で繰り広げられていることだ。

日本の努力を促す韓国…まずは自国で問題を処理するべき 

パク教授は日韓合意の形骸化を「安倍総理の謝罪拒否は日本側の誠意不足」と指摘した。

「安倍総理が謝罪すべき」という主張は、慰安婦問題で天皇陛下に謝罪を求め日本の大反発を招いた文喜相(ムン・ヒサン)国会議長も主張していたが、韓国内で良く聞かれる主張だ。
しかし安倍総理は日韓合意の中で明確に謝罪している。この主張が韓国内で繰り広げられる度に「日本は一度も謝罪したことない!」という誤った認識が拡散しているのだ。

※日韓合意の本文
安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

さらに李洛淵(イ・ナギョン)首相の秘書室長が今月14日、自らのSNS上で「最近、韓日両国は(徴用工訴訟の)最高裁判決を契機に関係がぎくしゃくしている」「しっかり決着をつけなかった歴史はよみがえり、議論の的になりがちだ」と指摘。その上で「(関係改善は)両国の努力、特に日本の努力が加われば可能だ」と主張し、“日本側の努力”を促した。

韓国政府の高官までもが日韓関係悪化の原因を「日韓双方にある」と、いわば“責任転嫁”した上に、日本側の努力を促してくるという現実に驚きを禁じ得ない。

日韓は歴史問題を巡る立場の違いがある中で、先人たちがそれを乗り越えて“日韓関係”をつくりあげてきた。元徴用工への補償は1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的」に解決し、慰安婦問題も日韓合意で「最終的かつ不可逆的」に解決したと言ってきたのは、日本政府だけではない。韓国政府も当事者として「解決した」と言ってきたのだ。

その根底をひっくり返したのは現韓国政府に他ならない。南北融和に突き進み、北朝鮮ばかりを追いかける文大統領がどれほど日韓関係の修復を願っているかは分からないが、もしそれを願うなら日本に責任をなすりつける前に、まずは韓国自身が反省し、自国内で問題を解決することが先だろう。そのような姿勢に至って、初めて“最悪の日韓関係”を脱却するための糸口が見いだせるのでないか。
 

【執筆:FNNソウル支局 川村尚徳】
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川村尚徳
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