平成の30年間を振り返ると、多くのコンテンツの「〇〇離れ」が取り沙汰された時代だった。
だが「たばこ」ほど、世間の風当りが強くなったものはないのではないだろうか。

日本とたばこの歴史は長く、諸説あるが、江戸時代には世間一般に普及していたとされる。
近代でも嗜好品として親しまれ、大人たちが紫煙をくゆらせる姿を見ることも珍しくはなかった。

日本たばこ産業の「全国たばこ喫煙者率調査」を基に作成
日本たばこ産業の「全国たばこ喫煙者率調査」を基に作成
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日本たばこ産業(以下:JT)の「全国たばこ喫煙者率調査」を見ると、喫煙率のピークは男女とも1966年。男性が83.7%女性が18.0%にのぼり、男性にとっては「吸うことが当たり前」の時代だったといってもいい。

だが平成に入ると、このような状況は一変する。
喫煙率は年を追うごとに減り、2018年は男性が27.8%女性が8.7%にまで減少。男女合計の喫煙率は17.9%と、1965年の調査開始から最も低い数字を記録した。

“たばこの描写”も避けられる傾向

なぜこれほどまで、たばこという存在が忌避されるようになったのか。年齢確認の導入などさまざまな要因が考えられるが、一番は喫煙の健康被害が周知され、禁煙・分煙が進んだことだろう。

病院には、たばこに含まれるタールで黒ずんだ肺のポスターが貼り出され、学会などでは、副流煙を吸い込む「受動喫煙」の健康被害が次々と発表されるようになった。
喫煙者本人だけでなく、非喫煙者にも悪影響を及ぼすということで、世間のたばこに向ける目が厳しくなったように感じる。

受動喫煙の悪影響が認識されるようになった(画像はイメージ)
受動喫煙の悪影響が認識されるようになった(画像はイメージ)

こうした流れは世界的なもので、海外の映画などでは「喫煙を煽る」として、たばこの描写が避けられる傾向にある。日本のアニメや漫画では喫煙シーンも描かれるが、海外で放映されるとキャンディに置き換えられたり、口元が塗りつぶされることも多い。

このほか、国会でも喫煙の悪影響が議論され、喫煙場所を削減・限定する法規範も定められた。
2020年4月に施行される「健康増進法の一部を改正する法律」では、飲食店などの店舗・施設(一部例外あり)が禁煙となり、これまで以上に禁煙・分煙が進むものと思われ、東京オリンピック・パラリンピックでの受動喫煙対策も後押しする。

喫煙者にも“紙たばこ離れ”の動き

環境の変化だけではなく、たばこ自体が高級品になりつつあることも影響しているだろう。

外箱には「喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます。」と明記されている
外箱には「喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます。」と明記されている

JTのメビウス(旧:マイルドセブン)を例にすると、発売時の1977年が1箱150円だったのに対し、2019年4月現在では480円に値上がりした
「300円程度でしょ?」と思われるかもしれないが、喫煙者には1日で1箱を消費するケースも珍しくはなく、日々の積み重ねで考えれば負担増となっていることも事実だ。

値上がりの理由は「たばこ税」の創設などによるもので、価格の税負担率は約6割。480円なら約300円が税金だ。昔より手が伸びにくい嗜好品となったのは確かだろう。

喫煙者の選択肢となった電子たばこ(画像はイメージ)
喫煙者の選択肢となった電子たばこ(画像はイメージ)

こうした中、喫煙者にも“紙たばこ離れ”と言える状況が起こっている。たばこの葉を燃焼させるのではなく加熱する「加熱式たばこ」が2016年にブームとなり各社が参入。臭いも少ないこともあって浸透し、移行する人が多く出ている。


居場所がない?喫煙者の心境は...

禁煙運動を含め、健康志向が広がること自体は歓迎されるべきことである。だが一方で、喫煙者からは「喫煙できる場所自体がなくなった」と悲鳴が上がっていることもまた事実だ。

列車や航空機などの交通機関が禁煙となったのは周知の通りだが、最近ではマンションなどのベランダで喫煙する「ホタル族」にも手厳しい意見が寄せられるようになった。

海外には日本以上に禁煙志向が強い国もあるが、路上喫煙は認められているケースが多い。これに比べると、日本は条例などで路上喫煙が禁じられ、いわば喫煙者の「逃げ場」がなくなりつつある。

愛煙家の著名人らで組織する「喫煙文化研究会」の事務局長・山森貴司さんは「日本は海外で禁止されていない路上喫煙が禁止され、室内では「健康増進法」や「受動喫煙防止条例」が施行された。諸外国と違い、屋外・屋内とも「禁煙」が進んでいる」と指摘する。

非喫煙者からすれば「そもそもたばこを吸わなければ良い話」だが、喫煙者が「外と内」の両方で居場所を失えば、許可されていない場所での喫煙や非喫煙者との衝突に発展する可能性もある。


「喫煙所以外で吸わないというルールの遵守を」

喫煙者を擁護するわけではないが、たばこが法律で禁止されていない嗜好品なのは事実。
新時代を迎えるにあたり、喫煙者と非喫煙者が共存までとは行かずとも、折り合いをつけることは難しいのだろうか。
山森さんが提唱するのは、完全密閉式喫煙所の設置とその場所以外で吸わないという、喫煙者側のルール遵守徹底だ。

「たばこ税を200円上げてもいいから、そのうち100円を完全密閉式喫煙所の設置予算として計上してもらいたいのです。そうすれば、たばこを吸われない方々にも迷惑は掛かりません。喫煙者がマナーでごまかす時代は終わりました。喫煙場所はたばこ税の増税により確保し、そこ以外では吸わないというルールを守る。それでもダメと言われたら、たばこを法律で禁止すべきです。その方がすっきりします」(山森さん)

喫煙所での喫煙を守ることが第一歩かもしれない
喫煙所での喫煙を守ることが第一歩かもしれない

国内のたばこ事情は平成で大きく変わり、近年では「喫煙者は採用しない」企業も現れ始めた。令和ではもしかすると、喫煙自体が前時代的な嗜好品となるのかもしれない。
ただ、その過渡期の間は「吸わない人に吸わせない」ルールや設備を整えるという対策で“歩み寄る”ことはできないのだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。