「ふるさと納税」といえば、地方自治体に寄付をすると特産物などの返礼品がもらえることは、みなさんご存じだろう。
だが最近は、多額の寄付金を集める自治体と、それを是正しようとする政府の仁義なきバトルが激化して、とうとう6月から新たなルールが導入されることになった。
2018年度の寄付額は497億円!?
2017年度に最も多くの寄付があったのは、以前編集部でも取材した大阪府の泉佐野市。
(ふるさと納税135億円!断トツ大阪・泉佐野市が、なぜ返礼品に他県の名産品も扱うのか聞いてみた)
地元に限らない全国各地の名産品や、返礼率が高くお得な返礼品をそろえて人気を集め、2017年度には地方自治体として初めて100億円の大台を超え、135億円の寄付を集めたことが大きな話題になった。
これに対し総務省は「返礼品は地場産品」「返礼品は寄付額の30%以下」などのルールを守るよう全国の自治体に呼びかけ、さらに泉佐野市などを名指しで批判。
すると泉佐野市は今年2月から「100億円還元」と銘打ち、返礼品にアマゾンギフト券をプラスして贈る前代未聞のキャンペーンを開始。
(仁義なき「ふるさと納税」バトル!総務省に従わない理由を大阪・泉佐野市に聞いた)
今度は総務省が、3月22日に「過度な返礼品を贈る地方団体へのペナルティーといった趣旨ではない」としながら、ふるさと納税の寄付が高額だとみられる、泉佐野市など4団体に対して、3月に支給する特別交付税を減額すると発表した。
特別交付税は、12月と3月の2回、国から自治体に交付しているが、泉佐野市は前年と比べて約2億円少ない約6千万円になるという。
さらに総務省は、6月から「返礼品は地場産品」「寄付額の30%以下」といったルールを厳格化し、守らない自治体は、ふるさと納税制度の対象から除外するという法改正を行った。
以前から地場産品が少ない自治体は不公平という問題があったが、近隣自治体や都道府県と連携し、共通の返礼品を取り扱うことを認める例外を設けている。
一方で泉佐野市は、この法改正で新しいふるさと納税の対象から外れる可能性もあるという。
ついに泉佐野市の"奇策"もこれで終了か・・・と思いきや、3月31日に終了した「100億円還元キャンペーン」を、なんと直後の4月2日から再開し、今も返礼品+アマゾンギフト券を贈り続けている。
泉佐野市は2月の段階で、2018年度の見込み寄付額は360億円以上と発表していたが、その後4月に関係者への取材で497億円を超えるという発言が飛び出した。
ということは、わずか2か月で約140億円も寄付金が増加!?
2017年度と比べると寄付金は約3.7倍に跳ね上がったということになる。
さすがに泉佐野市はちょっと稼ぎすぎでは…もし6月にふるさと納税の対象から外されたとしても蓄えがあるのではないか?担当者にいろいろ聞いてみた。
応援や支持していただいた方々のおかげ
――新ふるさと納税の対象から外されるかもしれないのに、100億円還元キャンペーンを4月2日に再開したのはなぜ?
3月31日が日曜日ということもあり、その日はかなり寄付が集中してサイトに繋がらないような状況になってしまいました。
翌4月1日には、寄付できなかった方から「なんとか寄付できないか」というお申し出がたくさんありましたので、4月2日に再開しました。
今のところ暫定的に再開しているので終了時期のめどは立っていません。
――泉佐野市が日本で最も多い寄付を集められた理由は?
私どもは市役所なので、分析するような力はなく細かいところまでは分かりません。
ただ泉佐野市は、ふるさと納税に早くから取り組み、どうすれば寄付者の方のニーズに合うかずっと考えてきました。
そういった長年取り組んできたことの成果ではないでしょうか。
また、ここ1~2年、総務省がふるさと納税についていろんなルールや助言を出されています。
本来、この制度を利用している自治体や、寄付者・国民の意見をまとめてルールを決めるのなら納得できますが、一方的に総務省がルールを押しつけてきているような状況です。
泉佐野市はずっと「それではいけない」と主張してきたのですが、その取り組みにご賛同いただいたり、応援や支持をしていただいた方々のおかげでここまで来たのかなと。
分析ではないですけど、恐らくこういうことではないかと思っております。
返礼品が半分に・・・寄付は100分の1になるかも
――これからはどうなる? 新ルールのふるさと納税に参加できたら法務省のルールはちゃんと守る?
6月1日以降に新制度の対象となった場合は、法律を守るのは自治体としては当たり前の話です。
そこはしっかり守った中で、取り組みを続けていきたいと考えております。
――アマゾンギフトはなくなる?
そうですね。
基準に適合しないと思います。
当然、総務省のルールの中でしっかり取り組んでいくことになります。
――新ルールでは返礼品や寄付額はどうなる?
それは正直言って、どうなるか全く見込みはできていません。
ただ、おそらく半数以上の返礼品がなくなることになるだろうと思います。
寄付額で申し上げると100分の1程度に落ち込む可能はあるかと思います。
――すごい寄付を集めたから、少し寄付が減っても平気なのでは?
泉佐野市は以前、破綻した夕張市の一歩手前のような状態まで財政状況が悪化したことがあります。
そのときは、遊休資産を売却をしたり市の名前の命名権を売ろうとしたり、さらに他に何もできないぐらいまで予算を切り詰め、なんとか自主再建で脱却することができました。
でも税収はいきなり増えるものではないので、なんとか税外収入を確保しようと始めたのが、このふるさと納税の制度だったのです。
財政状況が厳しい中、ふるさと納税でいただいた寄付を様々な事業に活用させていただいたおかげで、今ではようやく他の自治体に近づいたといえる状態になりました。
例えば当市の場合は、ふるさと納税でいただく寄付の約4割は子育てや教育に使っています。
寄付が減ってしまうと、様々な取り組みが遅れたり、取り組み自体ができなくなったり、さらに長期的に考えれば、また財政状況が悪化していくことも当然あり得ます。
さらに借金もまだ1000億円以上ある状態です。
6月からの新たなふるさと納税に参加できれば、アマゾンギフト券はやらず、2018年度で十分潤ったかと思いきや、まだ1000億円以上の借金があるとの回答だった。
泉佐野市は政府から目をつけられてきたが、その反面あっと驚く方法で人々が本当に欲しがる返礼品を提案してきたともいえる。ふるさと納税を巡る戦いはまだまだ続きそうだ。